プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第9回 <2019年度連載>

第9回 高校3年間の進路学習で深めたい「3つの理解」

学問・職業理解、学校理解、自己理解

私は普段、高校生や保護者、高校教員の皆さまなどへ進路講演をさせていただくことが多いです。本コラムでも触れてきたように、これからの働き方や生き方について、あるいは大学入試の変化などについて、解説をさせていただくことが多いです。特に保護者の方からは、「自分達がイメージしてきた『普通の人生』が、子ども達にはもう通じないのだな」と驚かれることが少なくありません。
だからこそ、不安もあるのでしょう。「では、高校3年間で進路を考えていく上で、具体的にどのようなことを目標にすれば良いでしょうか?」「いつ頃までに、何をしておけば準備としては十分でしょうか?」といったご質問をいただくことも多々あります。

私はいつも「3つの理解」という目標設定をご提案しています(※1)。
①【学問・職業理解】
(例)経営学ってどんな学問なの?面白さはどこにあるの?学ぶ上で、大変な部分はどういうところ?
②【学校理解】
(例)A大学の経営学科とB大学の経営学科にはどんな違いがあるの?どちらのカリキュラムや学習環境が自分に合っているの?
③【自己理解】
(例)そもそも私は本当に経営学を学びたいの?これを学んで将来、何をやりたいの?
(例)【学問・職業理解】の不足
たとえばこんな男性がいます。ロボットに興味を持ち、ものづくりをしたいと考えて工学部に進学したところ、数学や物理などの基礎的な学習についていけず単位が取れなくなり、1年次に中退しました。ロボット製作実習も想像していたものと違い、楽しめませんでした。メディアに出てくるドローンやアンドロイドのイメージだけで安易に進路を決めたことを後悔しています。
「指定校推薦枠の中で就職率が高く、最も名前が知られている大学・学部」という理由である大学の教育学部に進学したものの、教員を目指す気になれず、また教育学の授業にも興味を持てないまま辞めてしまった学生もいます。いずれも【学問・職業理解】が十分でなかったことが原因です。
(例)【学校理解】の不足
「100人以上の大人数で一方的に講義を聴くばかりの大学に入ってしまった。いま思えばもっと少人数の大学で、先生や同級生と話し合うような授業の多い大学に行けば良かった」
「有名な大学だから選んだが、自分のいる学部は寝ている学生ばかり。1年生のうちから実践的な授業を行う学部や大学に行った方がよかった。アルバイトの方が楽しくて、大学から足が遠のいている」
このように、大学の規模や授業スタイルについてミスマッチを起こす大学生も少なくありません。これらは【学校理解】の不足と言えるでしょう。
(例)【自己理解】の不足
こんな女性がいます。先生や保護者の強い勧めで大学の看護学部へ進学。成績も悪くなかったのですが、2年次から始まった看護の実習で「自分には向いていない、無理だ」と気づきました。自分で看護系大学の学びの中味を検証せず、就職率が高いから、保護者や教員が勧めるからといった理由で決めてしまったことを今も悔やんでいます。これは学問・職業理解の不足であると同時に、「自分が本当に看護師になりたいのか、突き詰めて考えていなかった」という点では【自己理解】の不足でもあります。

3つの理解を整理し深めていくことは、新しい大学入学者選抜に向けた準備にも

このように整理してみれば、上記3点が、それぞれ違う種類の「理解」だとわかります。どれかひとつが欠けても、ミスマッチを起こすリスクは高まります。ところが多くの場合、高校の進路指導でこのような枠組みが提示されることはあまりありません。「○月○日までに進路希望を提出しなさい。オープンキャンパスには3校以上行くように」といった指示が出るだけ。これでは生徒本人も、何をどう考えれば良いか悩むはずです。
実際、大学生の就職活動では「業界研究、職種研究」「企業研究」「自己分析」といった枠組みが使われています。特に自己分析は重視されます。他人にとっての良い仕事・良い職場があなたにとっても良いとは限らない、という前提が広く共有されているからでしょう。本当は大学進学でも同じことが言えるはずです。高校3年間で「3つの理解」を意識的に深め、高校3年生の夏頃までにおおよその進路が自分でイメージできるようなスケジュールを組んでみてはいかがでしょうか。

「主体的に進路を考えることが大事」と誰もが言います。でも、これだけ進路やキャリアを取り巻く環境が複雑化したいま、そう言われただけで高校生全員がスムーズに考えられるわけはありません。大人から、何らかのガイドを提示することもときには必要だと私は思うのです。
「3つの理解」をまずはヒントにしてみてください。これらを深めていくことは結果的に、2020年以降の大学入試改革への準備にもなるはず。こうした枠組みに慣れておくことは、将来の就職活動の際にも役立つと思いますよ。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/