プロジェクト活動における教員の関与と学生の学びについて

1.はじめに
 筆者は本学において、企業との連携による学生のプロジェクト活動を2008年より実施している。そうした中で、地域や企業との連携において教員は、「連携先との関係性」、「学生との関係性」の二つの視点を意識して活動を手掛けることが大切だと認識している。
 前者については、曖昧な形でプロジェクトを開始すると、企業と大学でお互いに異なる立場のために、どちらかが譲らなければプロジェクトが破綻することも起こりかねない。そうしたことを回避するために、お互いにメリットがとれるように事前にしっかりと話し合い、合意形成をすることが大切である。この点については、教員コラム「社会連携型PBLの留意点(松尾尚)」をご覧いただきたい。
 後者については、そのプロジェクトの教育成果として何を学生に供与するかを事前に考え、それに合致する授業の作りこみや運営が大切になる。本稿では、後者について、田中ゼミにおける珈琲豆の販売活動を事例に、学生に対する教員の関与について、学生の学びとあわせて述べていくことにする。
2.珈琲豆の販売活動について
(1)田中ゼミにおけるプロジェクト活動
 経営学部 経営学科 田中彰夫3年次ゼミでは、年間を通じて3本の地域・産学連携プロジェクトを長年にわたり実施している。一つ目は商品開発に関わるもので、外食を主とする企業様から課題をいただき、その企業様が経営するカフェのメニューを企画するものである。これは、主にゼミの時間に実施している。二つ目は地域連携に関するもので、大学近隣の中学校の特別支援学級との交流である。こちらは授業外(活動日:第二土曜日、準備:平日のゼミの時間外)で実施するもので、有志参加としている。三つ目が本稿のテーマである珈琲豆の販売活動で、こちらも有志参加である。多くの学生たちは様々な活動を通じて自分の視野を広げるべくこれらに参加し、忙しい学生生活の中で時間のやりくりをしながら、マルチタスクの進め方やお互いの協力関係について修得している。

(2)珈琲豆の販売活動について
 珈琲豆の販売活動は、毎週土日に東京都渋谷区内で開催される「青山ファーマーズマーケット」に出店をして、珈琲豆を販売する活動である。青山ファーマーズマーケットには、野菜や果物などのお店が軒を連ねている。もともと、筆者の友人である珈琲豆の焙煎をしている会社のオーナーがここに出店しており、「学生にとって様々な経験になるのであれば、この店の運営を学生に任せてよい」との言葉をいただき、2015年から田中ゼミの活動として運営を開始した。現在は、実店舗での営業の他、SNSを活用したプロモーションなども手掛けている。
 この活動では、経営学やマーケティング、筆者の専門である消費者行動論など、学生たちが大学での学びを実践の場に活かすことを目的としている。学びを通じて自分たちで考えたことを実践し振り返ることで、PDCAを回している。その他にも、出店している他の店舗を観察することで、商品の陳列方法や接客の仕方などを学んでいる。
図1 青山ファーマーズマーケットでの出店の様子
3.教員の関与
(1)一般論として
 次に、プロジェクト活動にあたり、教員の関与について、ここでは二つの視点から考えたい。
 一つ目は、開始時にどこまで教員が事前に作りこみ、その内容を学生に提示するかである。その結果として、学生による自由裁量の小さいもの(教員が敷いたレールの上を学生が進むように取り組む)と、大きいもの(大海原を学生が自力で航海する)に分けられる。それぞれのメリットとデメリットをマトリクスで整理した(図2)。それぞれに一長一短がある。
 学生に供与するゴールを、例えば企業への提案書の作成など目に見える成果物の完成と捉えるのであれば、教員が敷いたレールの上を学生が進むように取り組むことで、安心感のある運営ができる。一方で、プロセスを大切にして、学生の成功や失敗を問わず、その取り組みを通じて学生が何かを得ることをゴールとするならば、教員が作り込んだ内容を提示し教員が敷いたレールの上を学生が進むのではなく、学生の自由裁量を多くして大海原を学生が自力で航海するのが良いと考えられる。もちろん、二項対立ではなく、ミックスした形での運営も可能である。
出典:筆者作成
図2 学生の自由裁量の違いによるメリット・デメリット
 二つ目は、日々の教員の立ち位置(接し方)についてである。これには「干渉型」と「放任型」が考えられる。それぞれは文字通りの意味で、これについてもメリットとデメリットをマトリクスで整理した(図3)。それぞれに一長一短がある。
 先程のケース同様に、学生の成果物の完成に重きをおくのであれば「干渉型」はリスクが少なく、プロセスを重視するのであれば「放任型」は学生に深く考えさせることができる。なお、「干渉型」においても教員は“答え”を与えるのではなく“ヒント”をあげる存在に徹し、学生に質問することで気づいてもらうよう促していくという「質問による介入」が効果的であると考えられる。「放任型」においても、要所要所での状況確認が大事で、学生には「教員は普段は口を出さないだけで、きちんと見守っていること」を意識させるとともに、大事な場面ではきちんと介入することが必要とされる。
出典:筆者作成
図3 学生に対する教員の立ち位置(接し方)の違いによるメリット・デメリット
(2)珈琲豆の販売活動における教員の関与
 筆者の場合、担当する授業科目では、大学でのそれまでの学びを活かして14週で成果物を完成させることを狙い、教員が作業工程などを明確に示して教員が敷いたレールの上を学生が毎週進むようにしている。授業中は質問を主体とした「干渉型」で学生に接している。他方、ゼミではじっくり考えるプロセスに重きをおき、学生の自由裁量を大きくしており、かつ「放任型」である。ゼミ活動では、教員が学生一人一人の個性を把握しており、「放任型」といえども、どの程度で干渉すると良いかのイメージを持てることも背景にある。
 本学の専門ゼミは2年次後学期から始まるため、後学期には3学年が同じゼミに所属することになる。田中ゼミでは、同学年の横のつながりに加えて、異学年での縦のつながりも重視しており、異学年が接する機会をなるべく増やして、先輩からの学びを得られるようにしている。しかしながら、プロジェクト活動は、前述の通り3年次生の活動(3年次生のみで行うよう)にしている。それは、「正解のない、経験したことのないものごとへのトライ」を通じて、一歩前に踏み出す力(勇気)や、チーム力などを、学生たちに身に付けてもらいたいからである。さらに、代々先輩からこの活動を引き継ぐことで、より高い成果を上げることが求められる。学生たちのこうした状況におけるプレッシャーや漠とした不安感に対する挑戦・払拭の経験は、来るべく就職活動時において活かされている。
 ところで時々、田中ゼミを希望する学生からゼミに入る前に「教員として心がけていることは何ですか」と聞かれることがあり、その際には「待つこと」と回答している。筆者は本来せっかちであり、すぐに物事を解決したがるのであるが、学生に対するこうした活動において、状況によってはヒントを出すこともあるが、基本的には放任型を志向し「待つこと」を貫くことで、学生の成長を促している。とは言うものの、活動を行う中で、学生同士の意見の食い違いや、活動に対する温度差の違いは、多かれ少なかれ生じることである。そうしたことに対しては、基本的には学生同士で解決するのが望ましいが、問題が大きくなってからの修正は難しいため、タイミングをみて教員が介入して軌道修正している。
4. おわりに(プロジェクト活動における学生の学び)
 ゼミにおけるプロジェクト活動は、当初の狙いのように、いわゆる社会人基礎力の養成などに役立っている。また、先輩から引き継いでいる珈琲豆の販売活動は、売上や利益という可視化される数字が残るために、先輩に負けられないという想いもあり、学生たちは様々な工夫を凝らしている。例えば陳列や接客について、大学での学びだけでなく、自ら書籍などを読むことや、前述の通り、青山ファーマーズマーケット内の他店をじっくり観察して研究した成果を試してみるなどの学習意欲の向上につながっている。
 ところで毎年、1年間の活動を無事に終えた学生にインタビューを実施している。たいていは教員が予想した回答を得るのだが、過去に一つ予想しなかった興味深い回答があった。それは、「大学の授業では中途半端な理解(60点位)でもいいやと思っていたが、ビジネスにおいて60点の理解ではだめで、きちんと100点の理解をしないとお客様に迷惑をかけてしまうことに気がついた」というものであった。具体事例を聞いたところ、領収書をお客様に発行するにあたり、なんとなく感覚で覚えていたため、正確なものを発行できずに、お客様から注意を受けて恥ずかしい思いをしたとのことである。学生のうちにこうした経験をして新たな気づきを得られることも、こうした活動の魅力と考えられる。
 2015年から長期にわたり、学生にじっくりと考えるこうした素晴らしい機会を提供いただいている、「珈琲工場 優」畠山優光氏に、この場を借りて心より感謝申し上げたい。