プロが教える「進路づくり」 第1回 <2020年度連載>

第1回 学費をかけても大学に進学させる理由

コロナ禍が高校生の進路選択にもたらす影響

コロナ禍は世界中の高校生の進路選択にも影響を与えています。アメリカでは、今シーズンの4年制大学進学者数が2割減になるという予測が出ているようです(※1)。日本でも大学生や専門学校生の2割が中退を検討している、という報道がありました(※2)。ここに来て大学進学を再検討されているご家庭もあるかも知れません。

大学進学を懸念される主な理由は2つと思います。
家庭の経済状況悪化で当面の学費工面に不安を感じているから、というのが、ひとつめの理由。これについては政府による様々な給付金や各種の学費減免措置、奨学金などを活用したり、より学費の安い大学に進学先を限定したりというご判断になるのだと思います。
高額の学費を払って進学させたとして、モトが取れるのかわからないから……というのが、ふたつめの理由です。進学せず地元の企業に就職したり、就職率の高い専門学校に進学したりする方が安心なのでは……なんて意見は平時からしばしば耳にします。経済的に厳しい状況ではなおさらなのでしょう。

大学進学のメリットとは

私自身は、全員が無理に4年制大学へ行かなくても良いと考える立場です。大学を出なくても活躍されている方はたくさんいます。大学での学びを必要としない人もいるでしょう。ただ、それでも大学進学には様々なメリットがあると考えます。

経済的なメリットは明らかです。
学校卒業後、フルタイムの正社員を続けた場合の60歳までの生涯賃金(退職金含めず)は、男性で高卒が2億1千万円、大学・大学院卒が2億7千万円と、6千万円の差が出ます(※3)。女性の場合、この差は7千万円にも上ります。

初任給では大卒、高卒の差は月給で2〜3万円程度ですが、年齢が上がるほどこの差は開き、50〜55歳では月々20万円近くの違いになります(※4)。専門学校では職種によって大きな差が出るため、同様のデータがありませんが、同じ職種であれば大卒の方がやはり高くなります。背景には管理職としての資質、つまりチームや組織のマネジメントを任されるかどうかで生じる違いもあると考えられます。

大学での学びは、先の見えない社会で生きるための学び

賃金以上に大きな違いは、大学がそもそも、先の見えない社会で生きるための学びをする場所だという点にあります。

専門学校は基本的に「既にある特定の職業」に就くための準備教育を行う場所。その仕事に必要な専門知識・スキルを無駄なく最短期間で習得するためのカリキュラムが組まれています。
一方、大学は学術研究機関。決まった解が存在しない問題にどう対応するかを学ぶ場所です。専門的な学問知識の習得はもちろんですが、生涯にわたって役立つ「学び方」や、様々なモノの考え方、語学力や論理的思考力などの汎用的な基礎能力を磨くことなどにも重きが置かれています。
様々な社会問題について考えたり、具体的な問題解決のプロジェクトに関わったりしながら、長期的なキャリアを自分自身で探していける時間でもあります。
産業能率大学では全学生が1年次からゼミに所属し、社会人基礎力や課題解決力を伸ばす
社会や地域が抱える課題に取り組むPBL(Project Based Learning)

変動の激しい時代を迎える今こそ、本気で学び、実力を磨くための大学進学を

安泰と思われていた業界や企業の経営がたった2ヶ月程度で苦境に陥ったり、特定の職種が急に食べていけなくなったりと、新型コロナウイルスの猛威は、私達が生きるこの社会の不確実さや不透明さを改めて私達に実感させました。コロナ禍の影響を抜きにしても、今後の社会はさらに変動の激しい時代を迎えると見られています。だからこそ大学が提供する様々な学びの価値は、これまで以上に重要な意味を持つはずです。

もちろんサークルやアルバイト等、ただ楽しいキャンパスライフを送りに行くためだけであれば、学費を支払う意味が見いだせないのも当然です。「大卒」という肩書きだけで仕事を得られるほど今後の社会は甘くありません。どれほど入学難易度の高い大学であってもこの点は同じです。本気で学び、実力を磨くための大学進学でこそ意味があります。「支払った学費の何倍分もの成長を遂げられる大学とは、どのような大学なのか」をぜひご家庭で考えてみてください。


※1:高等教育分野のマーケティング企業 SimpsonScarborough社の推定
※2:学生団体「高等教育無償化プロジェクト」による調査
※3:独立行政法人労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2019』
※4:厚生労働省『令和元年賃金構造基本統計調査』

(ご参考)産業能率大学のPBL(課題解決型授業)

産業能率大学では、企業や地域が抱える課題に対し、経営学やマネジメントの学びを駆使して挑むPBL(Project Based Learning)を通じて、課題発見・課題解決力を養成しています。
PBLの学びは1年次からスタートします。全学生が1年次からゼミに所属し、PBLに取り組むことで、産業能率大学ならではの学び方を修得し、2年次以降の学びの基盤を作り上げるのです。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/