高校の先生向け 進路コラム 第2回 <2024年度連載>

こんなに増えた「探究型入試」

【探究学習の成果が活かせる入試には、様々なタイプが】

1年前、↓こんなコラムを書かせていただきました。
■探究学習は「探究型入試」の役に立つのか

 高校での探究学習の取り組みは、全国でますますの広がりを見せています。大学の側でも、探究学習での成果やプロセス、あるいは探究学習を通じて身についた力を入試で評価しようという流れが進んでいます。

 明確に「探究型入試」と銘打たれているものだけではありません。総合型選抜など、形式上は従来と変わらない入試枠の中でも、探究学習で得た成果やプロセスが問われるケースは増えています。受験生の側でも、探究的な学びで得たものを様々な入試の中で積極的にPRしようという動きは広がっている様子。探究学習はもはや「あらゆる入試に繋がっている」と言っても良いでしょう。

 その中で今回は、特に探究学習との繋がりを意識したと思われる、各大学の特色的な入試の事例をご紹介します。いくつかのタイプに分けられますので、昨年から変わった部分も含め、改めて整理してみましょう。
①高校での探究学習の実績や成果、プロセスを評価する入試

 まずは高校での探究学習の取り組みを、実際の成果物やプレゼン等で直接的に評価するタイプ。「探究型入試」という名称で多くの方がイメージされるのは、こちらかもしれません。

(例)
・桜美林大学「探究入試Spiral」
・関西学院大学「総合型選抜(探究評価型入試)」
・工学院大学「探究成果活用型選抜」
・国際基督教大学「総合型選抜(理数探究型)」
・東京家政学院大学「総合型選抜探Q入試(探究活動報告型)」

 探究学習で自分が取り組んだリサーチのプロセスや成果などを大学側が評価し、合否の判定に利用します。評価の方法や評価基準は大学・学部により様々ですが、指定された時間の中でのプレゼンを求めるケースが多いでしょうか。これまでの活動がそのまま合否を左右しますので、入念な準備を行う必要があるでしょう。先生方が「この生徒なら」と感じた生徒さんには、受験の選択肢として勧めてみるのも良いと思います。

 なお何らかの受賞歴があるから合格する、あるいは実績がないから合格しない……とは限りません。もちろんコンテストなどでの受賞歴は多くの場合、プラス評価になるでしょう。
ですが「指導者の力量による部分が大きいのでは?」と考える面接官もいるはず。そうでないということを自分の言葉で伝えられることも大切です。
②大学が出題する事前課題に取り組ませる入試

 大学が設定した小論文などの事前課題によって、受験生を評価する入試です。課題についてのプレゼンテーションや面接が行われるケースも少なくありません。このタイプの入試には、大きく2つの狙いがあるものと思います。

 1つめは、ずばり探究で身についた様々な能力を測ること。自分なりの視点に基づいて論理的に思考し表現する力は、まさに探究学習で身につくものですね。高校で各自が行った探究の成果ではなく、大学が用意した課題を通じてそれを測るという点が①との違いです。各大学とも進学後の学びに繋がるような、工夫を凝らした課題を用意しています。

 2つめは、進学先とのマッチングです。たとえば医療系や教育系など、特定の専門職養成を掲げる学部では、本当にその職業を本気で目指しているのか、職業理解は十分かといった点が進学後に問われます。表面的な情報だけでこうした学部に進学し、ミスマッチを起こして中退するようなケースもあります。そこで事前課題を通じ、その学部・学科で求められる資質や能力について理解を深めてもらおうというわけです。

 前者と後者のどちらに重きを置いているかは、大学や学部によっても違います。

(例)
・奈良女子大学 文学部「総合型選抜(探究力入試『Q』)」
・群馬医療福祉大学:総合型選抜(課題探究型)
③大学による独自試験で評価する入試

 当日に試験会場で出題される課題で受験生の資質や能力を評価する入試です。論述などのペーパーテストのほか、受験生同士にグループワークをさせるような例も。準備期間がある②の事前課題型と異なり、こちらは入試当日の「一発勝負」です。

 産業能率大学が行う「一般選抜・未来構想方式」は、この例でしょう。決まった正解のない「未来構想レポート」で受験生を評価。毎年、実にユニークな課題が用意されています。

■「未来構想方式:2024年度未来構想レポート課題文」(産業能率大学)

 2024年度の問題は、様々な情報を読み解きながら「なぜこの自治体が衰退してしまったのか」「どのような施策を講じていれば、衰退を止めることができたのか」「その施策を実行した場合、どのような結果になっていたか」を論じるものでした。なんと、ネットでの検索OK。必要な情報を探す力、データに基づき論理的に考える力、アイディアから見られる受験生それぞれの個性など、探究学習で鍛えた力が評価される課題ですね。経営学とは何か、それを学んだあなたは2040年の社会でどのような役割を果たせるかといった、大学側からのメッセージも感じさせる内容です。

(例)
・産業能率大学「一般選抜(未来構想方式)」
・お茶の水女子女子大学 「総合型選抜(新フンボルト入試)」
・高崎商科大学「総合型選抜(探究・ブレインストーミング型)」
④大学によるプログラムの受講者を対象にする入試

 高校生向けのゼミナールや体験授業など、大学が企画実施する様々なプログラムの受講を前提とする入試です。しばしば「高大接続型入試」と呼ばれることもあります。探究学習が広がる前から始まっていた取り組みも少なくありません。

 多くの場合、学部や学科ごとにプログラムの内容は構成されていますので、高校生は学問理解や職業理解を深めることができます。リサーチの方法やプレゼンの仕方といった研究活動の基本を大学教員から指導してもらえることも。プログラムへの参加自体が、高校生にとっては貴重な学びの機会です。広くどの高校生でも参加できるよう、独自のプログラムが実施されるケースが多いのですが、高大連携協定を結んだ高校との間で実施されているプログラムを、この入試の対象に含めているケースもあります。

 多くの場合、高大接続プログラムに参加したからといって、その大学に出願しなければならないわけではありません。基本的には「プログラムに参加した人だけが出願できる入試」という位置づけ。高校生のうちから大学での研究や、専門領域での学びに理解を深めてもらうことも、こうした高大接続型入試の狙いなのです。これもミスマッチ予防の取り組みですね。そのため高校1年生、2年生のうちからプログラムに参加できる例が少なくありません。

(例)
・産業能率大学「キャリア教育接続入試」
・金沢大学「KUGS特別入試」
・東京都立大学「ゼミナール入試」
・東京農工大学 農学部「ゼミナール入試」

 以上、4つの分類で事例をご紹介しました。上記はあくまでも事例のごく一部です。なお「特定の学部だけが対象」といった例もありますし、年度によって詳細が変更される可能性もありますので、生徒さんに勧める際は大学のウェブサイト等でご確認いただければと思います。

 探究学習で経験できる学びのプロセスは、大学で行う学術研究のそれと基本的には同じ。探究学習で鍛えられた力を評価することは、大学進学後の成長可能性を測ることに直結します。運営する大学の側にもかなりの負担がかかる入試ですが、それだけの意義を見出しているからこそ、各大学とも手間や時間をかけて実施しているのですね。

 生徒の皆さんが時間、労力、そして情熱を注いで取り組まれた探究学習。そこには様々な学びや気づきがあったはずです。そこで身についた力を入試で評価することで、高校でのさらなる探究学習の発展を応援したい……という想いを持つ大学関係者も、少なくないのではないでしょうか。

 さて、今回ご紹介した取り組みは、私立大学の事例が中心でした。
「本校は国公立大学への進学を推進しているので、探究学習は関係ない」「国公立大学を目指させるなら、探究学習にはあまり時間をかけられない」なんてご意見も、しばしば耳にします。そこで次回は、国公立大学進学と探究学習の関係についてご紹介したいと思います。
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/