プロが教える「進路づくり」 第7回 <2021年度連載>

第7回 正規雇用率や留年率など、データでわかる大学の実力

客観的な数字から、大学の教育力が見えてくる

「コロナ禍で大学見学の機会が制限されていた。生徒達が志望校のことを十分に理解できたか、心配です」

そんなご相談を、高校の先生方からしばしばいただきます。「複数のオープンキャンパスに必ず行きなさい」とは指導しにくい社会状況が続いてきました。オンラインでの広報にシフトしていた大学もありますし、対面開催のイベントも定員を絞っての事前予約制というケースが大半で、機を逃した生徒もいるとのこと。

もちろんキャンパスに行けないからといって、大学理解が不完全とは限りません。オンラインでの情報から読み解ける情報だって多いはずです。とは言え、いつも頼りにしていたイベントが普段通り利用できなかったことに、不安を感じる気持ちもわかります。

大学の教育力を知る方法は、ざっくり分けて2通りあります。第一は、データや数値で調べ、比較すること。第二が、実際の教育を自分で体感することです。オープンキャンパスは、どちらかと言えば後者のアプローチですね。そこで今回は、データや数値で大学の教育力を知る方法をお伝えします。

さっそくですが、以下のグラフをご覧ください。
出典は読売新聞教育ネットワーク事務局『大学の実力2019』(中央公論新社、2018.9)。3年近く前に出た本なので最新のデータとは言えませんが、このシリーズは続刊が出ていないため、こちらから引用しました。

正規雇用率とは文字通り、正規雇用(正社員)として就職した学生の割合です。ここだけの話ですが、大学が発表する就職率や就職実績には、非正規雇用が含まれている例も少なくありません。加えて多くの場合、「就職希望者数」を母数として算出されています。早くに中退した学生の実態は反映されませんし、就職を年度途中で断念して翌年での再挑戦を決めた学生をその年の就職希望者数から除くなどして、実態よりも数字を高く見せることも可能です。その点、この読売のデータは「4年前の入学者数」を母数にしており、しかも同じ条件で各大学を比較できますので、より先生方や保護者の皆様の参考になるはずです。

留年率は同様に、4年前の入学者数を母数にして、4年後時点での留年率を算出したものです。

それぞれ7つの大学・学部で比較してみました。具体的には、<青山学院大学経営学部、駒澤大学経営学部、産業能率大学経営学部、専修大学経営学部、東京経済大学経営学部、東洋大学経営学部、日本大学商学部>の7大学ですが、産業能率大学以外の大学名は、ここでは伏せておきます。気になる方は、ご自身で『大学の実力2019』をご確認ください。

これらを見る限り、産業能率大学は7大学の中で「留年者が少なく、かつ正規雇用率の高い大学」ということになります。各種の大学ランキングで、産業能率大学は「就職に力を入れている大学」「面倒見の良い大学」といった評価を受けていますが(※1)、データも確かに、こうした評価を裏付けているようです。

いかがでしょう。入学難易度やキャンパスの雰囲気だけではわからない教育力が見えてきませんか。残念ながら、大学が制作するパンフレットやウェブサイトに、こうしたリアルなデータが掲載されることは稀です。数字が一人歩きし、高校生が表面的なイメージで大学を評価しないかと、大学の方々も心配なのでしょう。とは言え、進学先の比較検討に活かせる重要なデータであることは間違いありません。

(※1):大学通信2021年度調査「全国の高等学校の進路指導教諭が評価する大学」より

自分に合ったモノサシで大学を測ることが大事

ここでは正規雇用率と留年率で大学を比較しました。もちろん違う指標で見れば、違う側面が見えてくるでしょう。たとえば公務員の採用実績や、難関資格の合格者数などで比較すれば、また違った大学ごとの強みがわかるかもしれません。

だからこそ、受験生の側も「どんなモノサシで測るか」が問われます。たとえば各種の奨学金や、国による高等教育の修学支援新制度などを利用する方にとって、正規雇用率や留年率はかなり重要なはず。多くの場合、留年するとこうした経済支援は停止されますし、正規雇用に就けないと貸与型奨学金の返済は大変です。でも「何年かかっても良いから、この難関資格を取りたい」「1~2年くらいアフリカに留学したい」といった希望を持つ方なら、資格の合格実績や交換留学先の情報がより重要でしょう。

各メディアが定期的に発表する大学ランキングも同様です。「総合1位」といった総合順位は読者の目を引きますが、「国際性のスコアで高い評価を受けているのはどの大学かな」など、個別の評価軸の順位を参考にした方が、受験生にとって得るものは多いはずです。

コロナ禍で見学の機会が制限されているからこそ、こうした客観的なデータもうまく活用し、本人に合った大学・学部を探す参考にしていただければと思います。

(ご参考)産業能率大学の就職状況

倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/