プロが教える「進路づくり」 第5回 <2024年度連載>

第5回 気をつけて! 受験生の保護者がやってしまいがちなNG行動

受験生の皆さんは、悔いのない夏を送れたでしょうか。8月が終われば、総合型選抜や学校推薦型選抜はいよいよ出願の時期。一般選抜に向けた準備も本格化していきます。ここまで来ると「後はもうやるだけ」なのですが……しばしばご家庭の中で受験生本人と保護者の方針が食い違って言い争いになったり、思わぬ落とし穴にはまったりすることも。この時期、保護者の皆様に心がけていただきたいことを今回はご紹介します。

①志望校選びでは、保護者ではなく本人の意見を優先させよう

どの大学に出願するか、具体的なプランを決定するのがこの時期です。模試の結果などによっては作戦変更を検討することもあるでしょう。憧れの第一志望校だけでなく、併願校もいよいよ決めねばなりません。入試日や手続締切などのスケジュールによっては、甲乙つけがたい2校のうちどちらかを選択せねばならないことも。受験料だって、無限に出せるわけではありませんよね。

 この段階で、親子の意見が食い違うことがあります。第一志望の選択は本人の意見を尊重したけど、併願校としてはあの大学も受けて欲しい、なんて意見が親心からつい出てしまう。特に世間的に知名度が高い大規模総合大学や、国家資格に直結した学部などを保護者は推しがちです。その助言が必ずしも間違っているとは言わないのですが、学ぶのも働くのも本人であることを忘れてはいけません。

 将来のリスクが少なさそうな選択肢を子に提示したくなる気持ちは理解できます。でも、保護者が望む職業や生き方が本人にとってベストとは限りません。本コラムでこれまで繰り返し述べてきたように、進学後に学習意欲が下がり、結果的に予期せぬ中退や留年に陥る大学生は皆様が想像しているより多いのです。

 ミスマッチが起きた際、「私は本当は○○を学びたかったのに」と本人が悔いを残すことは避けたいもの。本人が「ここで学びたい!」と望んでいる大学や学部があるのなら、それを尊重される方が最終的には良い結果に繋がると私は思います。親子で意見を出し合うのは良いのですが、最終的には本人に決めさせましょう。自分の生き方は自分で決めるという、将来にわたる大切な学びの機会でもあるのですから。 

②ゴールは合格を得ることではなく、進学後の成長と心得よう

受験は魔物です。受験生ともなれば、「落ちたらどうしよう」という不安を誰だって抱えるもの。それは保護者も同様です。できれば確実に合格を得たい。そこでついチェックしてしまうのが指定校推薦枠です。  各大学への推薦枠を誰が使うのかは、高校の方で決定します。9月中旬頃までに生徒から希望を募る高校が多いようです。一つの枠を同級生同士で争うことはありますが、校内で内定が得られれば基本的にはほぼ確実に受かる。それも、かなり早いタイミングで。これは確かに魅力的でしょう。  ただ前述したミスマッチの原因になりがちなのも、実はこの指定校推薦。本人が元々強く志望している大学であれば全く問題ないのですが、中には最初から指定校ありきで進路を検討するご家庭もあります。「指定校推薦枠の中から、どこか知名度のある大学を選ぼう。何を学ぶのかあまり知らないけれど、経済学部や法学部なら就職にも強いだろうし、良いかな」……なんて選び方をし、進学後に後悔するケースも。これでは本末転倒です。   指定校推薦に限らず、「確実に合格する」ということを最優先にするあまり、それほど興味を持てない進学先に出願してしまうケースは多々あります。受かるために学ぶのではなく、学ぶために受かるのが大学受験であることを忘れないようにしましょう。  また総合型選抜や学校推薦型選抜で早めに合格を得た方が勉強をやめ、4月まで遊び続けてしまうというケースも少なくありません。これも進学後のつまずきに繋がりがちですので、ご注意ください。

③資金計画は「予定外」の可能性も考慮して、十分に

■(参考)「第5回 大学進学後の学費、今のうちに考えておこう」<2023年度連載>

 ↑以前のコラムでも解説したのですが、総合型選抜や学校推薦型選抜は早期に合格がもらえる分、入学金や授業料の納入期限も早めです。また一般選抜での進学も含め、多くの場合、各種の奨学金は初年度の納入金には間に合いません。

 ちなみに奨学金ですが、多くの場合、無利息のものや給付型のものには学業成績による厳格な基準が設けられています。初年度の基準は突破できても、大学進学後に油断をしていると、2年次以降から基準を満たせなくなることがあります。

 あまり考えたくないと思いますが……学業の状況によっては、当初の予定以上に出費がかかることもあります。可能な限り、余裕を持った計画を立てておきましょう。

 以上、保護者がこの時期に心がけておくべきポイントでした。こうした点に気をつけながら、それぞれに合った形で受験に向き合っていただければと思います。皆様が良い春を迎えられることを願っております。
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/