プロが教える「進路づくり」 第5回 <2021年度連載>

第5回 大学で流行している「PBL」、具体的に何をするの?

社会のリアルな課題に取り組んで学ぶ、PBLのメリット

今回のテーマは「PBL」。Project Based Learning の略称で、課題解決型学習や問題解決型学習と訳されます(Problem-based Learning とすることもあります)。
文部科学省が推進する教育改革でも重要なキーワードとされていますので、保護者の皆様もどこかで目にされたことがあるのではないでしょうか。

従来の大学では、たとえば経済学部ならマクロ経済学などの基礎的な内容からまず学び、学年が上がるにつれて専門的、応用的な理論やスキルの習得に着手。
一通りの学問体系に触れた後、学びの集大成としてゼミで卒業論文を書く……なんてカリキュラムが一般的でした。学んだ理論を実際に応用する場面は卒業論文までない、または一切経験しないなんてこともありました。

それに対し、習得した知識の応用を意識しながら、特定の課題や問題に取り組むのがPBLの学びです。「この地域が抱える課題を探り、解決法を考えよ」など、決まった正解のない課題にグループで取り組みます。
授業で学んできた理論やスキルが役立つかも知れませんし、フィールドワークなどを通じて全く新しい視点に気づけることもあるでしょう。不足している知識・スキルを新たに習得しなければならないこともあります。

学んだ知識やスキルを使って、社会のリアルな課題に挑む。テストのためだけに覚えた知識ならすぐに忘れてしまいますが、実際に活用してみることで、確かな力として定着します。
普段学んでいることが社会の中でどう活用できるかを実感する経験は、大学での日々の過ごし方にも良い影響を与えるでしょう。グループワークを通じて協働に必要なスキルや姿勢なども身につきますね。このように、PBLには様々なメリットがあります。

各大学の実践レベルには差も。効果的な取り組みを見抜くポイントは?

PBLは教育業界の流行ワードですので、おそらくほぼすべての大学パンフレットに、この言葉は使われているはずです。
しかし実際の取り組みにはやはり差があるように思います。効果的な取り組みのポイントをいくつかご紹介してみます。
■一日限りのイベントで終わらず、事前・事後の学びの過程が設計してある
華やかなイベントを用意し、それに学生を参加させてPBLとする例もあります。しかしPBLでは「何をするか」以上に、課題の発見・設定から各種調査、議論・検討、発表、そして実践の準備など、実行までのプロセスが大事。
実践後の振り返りも大切です。お祭りのような行事にただ参加し、「楽しかった」と感想を述べて終わるだけでは良いPBLとは言えません。逆に学習プロセスを綿密に設計している授業でのPBLであれば、多くのことが効果的に学べるでしょう。

■学びのステップに合わせて、適切な内容と体制で実施されている
PBLの説明を読んで、「ウチの子は消極的だから無理そう……」と不安を覚えた保護者の方もいると思います。実際、入学直後からいきなり明らかに無理があるレベルの挑戦をさせるようなら、効果的な取り組みとは言えませんよね。
その点、教育力の高い大学では初年次から少しずつ挑戦を繰り返してステップを上がっていけるよう、無理なくPBLが設計されています。必要なタイミングで必要な知識やスキルが得られるよう、他の授業と連動していたり、教員や先輩学生などがグループワークの状況を常にフォローする体制が組まれていたりもします。

■社会の中で活躍するプロフェッショナルと関われる
企業や地方自治体など、社会の様々な組織と関わる機会が多いのもPBLの特色です。学生の最終プレゼンを聞き、あたたかく褒めてくれる……という方の存在にもそれはそれで意味はありますが、より好ましいのは、ときに厳しい意見を言ってくれるプロが関わってくれる取り組みでしょう。
実社会のレベルに触れられる経験でないなら、PBLの意義は半減します。学生達が関心や憧れを抱くような組織や立場の方からアドバイスやコメントをもらえることは、学生達にとって励みになることでしょう。

■初年次から、4年間のカリキュラム全体でPBLが戦略的に組み込まれている
PBLは自発性、能動性を育む学びですし、大学での他の授業の学びにも良い影響を与えます。その点で、初年次からPBLが採り入れられていることが理想です。さらに2年次、3年次と、段階的にレベルが上がるPBLがカリキュラムの中に組み込まれているようなら、かなりPBLを効果的に設計している大学だと言えるでしょう。
一年前はできなかったことが、余裕を持ってできるようになっている……そんな自分の成長を実感できる環境だと思います。

2022年春に入社する現在の大学4年生から、就職協定が見直され、既存の就活ルールにとらわれない採用活動が徐々に広がっていく見込みです。ジョブ型雇用や通年採用の導入など、仕事を取り巻く社会環境が変化していく中、企業はますます即戦力を求めるようになっていくものと思われます。大学でのPBLは、そうした変化に対応できる学生を育成する上で、非常に重要なポイント。ぜひ、ご家庭で各大学の取り組みを比較してみてください。

(ご参考)産業能率大学のPBL授業

ゼロからイチを創りあげる超実践型PBL
マーケティング・イニシアティブ(リンク) 

その他のPBL授業
主なプロジェクト授業(リンク) 
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/