プロが教える「進路づくり」 第3回 <2024年度連載>

第3回 入試の準備は情報戦に? 昔と違う大学リサーチのポイント

【30年前と同じ大学選びをやっていませんか?】

保護者の皆様が高校生だった頃、進学先の大学はどのように選ぶものでしたか?

 私(倉部)は千葉県北西部で高校生活を送っていたのですが、当時の自分も含め、早慶、MARCH、日東駒専といった言葉を気にする受験生は多かったように思います。知名度の高い大学、それもできるだけ入学難易度が高い大学に進学することが「王道」だという空気がありました。成績によっては国公立大学も検討するわけですが、自宅から通える範囲の大学を考える人が多かったでしょうか。

 オープンキャンパスなんてイベントは聞いたことがなく、志望校の様子を感じられる機会は学園祭くらい。大学案内も、私立はともかく、国立大学のそれは白黒印刷の「本当に学生を集める気があるの?」と疑ってしまうクオリティのものでした。

 とにかく教育の中身に関する情報が乏しかったのです。各大学の特色としてわかるのはキャンパスの雰囲気や、「青学や立教、上智は女子が多くて華やからしい」なんてイメージ程度。真剣に調べれば「この分野に強い大学はここ」といった情報もどこかにはあったのでしょうが、ほとんどの高校生には、偏差値ランキングと世間のブランド、自宅からのアクセスくらいしか、大学の違いが見えていなかったのではと思います。

 なので、志望校を決めるタイミングも遅かった。高校3年生の夏・秋頃に、模試の成績と偏差値ランキング表、それと入試の出題傾向などを参考にして検討する方が少なくなかったのではないでしょうか。

 しかし! 現在はこうした状況が一変しました。上述した昔のノリで進学先を決めると痛い目を見ます。30年前の感覚でいた保護者の皆様は、ぜひ考えを改めてください。

【大学リサーチがそのまま入試対策に直結。ポイントは?】

たとえば同じ経営学部でも、明治と立教のそれでは教育方針や教育手法が大きく異なります。「MARCH」といった受験業界の括り方は、そうした違いを見えにくくしますね。進学後に「思っていたのと違う」と後悔する学生も少なくありません。

 教育の中身は大学によって千差万別。現在はオープンキャンパスのほか、高校生が授業を体験できる機会や、詳細な情報をまとめたメディアなども充実しています。中身をしっかり比較してみてください。

 前回までにご紹介した通り、現在は学校推薦型や総合型といった入試で進学する方が増えています。こうした入試では「なぜこの大学、この学部に進学したいのか」という志望動機が問われます。大学の特色をわかっていないと、そもそも合格できません。大学リサーチが、そのまま入試対策に直結しているわけです。そういう意味で、現在の大学入試は「情報戦」の様相を呈しているかも知れません。

 こうなってくると、準備も早めに進めた方が有利になってきますね。高校3年生の夏に初めて大学のことを考える……なんてスケジュールだと、慌ただしくなってしまいそうです。

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<ミスマッチをなくす進路選択のための「3つの理解」>
 【学問・職業理解】(その学部・学科で学べる学問の内容)
 【学校理解】(その大学の特色。他大学との違い)
 【自己理解】(そこでの学びを経て、自分がどのようになりたいのか)
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 上記の「3つの理解」を大学リサーチのガイドにしてみてください。多くの高校生が【学校理解】をおざなりにしがちなのです。でも総合型選抜などでは、大学側はここの理解度を気にします。

 【学校理解】を深めるコツは、まず、できるだけ多くの大学に触れること。それも大規模総合大学と小規模単科大学、研究重視の大学と実学重視の大学、のように、条件が対照的な2校を比較すると効果的です。大学の教育力を測るモノサシは人それぞれ。自分にとって大切なポイントは何だろうか、と考える機会になりますよ。

 オープンキャンパスにはぜひ参加すべきです。模擬授業は【学問・職業理解】の役に立ちますが、【学校理解】を深めたいなら、実際の教育を体験できるプログラムをオススメします。たとえば産業能率大学では、以下のような取り組みが予定されています。

・アクティブラーニング体験DAY

・高校生のためのキャリア開発プログラム

・Weekday Campus Visit

 Weekday Campus Visitは、大学生に混じって、大学の普段の授業を受講するプログラム。リアルな大学の学びを体感できます。様々な大学で実施されているのですが、私の知る高校生は、産業能率大学経営学部と立教大学経営学部のWeekday Campus Visitに参加し、「この2大学は目指している教育の姿が近い気がする……」と語っていました。大学案内で謳われていることが、実際にどのような形で実践されているのかを知ることは、進学先選びや入試に向けた準備の役に立つはずです。

 ただこうした体験型プログラムの多くは、定員を設定しています。人気のものは早々に定員が埋まってしまうことも。気になる取り組みがあったら、ぜひ早めに申し込んでみてください。
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/