プロが教える「進路づくり」 第2回 <2023年度連載>

第2回 保護者世代からこんなに変わった!大学教育と大学入試の「今」

【保護者世代の大学像を、子どもに押しつけないようにしましょう】

今からおよそ30年前、1992年の18歳人口は約208万人でした。四年制大学へ進学するのは4人に1人程度で、大卒がまだ少数派だった時代です。それに対し、2022年の18歳人口は111万人。大学進学率は57.2%で、高校生の過半数が大学へ行く時代になりました。

 大学で学んだ保護者の方の中には、
「受験勉強は大変だけど、大学生になったら遊べるぞ。お父さんもアルバイトとサークル活動で人間力を磨いたもんだ」
「どの学部でも、名の知られた総合大学に入れば就職は何とかなるさ」
……などなど、「ご自身が若い頃の大学生像」に基づいて我が子にアドバイスをされる方もいらっしゃるようです。でも、大学を取り巻く社会状況はすっかり変わりました。こうした助言がむしろ今の若者を混乱させてしまうこともあります。

 かつて大学生活は、辛く苦しい受験勉強を乗り越えたご褒美として与えられる、自由なモラトリアム期間のように思われていたことがありました。難関大学の入試を突破したという事実が社会で価値を持ち、進学後にどれだけ学んだかは就職時にそこまで評価されなかった。教育の特色ではなく、ブランド力で進学先を選ぶ方も多かったのではと思います。

 現在は違います。例えば同じ「経営学部」でも、大学によって掲げる教育方針やカリキュラム、授業スタイルなどには大きな差があります。一年次からアクティブラーニング形式の授業でグループワークの経験を積ませる大学がある一方で、大教室で教授の話を聞き続ける講義が中心という大学もあります。企業と協働して実践的な授業を行う大学もあれば、複雑で高度な経営理論を学究的に習得させる大学もあります。就職支援が手厚い、資格の合格率が高い、留学に力を入れている等々、それぞれの大学が強みとするポイントは違います。

 本人が望む成長のイメージと選んだ環境がマッチするなら、高い意欲を持って急速に成長できるでしょう。逆にミスマッチによって学習意欲を失い、留年・中退する学生も保護者の皆様が想像している以上に実は多いのです。ブランド大学の学生でも4年間を無為に過ごせば就職活動で厳しい評価を受けますし、大学名に依存せず、高いパフォーマンスを示して数多くの内定を得る学生だっています。

【自分に合う大学を探すことは、入試の準備にも繋がる】

入試の姿も変わりました。筆記試験中心の一般選抜で入学した学生の比率は、私大なら半数以下。多面的・総合的に受験生の資質や能力を評価する、総合型選抜や学校推薦型選抜での進学者が増加しています。進学後に伸びるかどうかを、大学は丁寧に見極めたいのです。自校の教育方針に合う学生なら伸びる可能性は高いが、そうでないならミスマッチを起こすかも知れない。それを判断するために手を尽くして様々な入試を行っているわけです。これは言い換えると、自分に合った大学なら合格しやすいし、合わない大学なら受かりにくいということでもあります。自分に合った大学を探すことは、そのまま入試対策にも繋がります。

(参考)
■大学が入試で確認したい、たった一つのこととは 
■総合型選抜、AO入試とは何なのか? 
■推薦入試がいよいよスタート! 失敗しがちなポイントを知っておこう 
学生の多様性を確保するという狙いも大学側にはあります。バラエティに富んだ学生が揃っていた方が、授業で多様な意見が出されて議論が活性化されますし、学生同士が刺激を与え合うことでキャンパス全体も活性化されるからです。受験生の側にとっても、自分の強みに合わせたPR法を選べるという点は大きなメリットですね。

 「何のために進学するのか」を考えながら、入学難易度(偏差値)の数字からは見えにくい教育の中味を比較検討することが進学先選びにおいても、あるいは入試の準備としても非常に重要になったのです。脇目も振らず基礎学力アップの勉強に集中し、高校3年生の夏あたりから模試の成績を見て志望校を考え始めれば十分……などという昔の受験スタイルは、今の時代に適しません。ぜひ早くから、各大学の教育の中味を比較してみてください。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/