プロが教える「進路づくり」 第5回 <2023年度連載>

第5回 大学進学後の学費、今のうちに考えておこう

【保護者が想定していない出費も? お金の「落とし穴」に注意!】

受験生を抱える保護者の皆様、学費のご準備は大丈夫でしょうか? 今日は、必要なお金のことを解説します。

 いま「気の早い話だな、まだ夏だよ」と思った方もいることでしょう。そこに落とし穴があります。大学1年次には入学金と授業料が必要になるのですが、これらの入金は一般的に「入学手続き」のとき。合格時期の早い総合型選抜や学校推薦型選抜では11月末頃が振込期限という例もあります。授業料は春・秋の分納も可能ですが、いずれにしても早めに備えておく必要があります。

 奨学金は多くの場合、これらの入金期限に間に合いません。日本学生支援機構の奨学金を例にとると、高校3年生の段階で申請できる「予約採用」でも実際に支給が始まるのは進学後の5月以降です。油断して、せっかくつかみ取った合格をふいにしてしまうケースが毎年、多くの大学で見られます。一次手続時に入学金、二次手続時に前期授業料……と納入期限を分け、期日までに入学辞退をすれば一次手続金を返還するという大学もあります。入試の成績上位者などに向けた奨学金や特待生制度を独自に用意している大学もありますので、情報はチェックしておいた方が良いでしょう。

 さて必要な金額ですが、私立大学の学費は学部によって異なります。経営や経済、法学などの社会科学系では、4年間で総額400〜450万円程度に収まるところが多いようです。大学によっても差がありますね。国公立大学では学部ごとの差がなく、4年間で250万円程度と金額も安い。保護者としては国公立を勧めたくなるかも知れませんが、「地元の私立」と「一人暮らしの国公立」では生活費がかからない分、前者の方が安くなる場合も少なくありません。

 そして多くの保護者が想定していないのが、留年や中退の可能性です。本コラムではこれまでにも何度かご紹介してきましたが、大学の留年率や中退率は世間で思われているよりも高いのです。少し前のデータですが、たとえば一橋大学経済学部を4年で卒業するのは入学者の66.7%。横浜国立大学経済学部で68.8%です。国立大学でもこの数字が8割未満、7割未満という例は珍しくありません。産業能率大学は経営学部が86.6%、情報マネジメント学部で87.7%と、全国でも留年や中退がかなり少ない例になりますが、それでもゼロではありません(※)。

 授業料の足しにとアルバイトのシフトを入れすぎた結果、朝の授業に出られない、課題に十分な時間を割けないなど学業に悪影響が出て、結果的に留年するなんてケースも。アルバイトで得られる経験も価値のあるものですが、これでは本末転倒です。家庭の事情が許すのであれば、アルバイトを決めるのは毎週のスケジュールがほぼ確定する履修登録の後をお勧めします。

【大学をフル活用し、学費の何倍ものリターンを得る……という発想で】

さて、ここまで保護者にとってはちょっとコワい話をいたしました。でも、「できるだけお金をかけないようにしよう」という発想ばかりなのもお勧めはしません。たとえば海外留学をしたり、休学して長期インターンシップに参加したりといった活動をすれば、当初予定していなかった費用が発生することもあります。ぶっちゃけて言えば、「もっともお安い選択肢」を探すのなら、地元の国公立大学がベストということにもなるでしょう。

 でも、教育にかかる費用は未来への投資でもあります。留学も長期インターンシップも、他のものには代えがたい貴重な経験です。社会人になってからではより多くの費用や負担が必要になる。多少のお金がかかったとしても、学生時代に挑戦する方がリスクを押さえ、得られるメリットを最大化できます。一人暮らしなどの経験も同様で、「地元で働きたい!」と考える方こそ、学生時代は別の地域で過ごしてみるのもアリです。居心地の良い場所に居続けていては得られない、様々な学びに出会えるはずと思いますよ。

 留学やインターンシップも含め、今は民間企業が提供するプログラムも豊富にあります。ただ一般的には、大学が用意するプログラムの方が安価なことが多いですし、安心して学生に勧められる、着実な学びが得られるといった内容面でのチェックも行われています。こうした機会も含め、大学という環境を使い倒し、「モトを取る!」という姿勢をお勧めします。卒業に必要なギリギリの単位数だけを取るのではなく、興味関心のある授業をどんどん履修したって良い。面白そうな取り組みをしている教員のところに話を聞きに行ったって良いのです。様々な課外プログラムを用意している大学もありますので、そうしたものには率先して参加してみましょう。

 必要な費用の準備には気を配りつつ、学費の何倍もの成長を得られる4年間を過ごしていただければと思います。

(※)各大学の数字は、読売新聞教育ネットワーク事務局 『大学の実力2019』(中央公論新社)より
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/