プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第6回 <2019年度連載>

第6回 2020年度からの新大学入試④
「3つの方針」を通じて、自分自身のことを考えてみよう

各大学が提示する「学びのストーリー」を読み解こう

「2020年度からの新大学入試」というテーマで、第3回ではディプロマ・ポリシー(DP)、第4回ではカリキュラム・ポリシー(CP)についてそれぞれ解説しました。そして第5回はアドミッション・ポリシー(AP)について解説しました。

大学や学部ごとに掲げる「卒業時の成長イメージ」は異なること、学生の学びのために用意している具体的なカリキュラムや学習環境にも個性があること、そのため受験生に求める資質・能力や学力のあり方も大学ごとに違うこと……などがポイントです。
受験生やその保護者から、これまで大学4年間の学びはブラックボックスのように見えていたと思います。
大学案内は大学の「入口」つまり入試のことと「出口」つまり就職実績や各種資格の合格率などについては細かに説明してくれます。

しかし、その間「どんな学生が、どんな授業や課題に取り組みながら、どう4年間を過ごして、どういう過程を経て、こういう成果を出したの?」という点についての説明はまちまちでした。

そのことが結果的に、高校生の側へ「この大学に入りさえすれば、全員が間違いなく就職できる」「入試に受かりさえすれば一安心」といったイメージを与えることもあったのではないでしょうか。
これまで3回の記事で解説した「3つの方針」とは、このブラックボックスを「透明ボックス」にするための仕組み。
4年間の学びのステップをできる限り具体的にイメージしてもらおうというわけです。

AP、CP、DPから読み取れるのは、各大学が掲げる学びのストーリー。

それが受験する側の思い描く自身の成長ストーリーとマッチしているようなら、その人に合った進学先である可能性は高いでしょう。

偏差値が近い大学は、教育の内容も同じようなものだろう……と考える受験生は今も昔も少なくありませんが、それは大きな間違いなのです。

「自分で考え、自分で選ぶ」経験は、将来にわたって活かされる

第1回のコラムで、私は以下のように述べました。

保護者世代にとっての「普通の人生」が、子どもにとって最適な選択肢とは限らない。このことを高校生本人はもちろん、保護者の方もまず知っておいた方が良いと私は思います。知った上で、「自分はどう生きたいのだろうか」と少しずつ考えながら、自分の進路の価値基準を育んでいけば良いのだと思います。


自分でクルマの運転席に座り、自らハンドルを握って、霧のかかった道を運転していく。道が途切れてしまっても諦めない。様々なツールを駆使して周囲の状況を把握しながら、ときには迂回路を探し、ときには全力で走り抜けて、目指す方向へ進んでいく。そんなキャリアイメージを持った人の方が、今後は本当の意味でリスクに強いと言えるのではないでしょうか。

各大学は「3つの方針」を通じて、それぞれが大事にしている教育・研究のビジョンや価値基準、学びで身につく具体的なスキルなどを提示しています。
受験する高校生の側もまた、それぞれが大事にしている価値基準を問われることになるのです。

学びのストーリーはもちろん、実際には4年間で完結するわけではありません。
高校生にはその前の大事な3年間がありますね。
高校生活を通じて経験したこと、考えたこと、身に付けたこと。
それらも大事なストーリーの一部です。むしろ、そこをもとに学びのストーリーが始まるといって良いでしょう。
高校で学ぶ今の自分、受験時の自分、大学で学ぶ自分、社会で活躍する自分。
この4点を自分なりのストーリーとしてイメージできるか、考えてみてください。

社会に出てからのイメージは、別に具体的な職業などでなくて構いません。
「こんな力を身につけたい」とか、「こんな社会問題に関わっていきたい」とか「国際的な技術者になりたい」とか、漠然としたものでもOK。

あいまいな部分があっても構いませんし、学んでいる間に目指す方向が変わることもあるでしょう。
それでも今「本気で学びに行くぞ!」と強く思える程度にはしっかり考えておいて欲しいのです。

大事なのは「自分自身で真剣に考え、選ぶ」ということ。
それも「遊ぶのに便利そうな立地だ」などと消費者・お客様として選ぶのではなく、「学ぶ場」として選ぶということです。

挑戦の場を自分で選ぶ経験を重ねていくプロセスこそが、進路学習で最も大事な部分なのですから。
大人が提示するゴールをただ目指しているだけでは、絶対に身につかない力がここにあります。この過程で考えたことは、将来に渡って本人の力になるはず。
「3つの方針」も、その教材としてぜひ活用してみてください。

(ご参考)産業能率大学の三つの方針

倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/