プロが教える「進路づくり」 第4回 <2020年度連載>

第4回 今は中退や留年も珍しくない?大学進学後のリアル

中退や留年は、皆さんが思っているよりずっと多い

コロナ禍の影響により大学進学を再検討するご家庭が増えていること、それでも大学進学には様々なメリットがあります。
その上で、お伝えしておきたい事実があります。「大学新入生がもし100人の村だったら」というたとえ話でご紹介しましょう。

全国の大学入学者を「100人の村」の村人に例えると、うち12人は中退し、13人は留年しています。30人は就職が決まらないまま卒業。14人は就職するものの、3年以内に退職します。大学を4年間で終え、卒業と同時に就職し、そこで3年以上働いている人はわずか31人に過ぎません(※)。
2013年頃の状況を元にしているため、就職については数字が変わっていると思いますが、中退や留年の実態はいまもほぼ変わりません。休学してのインターンシップや留学などで卒業を伸ばす方もいますので、留年イコール悪いこと、とは限りませんが「こんなはずでは」と後悔している学生も非常に多いのです。

望まぬ中退や留年に追い込まれ、後悔する学生にはいくつかの傾向があります。
第一は進学先選びのミスマッチです。「学びたいことが特になかったので、指定校推薦のある大学の中で聞いたことがあるところを選んだ」「受かりやすそうな学部にした」「自分が学びたい内容とは違うが、保護者が勧めるのでここにした」……などなど。進路を早く確実に決めたい、といった焦りもこうしたミスマッチを招きがちです。

第二が学業不振です。昨今の大学はしっかり勉強させます。授業中はもちろん、それ以外の時間でもレポート作成などの自学自習やグループワークなどが多く課されます。早いケースでは、大学1年次のGW明けあたりで既に授業について行けなくなる学生も。高校の学修内容を前提にした授業もありますので「推薦で早めに受かったから4月まで遊ぼう!」なんて姿勢でいると、入学後につまずくことになります。

今は受験時よりも、入った後で失敗する人の方が多いのです。大学受験は本来「学ぶために受かる」もの。それが逆転して「受かるために勉強する」という姿勢になってしまうと危険です。大学進学には意味がありますが、そこには「本人が主体的に学ぶのであれば」という条件が付くのです。

コロナ禍の中だからこそ、長期的な視点で進学先を選んで

私は今の高校生、特に3年生のことが心配でなりません。例年なら3月から6月頃にかけて行われる進路検討のための行事や指導が軒並み延期または中止になっているからです。夏のオープンキャンパスは進路を検討する上で最も大事な行事だと思いますが、それすら今年の実施は危ぶまれています。その上、この2021年度から新しい大学入試制度がスタート。「結局、何をすれば良いの!?」と焦るご家庭もおありでしょう。こういうときに進学ミスマッチは拡大しがちなのです。

今だからこそ保護者の方に知っていただきたい、最低限の原則を3つお伝えします。

(1)「早めに合格できるところへ決めたい」は危ない
「コロナの影響が心配だから、受かりそうなところへ早めに決めたい」といった考えが、結果的に進学後のミスマッチを招いては元も子もありません。コロナ禍はご家庭の経済状況にも影響を与えていると思いますが、だからこそ「意味のある進学」を。

(2)偏差値だけで選ぶ、は危ない
第一志望は国公立、併願はMARCH、安全校は日東駒専で……など、受験業界の括りで出願先を決めるご家庭は少なくないようです。でもたとえば日東駒専の4校だって、同じ学部名でも中味や方向性はまるで違います。さらに言えば、これらはすべて大規模総合大学。実際にはアットホームな小規模大学や単科大学の方が伸びる、という若者は少なくないのです。併願校の全てを教育の中味で比較してみてください。特にコロナ禍で経済が不安定な今後は、面倒見の良い大学、少人数で丁寧に成長させる大学、就職に強い大学が評価されるはずです。「教育の中身が鍛えられるものか」と「ちゃんとケアしてくれるか」をチェックしてみてください。

(3)アルバイトにできるだけ依存しない資金計画を
アルバイトで学費や生活費を捻出する学生は昔からいます。悪いことではないのですが、アルバイト先の休業などで経済的に追い込まれる学生がこの半年間に急増し、問題となっています。国や各大学が用意する経済支援制度などを利用するなどし、できるなら数ヶ月はアルバイトせずとも大丈夫、という資金計画を。

ほか、以下のコラムもぜひ参考にしてみてください。
≫コラム「オンラインの情報で大学の実力を見極めるためのポイント」 

コロナ禍は受験にも多大な影響を与えていますが、本当に注意すべきなのは「進学後」に現れる影響だと私は考えています。大変な状況ではありますが、こんなときだからこそぜひ短期的な安心だけでなく、進学後まで見据えた計画を立てていただければと思います。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/