プロが教える「進路づくり」 第8回 <2020年度連載>

第8回 コロナ禍で進まなかった進路学習 今からできることは?

高校3年生の進路選択において、保護者の意向が強まっているようですが……

私は、ある公立看護大学が行う高大接続事業の外部評価委員を務めています。長引くコロナ禍の中、世界中で医療従事者の奮闘ぶりが伝えられていますが、看護師は医師と共にギリギリの現場を支える医療チームの中核であり、医療現場で新型コロナウイルスに感染した事例が多く報道された専門職のひとつでもあります。その大変な様子が報じられる中、私は「看護師を志望する高校生が減るのだろうか」と、影響を案じておりました。

実際には、様々な関係者の話やデータを参照する限り、現時点ではむしろ看護師の志望者は増加傾向だそうです。ただ、高校教員の皆様から伺う次のような意見が気にかかります。「看護師の職務や役割に対する本人の共感や使命感ではなく、『不況になるからやっぱり娘には手に職を』という保護者の意見で志望する生徒が増えているように感じています」。

総合型選抜や学校推薦型選抜など、年内に合否が出る入試で出願する高校3年生が全国的に増えているようです。こちらも学校現場から聞こえてくるのは、保護者の意向による影響。「新しくなる一般選抜が不安なので、その入試を回避したい」「将来が心配なので、早めに合格を決めて安心したい」「それなりに名前を聞く総合大学であれば良いので、指定校推薦枠を使って資格が取れる学部に入れたい」……。この選び方で進学後にミスマッチを起こさないだろうかと、先生方は心配されています。

今年の高校3年生は、二転三転する入試改革に振り回された上、コロナ禍の影響も直撃してしまった学年です。学校の進路指導行事が中止・延期となったり、オープンキャンパスもオンライン開催のみだったり。「来年の大学1年生は、例年以上にミスマッチを起こして中退するのでは」と懸念している大学関係者は少なくありません。

「3つの理解」をガイドにして、再度「何のために大学へ行くのか」を考えよう

進学後のミスマッチを予防するために、改めて【学問・職業理解】、【学校理解】、【自己理解】という3点でのチェックをお勧めします。以下の記事もぜひご参考にどうぞ。

≫参考:2019年度 第9回 高校3年間の進路学習で深めたい「3つの理解」(リンク) 
【学問・職業理解】のチェック
例えばお子さんが経済学部を志望しているとして。経営学部や商学部との、学修内容の違いを自分の言葉で説明できそうでしょうか。もしかして、「経済学部なら金融機関にも強いと言うし、つぶしが効きそうだから」といったイメージだけで、肝心の授業内容はあまり想像できていなかったりしませんか?オープンキャンパスで実施される模擬授業は、こうした学問理解を深める上で効果的なのですが、今年はそうした機会を十分に得られないまま、入試の都合や言葉のイメージで適当に学部を選んでいる高校生も少なくないようです。

各大学の大学案内やウェブサイトなどで、具体的な学修内容を改めてご覧になってみてください。経済学科と経営学科のように、似て見える学科のカリキュラム表を見比べると違いがはっきりします。模擬授業をオンラインで配信している大学もあります。各学問分野の専門書(入門書でOK)を空いた時間にめくってみるのも良いです。医療系など、特定の専門職養成を掲げている学部の場合は、その職業の仕事内容やキャリアイメージなども、書籍などで調べておくことをお勧めします。
【学校理解】のチェック
高校3年生の場合、志望学部はほぼ決まっており、あとは具体的な出願先を決めるだけという方も多いでしょう。ただ入試難易度と立地、あとは世間的なイメージくらいしか、各大学を比較する方法を知らないという方も少なくありません。「日東駒専」のような、受験産業による分類から志望校を選ぶ方もいると思います。こうした方には、大規模な総合大学や、都心の繁華街にある大学ばかりを志望する傾向もしばしば見られます。実際には、アットホームな小規模大学や、校外の大学の方が肌に合って、伸び伸び学べるという方も多いのに、です。

大きな総合大学にしか目を向けてこなかった方は、今一度、小規模大学もチェックされることをお勧めします。比較のポイントは、規模や立地だけではありません。研究重視の大学と教育重視の大学。教養主義の大学と実学主義の大学。共学と女子大、講義中心とアクティブラーニング中心などなど。特徴が対照的な大学、これまで検討していなかったタイプの大学も見てみてください。各種のデータも参考になります。

≫参考:2020年度 第4回 大学の中退率や「正規雇用率」をチェックしよう(リンク) 
【自己理解】のチェック
大学での学びを通じて、どんな自分になりたいでしょうか。多くの大人が勧める大学でも、学ぶのは本人。進学先で成長できるかどうかも、本人の行動次第です。「サークルとバイトが楽しみ」なんて意識で大学に行こうというのなら、後悔するかもしれません(コロナ禍で、その2つは特に影響を受けておりますし)。

高校3年間を改めて振り返ってみてください。どんなときにテンションが上がったのか。どんなときに「成長できた」と感じたのか。それは何故なのか。そこから気づけることもあります。
本来は高校1年生のうちから十分な時間をかけて、上記のような準備をじっくり進めていくことが望ましいと思います。ただ今回のように、予期せぬ事態で予定が狂うこともあるでしょう。すべての受験生にとって、それは同じです。できる範囲ででも、手を尽くしていただければと思います。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/