プロが教える「進路づくり」 第10回 <2021年度連載>

第10回 大学の学費総額と、準備にあたっての注意点

卒業までにかかる学費や生活費はどのくらい?

大学進学後にかかる費用について、保護者の皆様は強く関心をお持ちと思います。今回はそんな「お金」のことをご説明しましょう。
まずは学費。どのくらいか、イメージをお持ちでしょうか。
上の表は大学の学費(平均値)をまとめたもの。国立大学の場合、文部科学省令で標準額が定められています。値上げした大学も一部にあるものの、ほとんどの国立大学は標準額通り。公立大学の学費は国立大学に準拠していますが、入学金には地元出身者かどうかで多少の差が出ます。

私立大学の学費は学部ごとに大きく異なります。いわゆる文系の学部は4年間で400万円程度。理工系は550万円程度ですね。

ちなみに「農・獣医」の数字には4年制の農学系と6年制の獣医学系が混じっているはずですが、文科省のデータが両者をまとめてしまっているため、ご参考程度にご覧ください。同様に、薬学部にも4年制の学科はあります。「保健」も、看護学科だけを見ればもう少し高く、おそらく600万円を越えるはず。医・歯学部ほどではないにせよ、薬学部や看護系の数字に「思ったより高い」と感じる保護者の方は少なくないようです。

一人暮らしの場合、さらに生活費がかかります。東京圏でアパートを借りた場合の生活費は年間で120〜130万円程度。大都市圏以外の地域でも100万円程度だそうです。「学費を抑えるために」という理由で遠方の国公立大学を生徒へ勧める保護者や教員も多いのですが、4年間の生活費を加えたら地元私大への進学費用をゆうに上回る、というケースも多いのではないでしょうか。

大学は卒業すれば生涯賃金が上がるなどの経済的メリットがありますが、とは言え、かかるお金はやっぱり安くありません。

ここに注意! 知っておかないと失敗するかも……

保護者の方が気をつけておくべきポイントをお伝えします。

まず、初年度納付額にご注意ください。入学金が含まれるため、最初の年は多くの額が必要になります。しかも納入期限は「入学手続時」。総合型選抜や学校推薦型選抜など、実施時期の早い入試では納入期限も早くなります。想定より早いタイミングで100万円以上の大金が必要になり、準備ができず合格をふいにするケース(!)が実際にしばしば見られます。多くの場合、授業料や施設設備費などは春・秋で分納も可能ですが、いずれにしても早めに備えをしておく方が望ましいでしょう。

一次手続時に入学金、二次手続時に前期授業料……と納入期限を分け、期日までに入学辞退をすれば一次手続金(入学金)を返還するという大学もありますので、受験予定の大学をチェックしてみてください。

なお「進学費用は奨学金で」とお考えの方。日本学生支援機構奨学金の場合、高校3年生の段階で申請できる「予約採用」でも、実際に支給が始まるのは進学後の5月以降。つまり、入学金や前期分授業料などの入学手続き費用を奨学金でまかなうことは不可能なのです。

2020年4月から始まった、国による高等教育の修学支援制度も同様です。家庭の経済状況に応じて給付型奨学金と学費減免、2種類の支援が受けられるのですが、「進学した後に大学が国や自治体へ申請をし、学生の減免額を補填してもらう」という流れになっているため、まずはいったん他の学生と同じように入学時納付金を収めてもらい、後期分の学費から減免するという方式を採っている大学も少なくないようです。必要なら教育ローンなども検討されておくことをお勧めします。

耳寄りの情報もあります。成績優秀者に対して独自の学費減免や奨学金給付を行う大学が増えています。例えば産業能率大学の場合、合格者の授業料を国立大学の標準額と同額に引き下げてくれる入試方式が存在します。国立大学との併願を検討される方も多そうですね。

最後に。本コラムでは再三申し上げておりますが、大学は、予定通りの年数で卒業できるとは限りません。留年率が2割を越えるような大学・学部も全国的には多いのです。

(参考)第7回 正規雇用率や留年率など、データでわかる大学の実力

冒頭の表にある学費の数字は、ご本人の学習状況によってはさらに増える可能性もあります。留年により奨学金や学費減免が停止されたり、中退によって早くに返済が始まったりというケースも。正規雇用に就くのも大変な社会状況ですから、進学先を検討されるにあたっては、各大学の様々な経済支援制度に加え、留年や正規雇用などの実績もチェックしてみてください。

※参考
・文部科学省「令和年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について」
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_sigakujo-000011866_1.pdf

・「奨学金なるほど相談所」
https://shogakukin.jp/

・日本学生支援機構「学生生活調査結果」
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/index.html

(ご参考)産業能率大学の一般選抜制度

頑張る受験生を経済的に応援!

・一次手続金(入学金)返還制度 
一次手続をしても、二次手続期限までに辞退の申し出をすれば一次手続金(入学金)を全額返還
※後期、未来構想方式第2日程を除く、全ての一般選抜方式で適用

・一般選抜 国公立大学併願方式(学費減免) 
・大学入学共通テストで5教科7科目以上受験していれば出願可能
・合否は大学入学共通テスト(900点)の得点と本学試験(350点満点を700点に換算)の得点合計点(1600点)で選考
・最終手続き期限は3月24日(木)、国公立大学の合格発表を確認してから、手続きが可能
※国公立大学併願方式で合格した受験生は、学費が国立大学程度に減免されます

・一般選抜 未来構想方式5教科型(学費減免) 
・大学入学共通テスト5教科5科目の総合得点
・事前記述課題および未来構想レポート
の総合判定
※未来構想方式5教科型で合格した受験生は、学費が国立大学程度に減免されます
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/