プロが教える「進路づくり」 第3回 <2021年度連載>

第3回 マンガ、アニメ、ゲームと、大学で学ぶ経営学の関係

マンガ、アニメ、ゲームは、ビジネスの観点で見ると様々な可能性が

高校で保護者向けに講演をした後、よくいただく質問の一つが「ウチの子には好きなことがない。その場合、どのように進路を選べば良いでしょうか」というものです。実のところ進路を決める方法は様々ですので、好きなものがないからと焦る必要はありません。

ただ、好きなことはあるのだけど、進路選択に関係があると気づいていない、なんて例も多いのかなと感じています。たとえばアニメやマンガ、ゲームが好きという高校生は少なくないのですが、「別に漫画家になるわけではないし」と思って進路選択の要素から外してしまう方もいるようです。進路選択時の希望としてこうしたワードが出てきたら、助言に困ってしまう保護者も正直、多いのではないでしょうか。

でもマンガやアニメだって、学ぶ際のアプローチは様々。たとえば「経営学部でアニメビジネスについて学びたい」だって良いのです。「デジタルマーケティングを学んで、マンガ業界でそれを実践したい」なんていうのも、素晴らしい進学理由だと思います。

たとえばマンガです。出版科学研究所によると、2020年の国内コミック市場は6126億円の規模。同社が統計を始めた1978年以来、最高です(※1)。日本の出版市場全体の規模は1兆6169億円で、実に約38%をマンガが占めています(※2)。ここには当然ながらコンテンツを創作する漫画家や編集者のほか、様々な企画や広報、流通、販売と数多くの専門家が関わっています。様々な業種とのコラボや商品化など、版権ビジネスとしても裾野が大きいですね。ヒット作がドラマや映画、アニメ、ゲーム等になることも多く、まさに日本のコンテンツビジネスの中核と言えます。

邦画の歴代興行収入トップ10のうち、アニメが8作品を占めるなど、アニメを取り巻く状況も変わりました。テレビでの放送、劇場版アニメの興行収入、ネット配信、音楽、商品化権といった広義のアニメ産業の国内市場規模は、2019年で約1兆2,000億円(※3)。放送・放映する際の収益だけではなく、その後も様々な形で利益を生んでいくビジネスモデルなのですね。ほら、面白そうだと思いませんか?

本人の「好き」を否定せず、それを切り口に進路観を広げてみて

マンガやアニメは、大学で学ぶビジネス戦略やマーケティングの実践を考える上で、格好の題材だと思います。実験的なビジネスの試みが次々と行われる現場ですし、日本がグローバル市場で勝負できる強みを持った分野でもあります。

コンテンツ制作から編集、流通、そして消費者が楽しむところまですべてデジタルプラットフォームで完結するという点も、デジタルマーケティングの観点で非常に面白い領域です。たとえばスマホのアプリなどでマンガを配信する企業は多いのですが、そこで蓄積される利用データは新人漫画家の育成や商品開発、イベント企画など新たなビジネスのヒントとして活用されています。SNSなど、ソーシャルメディアを活用したプロモーションなども盛んに行われていますね。

アニメ作品の登場キャラクターが歌った曲が音楽の売上チャートに上ることもありますし、それを演じた声優さんがライブを行うなど、イベント事業への展開も近年では注目されています。

ゲームも、かつて中心だった家庭用テレビゲームだけでなく、現在はスマホのゲーム市場が急成長。市場規模は前者が約3,300億円、後者が約1兆3,400億円だそうです(※4)。eスポーツの大会で巨額の賞金を得るプロゲーマーがいたり、YouTuberなどの配信者として稼ぐ方がいたりと、ファミコン世代の倉部としては驚くばかりの変化です。こちらはこちらで、これまで誰も経験してこなかったマーケティングや、新しいビジネスモデルを生み出せる場になりそうです。

本好きが高じて出版業界へ行く、テレビ好きがテレビ局へ就職するなど、エンターテイメントの世界に憧れる若者は昔からいますが、マンガ、アニメ、ゲームはビジネスの広がりと成長可能性という点で、かなり魅力的な分野だと私は思います。

どんなコンテンツにも当然、ビジネスとしての側面があります。高校生の段階でそこに目が行っていないのはある意味、当然。だからこそ社会人としての、保護者の出番です。「アニメと大学進学は関係ないじゃないの!」なんてお子さんに言う前に、まずはビジネスとしての可能性を一緒に考えてみてください。意外と有望な分野なんだなあ……と保護者の方の見え方が変わることもあるでしょうし、お子さんの方から教わることの方が多くなっているかも知れませんよ。

進路のヒントは様々なところにあります。まずはお子さんの「好き」を否定せず、それを切り口にしながら、対話によって一緒に選択肢の幅を広げてみてください
※1:公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の発表(2021年2月25日)より
https://shuppankagaku.com/wp/wp-content/uploads/2021/03/20210225.pdf

※2:公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の発表(2021年1月25日)より
https://shuppankagaku.com/wp/wp-content/uploads/2021/03/20210125.pdf

※3:一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2020」より
https://aja.gr.jp/jigyou/chousa/sangyo_toukei

※4:コンピュータエンターテインメント協会(CESA)「2020CESAゲーム白書」より
https://www.cesa.or.jp/information/release/202007270945.html

(ご参考)産業能率大学のマーケティング、コンテンツビジネスが学べる学科・コース

倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/