プロが教える「進路づくり」 第12回 <2020年度連載>

第12回 「大学入学共通テスト」で問われたこと

論理的思考力、判断力をより重視する試験へ

大学入試センター試験が終わり、今年から新たにスタートした「大学入学共通テスト」。構想が検討されている段階から実施に至るまでの間も、国語と数学で予定されていた記述式問題や英語4技能評価の導入が見送りになるなど、紆余曲折がありました。コロナ禍の影響も直前まで懸念されていましたが、まずは何とか実施に至り、ホッとされた方も多いことと思います。

センター試験と比べて試験内容がどう変わったのかは、既に高校や予備校で指導に当たっている専門家の皆様が各メディアで発信されていますので、ご覧になった方も多いと思います。たとえば以下の点などは、一目でわかる違いとして多くの方が言及されていますね。

 ●問題文の量が増えた
 ●各教科で、グラフや図表などを盛り込んだ問題が多く出題された
 ●身近な題材を扱ったり、会話文を盛り込んだりといった出題スタイルが増えた

変わったのは、出題形式だけではないようです。一問一答式で単純に知識を問う問題が減り、「何が論じられているのか」を正確に理解しなければ回答できないような問題が増えました。たとえば「○○だから、つまり□□ってこと?」「そうだとしたら、××という結論は正しいのかな?」……などと、会話文の中で論理を一歩ずつ進めていくような問題が随所に見られます。図表やグラフを交えた問題からも、その意味するところを正確に読み解き、論理的に思考せよ……という意図が感じられます。

必要な知識は覚えていたとしても、それを使って正しい結論を導くための論理展開が正しくなければ解けない。教科ごとの基礎知識を踏まえた上で、論理的思考力がより問われる試験になった、というのが私の印象です。もともと国が進めてきた高大接続改革は、学力の三要素のひとつとして「思考力・判断力・表現力」を掲げてきました。表現力を測るための記述式問題こそ見送られたものの、思考力と判断力については、新テストにその意図を感じます。

普段から、友達同士でわからないことを互いに教えながら理解を深め合っていたり、わかりやすく考えを相手に伝えるよう努めていたりする方なら、取り組みやすかったかもしれません。探究学習やアクティブラーニングによる対話型の学びは新テストにも役立つのでは、と個人的には感じました。逆に言うと、「普段の学校での勉強は適当でも、最後の試験で良い点さえ取れれば良いのだから、ギリギリの対策で大丈夫!」という発想は危ないかもしれません。

大学入学共通テストはその名の通り、本来は大学で学ぶための基礎力を測るための試験です。多くの大学が協働的な学習に力を入れ、論理的思考力や判断力、表現力のある人材の育成に力を入れている現在、こうした試験になるのは自然なことでもあると思います。

保護者へのアドバイス:大学入学共通テストは、受ける前提で考えた方が安心かも

この1年も、多くの高校で進路講演をさせていただきました。講演後によくいただいたのが、「私の志望校は、入試で大学入学共通テストを使わないようなので、共通テストのための勉強はしないで良いですよね?」という質問です。気持ちはわかります。でも現時点では、できるだけ大学入学共通テストを受ける前提で備えていた方が良い、と申し上げることにしています。

ワクチン接種などの新しい動きはあるものの、1年後のことはまだわかりません。私立大学でも「大学入学共通テストの受験者は、それを合否判定に使用できる」といった対応をとる大学は今後、増える可能性があります。選択肢は絞らず、広げておいた方が現時点では安心です。

加えて、次年度以降は各大学が独自に行う個別試験にも、大学入学共通テストの影響が出てくる可能性があります。2020年は高大接続改革にとって節目の年でしたが、入試をどう変えるか決めかね、今年は様子見を決め込んでいた大学もあったはず。大学入学共通テストという「国のお墨付き事例」をヒントに、来年以降の入試からいよいよ出題傾向を変えようと考えている大学はあると思います。その点でも、今回の試験内容はすべての受験生がチェックしておくべきと思います。

まだ初回ということもあり、国も大学もまだまだ手探りではあると思いますが、今回の試験が今後に与える影響は小さくありません。特に新3年生は、早めに今回の試験問題を確認してみることをお勧めします。

(ご参考)産業能率大学の大学入学共通テストを利用した入試制度<2021年度>

■大学入学共通テストでの得点のみを使用して選考します。
■本学独自の得点率による合格保証制度を採用しています。
 合格保証制度とは、基準得点率を超えていれば全員合格とする制度です。よって、合格最低点が基準点よりも低い点数になることもあり得ます。
 【合格保証基準点】
 3教科利用 73%(219点/300点)→経営学部 マーケティング学科
 4教科利用 65%(260点/400点)→経営学部 経営学科・マーケティング学科、情報マネジメント学部 現代マネジメント学科
※2021年度の出願受付は終了しました。2022年度入学者選抜の概要については5月下旬にWEBサイトに掲載予定です。
■大学入学共通テスト3教科250点(得点率50%)以上(国語・英語必須)が出願要件となります。
■そのうえで、出願時に提出する「事前記述課題」および入学試験当日に回答する「未来構想レポート」の総合評価(8段階)で選考します。
 この方式では、知識そのものを問うのではなく、知識や経験を「活用・応用する思考力」や社会の問題に対し、自身の知識や経験を活かして課題を発見・解決する力を測ります。
■大学(学部)の入学選抜試験では全国初(※)となる、スマートフォンやタブレットの試験会場持ち込みが可能な試験形態を採用。
 受験生自身の知識・経験に加え、インターネットで得られる多くの情報を選択・活用する力が求められます。
※2021年度の出願受付は終了しました。2022年度入学者選抜の概要については5月下旬にWEBサイトに掲載予定です。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/