プロが教える「進路づくり」 第8回 <2022年度連載>

第8回 合格通知を手にしてから、すべきこと

【この時期だからこそお伝えしたい、進学先選びの大切なポイント】

全国で11月から総合型選抜、12月から学校推薦型選抜の合格発表が始まっています。早い方ではもう2ヶ月経っているわけですね。さらに1月以降は大学入学共通テストを皮切りに、各大学の一般選抜もスタート。合格通知を手にする方は今後ますます増えていくことでしょう。

 学校推薦型選抜や総合型選抜であれば、最初に合格した大学が第一志望というケースも多いでしょう。専願であることを出願条件にしている大学も少なくありません。一方で一般選抜の場合は複数の大学に合格することもあります。最近では併願可能な総合型選抜も増えていますので、総合型で2校以上受かる、あるいは総合型で受かってから他大学の一般選抜に挑戦する、なんて方もいます。産業能率大学でも総合型選抜「MI(マーケティング・イニシアティブ)方式」という、他大学との一般選抜が可能な入試方式が用意されていますね。使えるチャンスは最大限活用して良いと思います。

 「複数の大学に受かってしまった! どちらにしよう……」と迷う人もいます。たとえば入学難易度にそこまで大きな差がなかったり、本人と保護者の間で行きたい(行かせたい)大学が違っていたりといったケースです。「世間的に知名度が高いのは大規模総合大学のAだが、本人は小規模なB大学の教育をすっかり気に入っている」なんて場合、保護者は前者を推しがちです。中には「保護者の意見で国際系の学部も受験したけど、本人は文学部に行きたい。結果的に両方から合格をもらい、悩んでいる」など、学部選択を突きつけられている受験生もいます。

 受験生を支える大人の方に意識して欲しい点は2点あります。一つめは、「学ぶのは本人」であるということ。本コラムではこれまで何度か、望まぬ中退や留年の実態についてご紹介しています。海外留学やインターンなど、学びのために卒業を伸ばすのなら良いのですが、入学早々に学習意欲を失い、1年生前期の時点でほとんど単位が取れていないような大学生も実は少なくないのです。たとえ保護者や高校の先生方が良いと思う大学であっても、本人がそう思えないのなら、思った通りの結果にはなかなかならないものです。

 二つめは、「教育力をしっかりチェックしよう」ということです。第三志望と第四志望の大学に受かり、どちらかを選ばねばならない……なんてケースで特によく起きるのが、「なんとなくのフィーリングで決めてしまう」というもの。キャンパスの雰囲気や立地、偏差値などだけで大事な進学先を決めてしまうケースが意外に多いのです。第一志望校と違い、併願先として考えていた大学の場合、多くの受験生は教育の中味や成果について、そこまで深くリサーチできていません。でもこれ、ちょっと心配です。

 進学する可能性が少しでもあるのなら、ぜひその大学の教育成果に関する評価(就職実績や各種の報道、教育に関するランキングなど)をしっかり調べてみてください。これは保護者の方がサポートしやすい作業でもあると思います。そしてその後は、実際に行われている教育の中味を見てみましょう。アクティブラーニングや課題解決型授業の徹底度、カリキュラムの柱となる重要科目の位置づけなどを、大学案内なども使って詳細に知るのです。そうすると、「なるほど、この大学の就職率が好評なのは、こういう実践的な授業を1年次から徹底しているからなんだな」といった因果関係が見えてきます。それを複数の大学について行い、比較すると、受験生本人も納得できる1校を決めやすくなると思います。

 高校の先生方はぜひ生徒さんが1・2年生のうちから、幅広い大学の教育についてリサーチさせてください。正直なところ、高校3年生の後半になってからではこうした活動のための時間を十分に確保できません。こうした積み重ねが進学後の後悔を減らすことに繋がります。

【進学先を決めてからの過ごし方】

保護者の皆様は入学金や授業料など、お金のご準備に追われる時期でもあります。こちらも過去のコラムで触れましたが、入学金は通常、合格発表の数日後から始まる入学手続期間中に必要になります。まとまった額を準備せねばならないわけですが、日本学生支援機構などの貸与型奨学金はこのタイミングに間に合いません。高校在籍中に予約申請を済ませていたとしても、実際に振り込まれるのは大学入学後になってしまうからです。事前に準備をしておきましょう。一時的に入学金相当額を融資してくれるような仕組みも各所にありますし、どうしても間に合わないという方は大学へ相談してみるのも手。分納など、柔軟に対応してくれる例もあります。
(参考)2021年度 第10回 大学の学費総額と、準備にあたっての注意点
 そして学校の先生方は、この時期の合格決定者を持て余しがちではないでしょうか。まだ一般選抜に向けて勉強している生徒がいるので、できれば教室で浮かれて欲しくはないし、高校のカリキュラムには最後まで取り組んで欲しい。とは言え受験がないので本人達の意識は学習から離れてしまう……先生も悩みますよね。

 個人的には、この時期にこそ、合格者向けのキャリア講演会などを企画されることをお勧めします。実際、私も毎年そうした趣旨の場によく呼ばれます。高校卒業後の行き先が決まったからこそ、「社会が今後、どう変化していくか」といった内容は自分事として深く響きます。結果的に「ちゃんと勉強した方が良いんだな」という想いも生まれますよ。外部の講師を呼んでも良いのですが、たとえば各科目を教えてきた先生方が、ご自身の大学時代の思い出などを語っていただくのも、生徒さんからすると興味津々かもしれません。学問への熱い想い、全力で挑戦したことなどをぜひお話ください。

 入学前教育のための学習コンテンツなどを合格者に向けて用意している大学も多いです。ただこれも、「どうせ合格は決まっているし」と考えて真剣に取り組まない合格者はいます。入学後の授業についていくために必要な準備であり、甘く見ていると望まぬ留年や中退をしかねないんだぞ……なんてことも、先生からお伝えいただければと思います。

 高校生活も残りわずか。最高の春を迎えられるよう、周囲の方からもアドバイスをしてあげてください。

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倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/