プロが教える「進路づくり」 第1回 <2021年度連載>

第1回 いまこそ考えたい「何のために大学へ行くのか」

大事なのは受験の合格ではなく、進学後の学び

「なぜこの大学へ進学したの?」
「この学部を選んだのはどうして?」

こんな質問を、様々な大学の学生によく投げかけています。彼らが挙げる動機は様々ですが、たまに心配な例に出会います。

「自分には特にやりたいことがなかったので、親が強く勧める専門職養成系の学部に進学した。でも授業に興味が持てず、その仕事で活躍できるイメージも持てない。これで良いのかと悩んでいる」

「社会は国公立大学と一部の難関私立大学しか評価しないと先生に言われて受験に臨んだが、結果的に地元の私大にしか受からなかった。いまの授業は楽しいが、自分はこのまま一生ダメなのだという思いがずっとある」

いずれの例も大人は、「本人のために」「良かれと思って」アドバイスをしたはずです。職業に直結する資格を持っていれば就職は安心だから、難関大学という学歴を企業は評価するから……確かに、そこに一定の真理は含まれているかもしれません。

ただし、もっと肝心なことが抜けてしまっています。大学で学ぶのは助言する大人ではなく、進学する本人であるということ。そして進学した場で成長できるかどうかも、やっぱり本人の努力や姿勢次第だということです。それをつい忘れてしまった助言が、結果的にむしろ本人を苦しめたり、成長の機会を奪ったりするという事例が、実は少なくないのです。

2013年に出版された書籍に、「大学がもし100人の村だったら」という、たとえ話が掲載されています。全国の大学入学者を仮に100人の村人に置き換えると、12人は中退し、13人は留年する。30人は就職が決まらないまま卒業し、14人は就職するものの早期退職する。大学を4年間で終え、卒業と同時に就職し、そこで3年以上働いている人はわずか31人に過ぎません(※1)。
これらは実際の調査結果をもとに算出された数字です。数年前のデータであるため、現在とは数字が異なる部分もあるでしょうが、大学合格はゴールではなくスタートに過ぎないという事実は今も変わりません。

※1:山本繁『つまずかない大学選びのルール』2013, ディスカバー・トゥエンティワン

進学後のエースを目指す上で、周囲の大人にできること

冒頭のような助言を大人がつい高校生へしてしまう気持ちも、わかります。できれば将来的にリスクの少ない選択肢を提示してあげたいと考えるのは、自然な親心でもあるでしょう。「まだまだ高校生なのだから、社会の厳しさを知らない。だから大人が現実を教えてあげなければ」なんて意見にも一理はあります。

でもこれからの社会は、先行き不透明なことだらけです。ここ数年、人工知能やロボットが人間の仕事を奪う、グローバル化で企業のあり方が変わる、人口減少で一部の自治体が消滅する、通年採用とジョブ型雇用が日本でも広がる……など、若者の未来を大きく左右しそうな話題が続いていましたが、そこに加えてこのコロナ禍です。リモートワークやオンライン授業など、普及に10年くらいはかかりそうだった変革が、その気になれば実は1ヶ月で実現することを私達は目の当たりにしました。

生涯にわたって安泰そうな選択肢なんて、もう大人にもわかりません。それならば、所属する組織がどうなろうと生き抜ける、タフな人材を目指す方が理にかなっています。リスクが少ない進路を誰かに教えてもらうのではなく、「リスクに強い私」になる。それこそが本当の意味で生涯安泰な人材だと思います。

そのための第一歩として。誰かに言われたからではなく、自分自身で自分の進路を決められる人を目指すというのはいかがでしょうか。高校生のうちからでも、できることは沢山あります。むしろ大学進学という重要なイベントを、学びや成長の機会として活かさないのはもったいないと私は思います。

昨年はコロナ禍により、多くの大学がキャンパスでの対面授業を制限し、オンライン授業主体の教育体制に切り替えました。本来なら同級生や先輩達との交流、サークル活動といったキャンパスライフも大学生活の大事な要素ですが、残念ながらコロナ禍はそこを直撃しました。授業はオンラインでの代替もできますが、キャンパスでの交流はそうもいきません。だからこそ授業自体を本人がわくわくと楽しめるかどうかが、例年以上に問われた一年でした。

何を学ぶか、どこで学ぶか、なぜ学ぶか。そうした問いに対し、主体的な学習者としての答えを自分で出せる。入試での合格をゴールにするのではなく、わくわく学ぶためのスタートと考える。そんな生徒をどうやったら育てられるでしょうか。今後の社会のあり方や大学教育の最新事情に関する解説なども交えながら、「進学後のエース」に向けて周囲の大人ができる支援のあり方を、本コラムでは皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

(ご参考)産業能率大学の高校生対象のイベント

産業能率大学では、高校生が自分の将来について考える3日間の通学講座を春と夏に開催しています。いくつかのテーマについて同年代の人と話し合い、自分の将来について考えます。本プログラムでは、情報活用能力(情報活用能力、考える力、学ぶ力、取捨選択する力)や将来設計能力(夢を抱き、実現するためのプロセス設計能力)、その他、意思決定能力、問題解決能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を伸ばします。
産業能率大学では、オープンキャンパスを7月~9月まで、自由が丘と湘南の両キャンパスで毎月開催(来校型・オンライン型)しています。本学の学びの特色やキャンパスライフを学生が紹介するプログラムが充実している他、保護者ガイダンス、入試ガイダンスも行っています。また、グループワーク体験やキャンパスツアー、模擬授業など、体験型のプログラムもご用意しています。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/