プロが教える「進路づくり」 第6回 <2021年度連載>

第6回 大学入試が「大学入学者選抜」になった意味

あなたはウチで伸びる人なのか?を大学は気にしている

あなたがイメージする「理想の大学入試」とは、どのような条件を満たす入試でしょうか。これは高校教員に対して研修や講演を行う際に、私がよく行う質問です。参加者同士で議論していただくのですが、よく出される答えは「高校時代の勉強の努力や成果がちゃんと評価される入試」というものです。高校生や保護者の方にも、このような考えをお持ちの方は多いことでしょう。

大学関係者に同じ質問をすると、答えのニュアンスが少し違ってきます。多いのは「入学後の成長度を見抜けるような入試」という回答。高得点な受験生ほど進学後の成績が低い入試では、確かに選抜として不適切ですよね。大学側にとって大事なのは「ウチに入って伸びるかどうか」なのです。

人の成長とは多様な要素の上に成り立つもの。予備校の模試で同成績だった2人の受験生が、同じ大学・学部に進学したとしても、同じように伸びるとは限りません。だから各大学は受験生の潜在的な可能性を読み解くために入試問題を工夫したり、多様な入試方式を用意したりと、様々な試行錯誤を行っているわけです。

さて、ここまで「大学入試」という言葉を使ってきましたが、現在は「大学入学者選抜」が正式な表記です。国による高大接続改革の一環で、このように表記が変化しました。産業能率大学のウェブサイトでもこの言葉が使われています。上述した「大学入学者としての適性を多面的に評価し、学ぶにふさわしい者かどうかを確かめる」という意味合いが、より前面に出た表現だと言えるでしょう。大学はこれまで以上に、「あなたはウチで伸びる人なのか?」を気にしているのです。

一点刻みでの勝負から、「ボーダーを超えているか」を確認するテストへ

2021年の春、産業能率大学が一般選抜で行った「未来構想方式」は、まさに「入試から入学者選抜へ」という変化を象徴的に示す事例として、業界でも話題になりました。以前のコラムでもご紹介しましたが、オンラインで提出する事前記述課題と、試験当日に会場で取り組む「未来構想レポート」の総合評価で合否を決める選抜方式で、正解がひとつに限定されず、創造的な思考力や表現力、多様性などを評価するというのがそのコンセプト。未来構想レポートが「スマホ持込可」だという点も話題を呼びました。

ポイントは、これらの課題に臨むにあたり、大学入学共通テストで3教科250点(得点率50%)以上を取るという条件が課されていたことです。251点でも498点でも、その得点差は合否判定に用いません。あくまでも同大で学ぶために必要とされる、最低限の基礎学力を持ち合わせているかを知るためのボーダーラインという扱いなのです。ラインを超えてさえいれば、後は創造的思考等を問う二種の課題の成果だけで受験生を評価するというわけです。

基礎学力テストのスコアに従って受験生を並べ、一点でも高い方から順番に合格させる「一点刻みの入試」には、公平性を担保するなどのメリットはあるものの、以前から批判も多くありました。このように順位を付けることを主目的にした試験は「競争試験」などと呼ばれます。それに対し、必要な能力を満たしているかどうかを判定する試験は「資格試験」と言われます。資格試験の場合、受験生のなかでの順位にかかわらず、必要な合格水準の得点を超えている方は全員が合格になります。未来構想方式は、基礎学力を競争試験ではなく資格試験の形で問うたということになりますね。産業能率大学のほか、いくつかの大学も同様の発想に基づく入試を行いました。

大学入学者選抜とは文字通り、その大学で学ぶに相応しい者を選ぶための取り組みです。その大学で学ぶに相応しい資質や能力を測ることが目的であり、大学や学部ごとに問われる内容は違って当然です。かといって、あまりに問われる中味がバラバラでは、高校側が対応しきれません。そのあたりのバランスをとりながら、従来型の「大学入試」から本来の「大学入学者選抜」へ移行させていくための試行錯誤が、未来構想方式をはじめとする様々な事例であったのでしょう。今後、この発想は大学全体に広がっていく可能性があります。

基礎学力も大事だし、「大学で、どのような成長を遂げたいか。自分のイメージと、その大学の教育は合っているか」というマッチングの視点も大事。大学入学者選抜の時代は、ますます大学と高校生の相互理解が試されることになりそうです。大学は、その理解を深めるためのイベントやプログラムを設けています。高校生の皆さんには、ぜひ積極的に様々な大学の企画へ飛び込んでみていただきたいと思います。
・一般選抜 未来構想方式(リンク) 
NEW【5教科型】
①大学入学共通テスト5教科5科目の総合得点
②事前記述課題および未来構想レポート
の総合判定
※未来構想方式5教科型で合格した受験生は、学費が国立大学程度に減免されます。

【3教科型】
①大学入学共通テスト3教科3科目(外国語・国語必須)250点以上(500点満点)
②事前記述課題および未来構想レポート
合否判定は②事前記述課題2割、未来構想レポート8割の比率で総合判定

・総合型選抜 AL(アクティブラーニング)方式【併願型】 
SANNOでは初の総合型選抜で併願が可能となる方式です。以下による総合評価で選考します。
①社会課題に関するレポート作成 ※スマートフォン等持ち込み可
②レポート作成プロセスでの気づき、思考したプロセスについてのプレゼンテーション
③自己記述書
④面接
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/