プロが教える「進路づくり」 第7回 <2022年度連載>

第7回 ミスマッチをなくすための、併願校の選び方

【やってしまった! 私の失敗談】

実は私、ほとんど中味を知らない大学に進学しました。
 高校3年生の頃、私は地元の国立大学を第一志望とする受験生でした。当時は総合型選抜のような仕組みはまだ一般的でなく、推薦入試の枠も今ほど多くはない時代。大学受験とは冬から始まる一般入試だ、というのが常識とされていた頃です。

 憧れの大学は誰だって熱心にリサーチします。当時はオープンキャンパスという行事も浸透していなかったので、私は高校2年生のうちから第一志望大学の学園祭に出かけていました。とても楽しく、志望校への想いはなお膨らみました。大学案内は隅まで熟読し、過去問題は何度も解き直しました。第二志望校も、第一志望ほどの熱意でないとは言え、事前に見学に行きました。

 ところで受験となれば、憧れのチャレンジ校だけ受けるという訳にもいきません。入学難易度に基づき、実力相応校や安全校といった併願先も考える必要があります。しかし未熟だった当時の私は完全に偏差値というモノサシ、国立や難関大といったイメージだけで大学のことを捉えておりました。MARCHや日東駒専といった受験業界の括りに沿っていくつかの併願先を決めたのですが、その括りの中で志望先を選んだ基準は正直、キャンパスの立地とぼんやりしたブランドイメージくらいだったように思います。

 「滑り止めとして一応…」と考えていた最後の出願先に至っては、ろくに中味を調べていませんでした。過去問題集が家になく、大学案内もほとんど読まず、入試当日に初めてキャンパスを訪れたという有様。そして結果、私はその大学にしか受かりませんでした。

 受験終了当初は、想定していなかった結果にとても落ち込みました。でも実際に進学してみると、私が学びたかった分野で、その進学先はとても評価が高い大学の一つであることを知りました。卒業生は活躍しており、教授の研究水準は高い。授業はどれも面白く、楽しい毎日でした。そして「なぜ、こんなに重要なことを調べていなかったのか?」と恐ろしくなりました。偏差値だけで選ぶなら、他の大学に行っていた可能性もあったからです。良いと思える大学に行けたのは、たまたまでした。

【進学後のミスマッチを予防するために、併願校も中味を丁寧に調べよう】

一般選抜をお考えの皆様はこの時期、模試の結果などを見ながら、最終的な出願先を検討されているのではと思います。かつての私と同じ過ちを犯さぬよう、ぜひ併願先の「中味」も入念にチェックしてください。

 保護者や先生方向けのコラムなので申し上げます。憧れの第一志望校は、入試難易度の面では文字通り「チャレンジ」の位置づけ。高みを目指すほど、当然ながら不合格になる可能性もあります。ズバリ言えば、ご本人が入学する可能性が最も高いのはおそらく、実力相応校と捉えている大学。私のように、軽視していた安全校に落ち着くケースも少なくないのです。併願先を丁寧に選ぶというのは、進学後のミスマッチを防ぐ上で極めて重要です。

 すべての受験先を、進学しても後悔しないかどうか、「ここでも私がやりたいことはできる!」と思えるかどうかで選んでください。そうでないなら受験の意味がありません。どのような人材を育成するかという教育方針、カリキュラムの内訳、特色ある教育プログラム、そして教員達の顔ぶれや研究テーマ等々。第一志望と同じように、そこに進学した場合の4年間を想像してみてください。

 これまでアクセスしてみた大学すべてを思い出し、整理してみても良いと思います。たとえば大規模大学と小規模大学の両方を訪れたのであれば、それぞれをどう感じたか。どちらが自分に合うと思ったか。都市部と郊外、総合大学と単科大学、共学と女子大、研究重視と教育重視、講義中心とアクティブラーニング中心、などなど大学を比較する軸は様々です。様々な軸で比べたときに「私、こういう大学で学ぶと伸びそう」といった、進学先選びの手掛かりが見つかってくるかもしれません。「MARCHのどれか」「日東駒専から近いところ」なんて適当な選び方では、後悔しかねません。日東駒専の4校だって中味は千差万別ですし、もっと小規模の大学の方が伸び伸び学べるという方も多いのです。

 本コラムの過去記事もご参考にしていただければ幸いです。
■正規雇用率や留年率など、データでわかる大学の実力
■オンラインの情報で大学の実力を見極めるためのポイント
■2020年度からの新大学入試④:「3つの方針」を通じて、自分自身のことを考えてみよう

 高校1、2年生の頃から意識的に多様な大学を比較していると、併願先選びの際に役立ちます。高校の先生方にはぜひ早くから多様な比較軸を意識し、環境や方針が異なる大学を比べるよう生徒の皆様へアドバイスをしていただければと思います。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/