プロが教える「進路づくり」 第3回 <2022年度連載>

第3回 総合型選抜、AO入試とは何なのか?

【総合型選抜(AO入試)って、そもそも何が目的なの?】

全国の大学で行われている、総合型選抜。かつてはAO入試という名称が広く使われていました。多くの受験生が利用している一方、「基礎学力を問われないから楽に受かりそう」「特別な活動実績がないと受からなさそう」なんて誤解をしばしば耳にすることも。これから出願シーズンに入りますので、改めて総合型選抜についてご説明したいと思います。

 「AO」とはAdmissions Officeの略で、元々はアメリカの大学に由来する言葉です。アメリカの大学では一般的に、学校の成績やエッセイ、推薦状、課外活動、テストの結果、面接などの様々な資料をもとに、総合的な判断で入学の可否を決定します。かつての日本のようにテストのスコアだけで機械的に合否を決めるやり方は、一般的ではありません。人格形成を重要な柱とするリベラルアーツ教育の伝統がアメリカの大学教育にはあり、そのために学生の多様性が重視されてきた……という歴史的な背景もあります。こうした入学者選抜を取り仕切るのが、各大学にあるAdmissions Officeというチームです。

 日本では1990年に、慶應義塾大学がAO入試という名称を最初に使いました。学部の新設にあたり、その教育方針にマッチする受験生を積極的に受け入れたい。ついては学力テスト以外の様々な活動履歴や実績、志望動機、学びに関する考えなどを評価したい、という趣旨で始まったものです。この「基礎学力以外の様々な個性や能力を総合的に評価する」というスタイルが多くの大学によって採り入れられ、全国へ広がっていきました。国の高大接続改革の一環として、2020年度よりAO入試は「総合型選抜」と名称を変え、今に至ります。文部科学省によれば、2021年度の入学者選抜では私立大学の90.8%、国立大学でも76.8%が総合型選抜を実施しているそうです(※1)。

 アメリカのAdmissions Officeが行う入試と、日本のAO入試はもともと同じではありません。慶應大が始めたのはいわば「日本版AO入試」。たとえばアメリカの大学では総合評価の中で基礎学力も問いますが、かつてのAO入試は日本の入試を取り巻くルールの影響などもあり、基礎学力を問わないものがほとんどでした。冒頭で挙げた誤解はそのときの名残かもしれません。ですが2020年以降は総合型選抜でも、調査書やテストなどを通じて基礎学力や学習習慣の有無を評価する大学が増えています。その意味では、アメリカの選抜スタイルに近づいているのかも知れませんね。
※1:文部科学省「令和3年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」より

【「その学科で活躍する学生」を見抜くため、大学は多様な入試方式を用意している】

「総合型選抜で入学した学生は、一般選抜の入学者より大学での成績が悪い」なんて意見をしばしばネット上などでも見かけますが、これは正しくありません。むしろ逆に、総合型選抜の入学者が最も高い成績を残している大学や学部が少なくないのです。目的意識が明確である、主体性がある、自らの頭で正解のない問いに向き合える……といった要素は、基礎学力テストの点数と同じくらい、実は大学進学後に重要な意味を持っています。

 大学にもよりますが、「特別な活動実績や成果」も必須とは限りません。総合型選抜はそもそも、進学後に伸びる学生に入学してもらうために行われています。過去の実績は「これから伸びるかどうか」という成長可能性を判断する材料のひとつ。輝かしい成績があれば受かるとは限りません。むしろ様々な挑戦を通じて何を考え何に気づいたか、どのような成長を遂げたのか……というプロセスの方に重きを置く大学が少なくありません。特別な実績がないからと悩まず、ぜひ自信を持って臨んでください。

 進学後の伸びを重視するわけですので、総合型選抜の内容は大学や学科によって千差万別です。たとえば産業能率大学ではAO方式、AL方式、キャリア教育接続方式、MI方式という4種類の総合型選抜が用意されていますが、各学科がどのような教育を行い、どのような人材を求めているかが各方式の内容に反映されているように思います。自己記述書の記述量のほか、グループ討論やプレゼン、レポートなどの位置づけもそれぞれ個性的ですね。志願者の様々な良い点を評価したいという大学の姿勢が伺えます。入試は大学から受験生へのメッセージ。「私に合う入試かも」と思うものがあるなら、あなたにマッチする学科である可能性も高いのではと思います。

 なお総合型選抜は専願を条件として掲げるものが多いのですが、産業能率大学のMI(マーケティング・イニシアティブ)方式は他大学との併願が可能です。総合型選抜は志願者の多様な資質や能力を評価し、大学とのマッチングを重視する入試。その条件を満たす大学が1校だけとは限りませんよね。併願可能な総合型選抜というのは今後、増えていくのではないかと思います。
 日本全体で、総合型選抜での入学者数は今後も拡大していく見込みです。ぜひ、各大学の入試内容に注目してみてください。あなたの努力や挑戦を評価してくれる大学は必ずあります。

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倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/