プロが教える「進路づくり」 第9回 <2022年度連載>

第9回 何のために大学へ行くのか

【大学進学の理由は人それぞれだけど、共通して大事な点がある】

高校生に対し、「みなさんは何のために大学へ行くのですか」と問うことがあります。いただく回答は様々です。高校までに学べなかった専門知識が得られるから、好きなことをとことん研究できるからなど、学びが楽しみだからという理由を挙げる方もいれば、将来の選択肢が増えるから、仕事で必要な資格が取れるから、良い就職先に繋がるからなど、将来の仕事に有利だという理由を挙げる方もいます。通っている高校では大学に行くのが当たり前になっているから、保護者や学校の先生に言われたからなど、周囲の環境に言及する方も少なくありません。

 大学進学の動機や理由は様々で良いと思います。歴史の授業が好きだから文学部へ行く、社会のルールについて考えることが楽しいから法学部へ行くなど、単に面白そうだからという理由で進学したって構いません。「明確な目標はないけれど、そんな自分を変えたいから大学へ行きたい」というのも大いにアリです。専門学校は特定の職業で必要な知識や技術を習得するための職業訓練機関ですので[進学動機=就きたい職業を目指したいから]でないとミスマッチが起きかねませんが、大学はもっと自由で柔軟です。

 ただし大学も「学ぶための場所」であることは間違いありません。アルバイトやサークルといった課外活動も将来の成長に繋がる良い機会なのですが、圧倒的に長いのは授業の時間。授業内容に知的好奇心を覚えられるかどうかは大切です。また大学で学べるのは、特定の職業に直結するような内容だけではありません。論理的思考力や語学力、問題解決力など、未知の未来に対応する力を磨くための授業も多いのです。そうした面も含めて大学での学びにわくわく部分があるのなら、大学進学はお勧めしたい進路です。

【充実した大学生活を送るために心がけて欲しいこと】

その上で。これから大学へ行く高校3年生にも、これから進学先を検討する1・2年生にも、声を大にしてお伝えしたいことがあります。

 世の中で広く言われていることですが、高校までと違い、大学は主体的に学ぶ学生のためにある場です。海外留学のプログラムや特別な課外活動など、能動的に多くを求めて動く学生には多くの機会を与えてくれますし、最低限のことだけを受け身で処理する学生にはそれなりの機会しか与えてくれません。特に大きな総合大学ほど、「本人次第」で生まれる差は大きくなるように思います。有名大学なのだから入学さえすれば将来も安泰だと思うのは間違いです。

 「まだ就職したくないし、遊びたいから」という理由で進学し、教室の後ろでスマホをいじり、何となく学年を重ねていく大学生も世の中にはたくさんいます。そうではなく、もっと充実した大学生活を送りたいという方は、鍛えられそうな環境に思い切って飛び込んでみることをお勧めします。授業の後ろでスマホをいじっているだけでは卒業できない大学も、世の中にはあります。1年次から学生同士でのグループワークが多かったり、人前で発表しなければならない機会が多かったり。最初は大変かも知れませんが、こういうのは経験を重ねるうちに慣れていくもの。ついて行けるだろうかと心配しなくても大丈夫。4年後は、自分でも驚くほど変われているはずです。

 様々な社会人と話したり、ちょっと厳しめのアドバイスを受けられたりする環境も良いですね。成果を上げるために本気で取り組むプロジェクト、なんていうのも最高です。こうした場で身につく力は、社会に出てから必要とされる力でもあります。最初から主体的に動く自信がない学生にこそ、他者と関わる仕掛けの多い大学を私はお勧めします。教育力に自信を持っている大学は、学生達が一歩一歩ステップを上がれるよう授業やカリキュラムを工夫していますし、悩んだときのフォロー体制もしっかり整備しています。そうした点をぜひリサーチしてみてください。既に進学先が決まっている方は、その大学が用意している「最も刺激を受けられそうな場」に飛び込んでみると良いでしょう。

 大学生ともなれば、保護者など周囲の大人が関われる機会はほとんどなくなります。後は本人次第。だからこそ進学先を選ぶときや、進学先へ送り出すその瞬間にぜひ、「あなたは何のために大学へ行くのか」を改めて問うてみてください。

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倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/