プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第1回 <2019年度連載>

第1回 結婚もマイホーム購入も当たり前じゃない! いまの高校生の将来像とは

保護者世代をモデルにした「普通の人生」を、いまの高校生は送らない

高校生に向けた進路講演やキャリア授業のなかで、彼らの人生観を問う質問をしばしば行っています。たとえば「結婚したい? するとしたら何歳までが良い?」といったものです。すると、全国どこでも「30歳までに結婚し、子どもを二人程度もうける。理想としてはマイホームを買う。これが普通の人生であり、自分もほぼこのように生きるのだと思う」と思い描いている高校生が少なくないことに気づかされます。

現実のデータを見れば、30歳までに結婚している人はそう多くありません。それどころか2030年時点での生涯未婚率は女性で22.6%、男性で29.5%に達する見込みです(※1)。現在の高校生なら女性の4人に一人、男性の3人に一人程度は生涯独身で過ごすかもしれません。人生のあり方が多様になったわけですね。

しかし、一般的な高校生は、結婚の実態など当然まだまだ知りません。知っているのは「保護者など、周囲の大人の多くは30歳頃までに結婚していた」ということだけ。それで無意識のうちに保護者世代が送ってきたライフストーリーの影響を受け、それを進路検討の前提にしてしまっているのです。

結婚だけではありません。大学に行くべきか、どんな学部・学科を選ぶべきか、どんな資格を取得すべきか、どんな就職をすべきか、子どもをいつ何人産みたいか……こうした選択のすべてにおいて、保護者世代が経験した状況と、高校生世代がこれから迎える状況は大きく異なっています。生き方が多様化し、「標準的な人生」のモデルなど既にないことを、各種のデータは示しています。

保護者世代にとっての「普通の人生」が、子どもにとって最適な選択肢とは限らない。このことを高校生本人はもちろん、保護者の方もまず知っておいた方が良いと私は思います。知った上で、「自分はどう生きたいのだろうか」と少しずつ考えながら、自分の進路の価値基準を育んでいけば良いのだと思います。

本当の意味で「リスクに強い」働き方とは

高校・大学卒業後のキャリアのあり方も変化しています。長く日本の企業は「メンバーシップ型雇用」と言われるシステムを採用してきました。一度正社員として採用したら、たとえ会社の事業に変化があっても柔軟に配置転換などを行い、可能な限り雇用を守るという仕組み。年功序列、終身雇用などの考え方とひもづいて、長く日本の企業人の人生を支えてきたシステムです。

しかし、今後は日本でも、担当する業務範囲や求められる知識・スキルなどを明確に定め、ポストごとに雇用を管理する「ジョブ型雇用」への転換が少しずつ進んでいくと考えられます。グローバル化にともなう競争激化や、多文化・多国籍な労働環境の広がり、社会保障制度を取り巻く環境の変化など、様々な理由でメンバーシップ型雇用システムの維持が困難になってきていることが背景にはあります。

「長く勤められる職場」を我が子に望む保護者は、今も昔も少なくありません。その代表は一部上場企業や公務員などでしょうか。こうした職場を選ぶことが、親を安心させるという意味で「親孝行」なんて表現されることもあります。しかしこうした労働環境の変化を踏まえると、保護者の方も子どもの進路に関する考え方を少し改める必要があるのだろうと思います。

あるとき都内で学ぶ大学生に「マイホームを購入したいか」と問うたのですが、50人以上いた学生の、ほぼ全員がノーと答えました。上述したようなキャリア環境の変化を考えれば、生涯同じエリアで暮らし続けることや35年もの長期ローンを組むことはとても想像つかない、というのが主な理由でした。彼らなりに、総合的なメリットとリスクを勘案した結果なのでしょう。彼らには彼らの世代のリアルがあるのです。
高校生の進学先選びや、大学生の就職先選びは、これまで「どの列車に乗って行けば目的地に着けるか?」という、列車選びのようなイメージで語られることが多かったのではと思います。一流大学や一流企業はさながら快適な特急列車。席を確保さえできれば、あとは自分で降りない限り、乗った列車がゴールまで勝手に連れて行ってくれる。そのチケットを奪い合う競争は大変で、だからこそ保護者も「安泰そうな列車」に我が子を乗せたいと願っていたはずです。

しかし、現在はレールが突然途切れていたり、安全そうに見えていた車両が突然脱線したりと、油断ができない社会状況です。どんな列車も安心できません。
自分でクルマの運転席に座り、自らハンドルを握って、霧のかかった道を運転していく。道が途切れてしまっても諦めない。様々なツールを駆使して周囲の状況を把握しながら、ときには迂回路を探し、ときには全力で走り抜けて、目指す方向へ進んでいく。そんなキャリアイメージを持った人の方が、今後は本当の意味でリスクに強いと言えるのではないでしょうか。

保護者はみな我が子に安定を望むものですが、そのために必要な条件は時代によって変化します。保護者にとって理想的な選択肢を「正解」として提示することが、我が子にとっても良いとは限らない。このことを、すべての進路検討の前提に置いてみていただければと思います。
※1:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(平成20年3月推計)
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/