プロが教える「進路づくり」 第10回 <2020年度連載>

第10回 基礎学力だけでは受からない?一般選抜の新たなスタイル

基礎学力も求めつつ、自由な発想力や思考力、創造性も評価する入試

産業能率大学が発表した新しい入試「一般選抜:未来構想方式」が、話題を呼んでいるようです。

■「スマホなど使用可 新方式の入試 来年導入へ 産業能率大学」(NHK)
NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201211/k10012759201000.html(外部リンク)

上記の報道では「スマートフォンを持ち込める」という点がフォーカスされていますね。大学がサンプル問題を公開していますので、皆様もぜひ見てみてください。スマホ持込可という部分から「簡単に解けそう」という印象を持つ方もいるかも知れませんが、サンプル問題を見れば、むしろ単純な知識の暗記量を求める試験よりもずっと、アタマの基礎体力が必要だとわかります。

このサンプル問題の内容だけ見ても、大学が様々なメッセージを受験生へ投げかけていることが伺えます。この未来構想方式については、先日、私、倉部が産業能率大学の杉田教授へいろいろとお話を伺ってきました。その様子が動画(リンク)としてアップされていますので、よろしければそちらもご覧ください。

未来構想方式の選考の流れ

本コラムではこの未来構想方式の、もう一つの特徴について述べます。それはズバリ、入試全体の流れです。

「未来構想方式」選考の流れ
①大学入学共通テスト
3教科(外国語・国語必須)250点(得点率50%)以上
②事前記述課題 400~600字程度、出願期間中にインターネットシステムにて記述
3教科(外国語・国語必須)8段階で評価
③未来構想レポート A42枚程度、試験日に記述
8段階で評価
④事前記述課題と未来構想レポートを総合評価
⑤総合評価の高い受験生から合格
※未来構想レポート評価を重視する。
上の①と④にご注目ください。まずこの未来構想方式では、大学の指定に沿って「大学入学共通テスト」を3教科以上受験し、3教科500点満点のうち250点以上をとらなければ、次の選考へ進めません。基礎学力をしっかり確認するということですね。

でも、それをクリアした志願者の合否は、②の事前記述課題と、③の未来構想レポートだけで評価するのです。①の結果が251点だろうと、499点だろうと、そこに評価の差は付きません。①は「本学の授業を受けるために必要な最低限の基礎学力を持っているかどうか」の確認なんですね。合否判定にあたり、志願者同士に評価の差をつけるのは、②と③です。

これまでの大学入試は、ややもすると「筆記試験の点数だけしか見ない一般入試」と、「基礎学力を不問にする推薦・AO入試」のように、極端な二択のどちらかになる傾向がありました。前者は「一点刻みの入試」としばしば揶揄されるように、細かな得点テクニックに走る学習を受験生に促したり、模試の偏差値だけで進学先を選ぶ結果を生んだりと、必ずしも入学後に伸びる学生を選抜できていないのでは……という問題を抱えていました。
後者は後者で、やる気や資質はあるけど学力不足でドロップアウトする学生や、受かった後に勉強を辞めてしまう高校生を増やしてしまうのでは……と懸念されてきました。

そこで国が進める高大接続改革では、①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性・多様性・協働性、という「学力の三要素」に基づき、総合的・多面的な観点で受験生を評価するよう大学へ求めてきたのです。産業能率大学の未来構想方式は、まさにその趣旨に沿いつつ、これまでの入試が抱えていた課題をクリアする仕組みになっていると私は思います。

この二段階方式ですが、実は他の大学でも少しずつ事例が出てきています。例えば立命館大学経営学部の「経営学部で学ぶ感性+共通テスト」方式なども大学入学共通テスト(得点率65%以上)を合格の要件とし、大学独自の発想力・構想力・文章表現力等を通じ、「感性」を評価する試験を実施するというものです。恐らく今後、このスタイルはさらに多くの大学へ広がっていくものと思います。

実は、多くの受験生にお勧めの入試スタイル。その理由は……

基礎学力だけでは受からず、かといって基礎学力だけでもダメ……なんて聞くと、ご家庭としては「受けづらい」と感じるかもしれませんね。それは逆に言えば、狙い目でもあるということです。

たとえば国公立大学も受験する予定の方。一般選抜に向けてしっかり受験勉強をされているなら、基礎学力のハードルはそれほど高いと感じないでしょう。その上で、今回のサンプル問題を見て「面白そう」と思えるようなら、大いにチャンスはあります。

総合型選抜でPRできるような活動実績や受賞歴などはないけれど、アタマの中では様々な考えやアイディアが渦巻いている……なんてタイプの方にもオススメです。この未来構想方式について言えば、あくまでも区分は「一般選抜」ですから、過去の活動履歴は問われません。提示された問いに対してどう答えるか、だけ。産業能率大学の場合はスマホ持込可ですから、この入試のために特別な知識を暗記しておくような準備も不用です。

基礎学力については一律の線を引くけれど、「伸びしろ」の方向性については受験生ごとの個性を期待し、狭い制約などを設けない……という点も、志願する方からしたらモチベーションを上げやすいのではと思います。

評価する大学の方は大変だと思いますが、手間をかけてでもこうした入試を行うのは、ひとえに「進学後のエース候補生」を探したいから。入学後の学びをイメージする上でも、こうした入試の取り組みは参考になると思います。まずはサンプル問題を見てみてください。
新しい時代の新しい選抜方式 全国初!スマホ持ち込み可で検索自由!
2020年世界中の人々は、予想だにしない事態に見舞われ、かつてない経験を強いられており、「持続可能な多様で豊かな社会」を目標とする社会形成に本気で取り組むことが求められています。「未来構想方式」では、「持続可能な多様で豊かな社会」をつくるため、主体的に地域社会やAIなど先端事業に関わり、未来を切り開きたいと考える人材を求めています。

■サンプル問題
みなさんは、今、2040年2月17日の日本にいるとします。以下の課題文は、日本のある地域の1950年代から2040年までの歴史的な変遷を記しています。図表を参照しながら課題文を読み、設問に答えなさい。

[未来島の概要]
未来島は、瀬戸内海に浮かぶ離島である。島から本土の港まではフェリーで約30分、港から地方空港まではバスで約30分の距離にある。島から県庁所在地(政令指定都市,人口:約110万人)までは、フェリーと電車を乗り継いで約 2 時間を要する。
島の面積は 50 平方キロメートルで、瀬戸内海独特の温暖少雨な気候である。

[未来島の歴史]
1950 年代
未来島は造船業が盛んで、小さな島に造船会社が12社もあった。造船は多くの部品を必要とし、島には部品工場も数多くあった。仕事を求めて多くの人が島に移り住み、最盛期には2万人を超える人が島で暮らしていた。毎週のように船の進水式が行われ、多くの見物人が集まり、島はいつも祭りのように活気であふれていた。

全文は下記PDFをご覧ください。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/