プロが教える「進路づくり」 第3回 <2023年度連載>

第3回 大学主催のイベントに参加した方が良い理由

【受け身の姿勢では、進路への理解が深まらないこともある】

最近の大学進学では、「その大学・学部が提供する教育が、本人の希望する学びに合っているか」というマッチングがますます大切になってきています。志望理由などを詳細に問われる総合型選抜や学校推薦型選抜では、進学先についての理解度が入試での合否にも関わりますね。仮に一般選抜で進学する場合も、進学後に「思っていた内容と違う」と後悔するようなことは避けたいところ。様々な大学の教育内容や学習環境を早めにしっかりリサーチし、比較しておいた方がいいでしょう。

 進学でのミスマッチをなくすためには、どのような内容を学ぶかという【学問・職業理解】、他校と異なるその大学の特徴は何かという【学校理解】、そして【自己理解】の3点を段階的に深めていくことが大切です。ただ、様々な大学のパンフレットやウェブサイトを読み比べても、「少人数教育」など似たようなフレーズが多く、あまり違いがわからない……なんて声もしばしば聞きます。また学校理解を深める上では、就職率や資格の合格率といったデータも参考になるのですが、「普段の授業のスタイルはどのようなものか?」「授業では、実際にどのような課題を扱うのか?」など、数字では伝えにくい特色もありますよね。

 「自分は大学を卒業して、どのような自分になりたいのだろうか?」という点についての自己理解も、資料を眺めているだけではなかなか深まりません。たとえば三重県立看護大学は毎年、看護のリアルを伝える特別プログラムを地元の高校生向けに開催しています。看護学部での学びの内容のほか、実際に地域医療の現場で活躍している看護師の方のお話など踏み込んだ内容を伝える取組なのですが、参加者のうち何割かは結果的に、看護系から志望を変えるそうです。「看護師は就職率が高い」といった表面的な話ではない、「あなたは地域医療の現場で活躍したいのですか?」という本質的で深い問いを投げかけられるからでしょう。でも、大事なプロセスだと私は思います。

【お客様ではなく、学習者として参加する取組をお勧め!】

 すべての高校生にお勧めしたいのが、模擬授業よりもちょっと負荷がかかる、特別なプログラムへの参加です。たとえば産業能率大学なら、以下のような取組を行っています。

・高校生のためのキャリア開発プログラム
・アクティブラーニング体験DAY 

 いずれも様々な課題やテーマに対し、グループワークで取り組むプログラムです。楽しくワークを行えるように様々な工夫がなされていますが、とは言えメンバー同士で話し合ったり、プレゼンテーションを行ったりと、それなりに大変ではあるでしょう。それが良いのです。

 オープンキャンパスの模擬授業は、どうしても短時間で学問の楽しい部分を紹介する講義になってしまいがち。学問の楽しさに出会うきっかけとしては良いのですが、「お客様」のように受け身の姿勢で聞いてしまう参加者もいます。それに対し、こうした特別なプログラムでは「学習者」として主体的に参加することが求められます。「私は意外と、グループワークが好きなのかも」「こういう形で4年間勉強したら、憧れの商品企画の仕事に近づけるかな」など、自己理解の助けになります。ときには「私には合わない」と感じる方もいるかも知れませんが、それはそれで大切な気づきでしょう。

 学校理解にも役立ちます。こうしたプログラムを通じて大学側は、「本学はこんな方向性で教育を行っていますよ」「具体的にはこんな取組や環境を用意していますが、いかがですか」……という教育の姿を伝えようとしているのです。

 上記の「高校生のためのキャリア開発プログラム」は、産業能率大学が行う総合型選抜「キャリア教育接続方式」の出願資格にもなっています。また、このキャリア開発プログラムまたは「アクティブラーニング体験DAY」を受講すると、マーケティング学科が行う総合型選抜「AL方式」のALエントリーに参加できる仕組みです。進学後の学びを深く理解した学生に来て欲しいからこそ、このような仕組みを用意しているのでしょう。運営側にとっても手間がかかるプログラムですが、こうしたプログラムや入試の過程もまた、大切な人材育成だと大学は考えているのです。

 こうしたプログラムへの申込受付は、今の時期から始まります。気になるものがあったら、お早めの申込をお勧めします。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/