プロが教える「進路づくり」 第11回 <2021年度連載>

第11回 入試に合格! ……の後に陥りがちな罠と対処法

受かってからの数ヶ月、その過ごし方次第で大学進学後に失敗も……

年末ですね。受験生の中には、既に総合型選抜や学校推薦型選抜で合格を得た方もいらっしゃることと思います。苦労して受験の準備を進めていたからこそ、きっと解放感もひとしおでしょう。

さぁ何もかも忘れて遊ぼう! ……と、ウキウキ気分の合格者達には申し訳ないのですが、この時期、様々な罠が潜んでいます。保護者の皆様や学校の先生方は、その罠をぜひ知っておいてください。

>>参考:2021年度 第1回 いまこそ考えたい「何のために大学へ行くのか」(リンク)

>>参考:2021年度 第7回 正規雇用率や留年率など、データでわかる大学の実力(リンク)
過去のコラムでも何度かご紹介していますが、大学進学後、予期せぬ留年や中退に陥ってしまう大学生は少なくありません。多くの受験生や保護者がイメージしている以上に、大学では留年や中退は珍しくないのです。その原因の一つはズバリ、学業不振。大学の授業内容が理解できず、授業についていけなくなってしまうのですね。

授業を受けるために必要な基礎学力の種類やレベルは、大学や学部によって異なるのですが、総合型選抜や学校推薦型選抜の合格者の場合、「基礎学力は十分にチェックされていない」というのが大前提になっています。進学に向けた意欲や資質は志望理由書や面接などで評価を受けているものの、測っていない基礎学力については未知数な部分も多い。「これだけ本気で学ぶ意欲があるのなら、大学の授業に向けてしっかり準備をしてくるだろう」という信頼の上で、合格が出されているのです。

受験生は勘違いしがちですが、入学者選抜での合格はあくまでも「スタートラインに立つ許可」に過ぎません。「合格したのだから、きっと授業も大丈夫ってことだろう」「4年後の卒業は確約されたようなものだ」なんて思っていると、痛い目を見ます。

ある大学が過去の学生および卒業生のデータを使い、大規模な調査を実施しました。その結果、判明したことが2点ありました。第一に、大学4年間の総合成績は、大学1年次の終わりにほぼ決まっていたそうです。つまり最初に良いスタートを切れればその後も順調に学習成果を積み上げられるのですが、最初にこけてしまうと立ち上がれないのです。第二に、その分岐点は大学1年次6月の、第一週だったそうです。入学してから二ヶ月後にはほぼ留年が決まっていた、なんてケースが珍しくなかったとのこと。早いですよね。高校3年生の終盤を、学習習慣がほぼない状態で過ごしてしまうと、その影響が後々に残ってしまうのです。

大学に向けて学びのモチベーションを高めるためのポイント

 対処法としてはシンプルで、「羽目を外したくなるのもわかるけど、勉強も続けておきなさい」です。大学の授業が前提としている基礎学力をしっかり身につけておくことはもちろんですが、学習習慣を維持しておくことも非常に大切です。受かるために勉強したのではなく、大学で好きな分野を勉強するために受かったはずなのですから。

 昨今では、早期に合格を得た生徒にも大学入学共通テストの受験を課す、という高校もしばしば見られます。高校時代の総復習という点ではそれも悪くはないのですが、「もう受かっているのに、何でまた受験の対策をしなきゃいけないの」と感じる生徒さんもいるかもしれませんね。

 個人的にオススメなのは、大学進学後の学びを先取りしてみることです。大きい書店には、各学術分野の専門書コーナーもあります。まずは入門書でも良いので、そうしたコーナーで、わくわくする書籍をいくつか買ってみてください。学びに向けてのモチベーションが高まりますし、「数学を結構使うんだなぁ……統計の初歩は、復習しておかないとマズイかも」なんて、復習すべき分野の情報も得られます。

 各大学は海外留学や課外プロジェクトなど、正課の授業以外にも様々な学びの機会を用意しています。ただ、それらを最大限に活かすためには、早めの情報収集や準備もときに必要です。そんな備えを今のうちからしておくのも良いですね。

 なお新生活に向けて、早めにアルバイトを始めたい! ……なんて合格者もしばしば見かけます。個々の事情にもよりますが、アルバイトを決めるのは「4月の履修登録が終わってから」を、個人的にはオススメします。深夜や早朝などにめいっぱいシフトを入れた結果、朝一番の授業に出られなくなったり、課題や試験勉強に時間を使えなくなったりして、学業不振に陥る大学生も少なくないからです。

 授業が始まったら、誰よりも積極的に発言し、誰よりも熱心に課題に取り組む。大学は、そんなアクティブラーナーとしての振る舞いを、総合型選抜や学校推薦型選抜での入学者に期待しています。そのためにも、最初の段階でつまずくことがないよう、準備は万全にしておきましょう。合格しただけで満足するな、どうせなら進学後のエースを目指せ……なんてメッセージを、周囲の大人からぜひ合格者の皆さんへお伝えいただければと思います。

(ご参考)産業能率大学の入学者の声

倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/