プロが教える「進路づくり」 第1回 <2023年度連載>

第1回 「就職に強い大学」の真実

【入学難易度が同程度の大学でも、就職実績には大きな差があることも】

全国の高校で保護者の皆様へ進路講演を行っていますが、進学先を検討する上で「就職できる大学かどうか」を重視する方は本当に多いです。

 ただ本人のキャリアビジョンによって、就職の意味は違ってきます。看護師や学校教員など、国家資格が必要な専門職として働きたいのか、あるいは企業の総合職としてキャリアを築くのか。極端な話、美大を出てクリエイターとして独立したいのなら、そもそも組織に勤める必要すらないかもしれません。たまに「就職率が高いので、娘には看護学部を勧めています」なんて保護者の方がいますが、お気を付けください。本人がその道を望んでいるのでなければ、思った通りの結果にはならないものです。

 ……という違いを前提にした上で。それでも確かに「就職に強い大学」は存在します。

 学部名称や入学難易度(偏差値)などが似たようなものでも、就職率の数字には大きな差があるなんてケースは、実はザラにあります。「偏差値が高い大学ほど就職率もきっと高い」なんて思い込んでいたら、「就職活動のサポートがもっとあると思っていたけど、実際には大学がほぼ何もしてくれなかった」なんてことも。

(参考)■2021年度・第7回「正規雇用率や留年率など、データでわかる大学の実力」

大学ごとの違いを雄弁に語るのは、就職率の数字です。本コラムの過去記事で以前、「入学4年後の時点で、正社員になっているのは何パーセントか」という正規雇用率をご紹介しました。青山学院大学経営学部、駒澤大学経営学部、産業能率大学経営学部、専修大学経営学部、東京経済大学経営学部、東洋大学経営学部、日本大学商学部という7校の正規雇用率を比較すると、最も高い産業能率大学と、最も低い大学とでは、実に13%ほどの差があることがわかります。

 数字の定義は要チェックです。どの大学もパンフレットには「就職率95%」といった高い数字を載せていますが、その実態は千差万別。内定を得られなかった学生を就職希望者数から抜くなどして数字を調整し、就職率の数字を高く見せている大学もあります。その点、産業能率大学は就職に関するデータを詳細に公表されていて、個人的には好感が持てます。保護者の皆様にも、こうした実数を確認されることをお勧めします。

(参考)■「2021年度 学部・学科別 就職内定状況」(産業能率大学)

【就職力の差は、1年次から広まり始めている】

就職率が高い大学と、低い大学の差は、どこから生まれるのでしょう?

 就職活動を支援するキャリアセンターのスタッフが熱心かどうか……といった要因もあるでしょう。でも、それ以上に大きい違いは「普段の授業で鍛え上げられているか」「日常的に、将来のキャリアを真剣に考える機会があるか」といった点にあると思います。就活を始める3年生以降ではなく、1・2年生のうちから少しずつ大学間の差は広まっているのです。

 主体性やチームワーク・リーダーシップ・協調性、課題設定・解決能力、論理的思考力などを、企業は大卒者に期待しているそうです。こうした汎用的なスキルの習得を意識し、問題解決型の課題やグループワークに力を入れている大学であれば、自ずと学生達は早くから鍛えられることに。多様な社会人と接する機会が多ければ、学生のキャリア意識も磨かれます。

 仕事を通じて継続的に成長し続けられるような人材を、企業は求めているのです。付け焼き刃のような就職対策だけでは、そうした人材になることはできません。結局のところ、社会の様々な課題について、頭をフル回転させながら真剣に考え続ける日々こそが、一番の就職対策でもあるのです。就職率の数字と併せて、そうした各大学の教育の中味もぜひチェックしてみてください。

(参考)
■「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」(一般社団法人 日本経済団体連合会)
■就職・キャリア(産業能率大学) 
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/