プロが教える「進路づくり」 第8回 <2021年度連載>

第8回 高校での進路指導、先生方はこんなことに悩んでます

保護者に知っていただきたい、進路指導現場の悩み

高校の先生方を対象とした研修で、しばしば講師を務めています。進路指導や高大接続、大学入学者選抜への対応などが主なテーマ。各都道府県の進路指導協議会が主催する研修ですと、各高校で進路指導の責任者をされている200人以上の先生方とお話しすることになります。そんな先生方のお悩みについて知りたいと考え、以前『進路指導白書2017』という本を作ったこともありました。

今回のテーマは、保護者に知っていただきたい、進路指導現場の悩みです。
「今の大学受験のことはよくわからないから、進路のことは先生にお任せしたい」と考える保護者の方は少なくないのですが、先生の側も課題を抱えています。その点を理解し、高校とご家庭が上手く協力し合えれば、生徒本人のメリットにもなるはずです。
(悩み1)時間が足りない
とにかく時間が足りません。文理分けや選択科目の決定など、進路決定のための様々な締切は決まっていますので、どうしても慌ただしいスケジュールになってしまいます。
限られた時間枠の中で進路講演やリサーチ学習などが実施されるものの、こうした行事だけで十分に視野を広げ、考えをまとめられる生徒ばかりではありません。すべて学校任せにするのではなく、できる限り各家庭で本人の将来について調べ、理解を深めておいて欲しいというのが先生方の願いです。

部活動に力を入れている生徒の場合、土日や夏休みの時間も練習漬けになり、オープンキャンパスなどに参加しないままというケースが散見されます。
進路の先生は部活動の練習時間まで把握できませんし、生徒本人は「練習を休める雰囲気ではないから」と、周囲に気を遣ってしまいがち。「そう言えば、大学見学は行く予定なの?」と、ご家庭で後押ししていただけると先生も助かるはずです。
(悩み2)情報が足りない
大学で取得できる学位の専攻表記は、いまや700種類以上。毎年のように各大学は学部・学科を新設しています。これらすべてを把握している先生など存在しません。
入試方式も多様化していますし、同じ「一般選抜」でも受験科目や出題範囲、求める能力の違いなどは大学によって多種多様。様々な入試方式があるというのは、受験生にとってはチャンスでもあるのですが、指導する側には限界もあります。進路指導暦ウン十年という大ベテランの先生でも、ついていくのは大変というのが現状なのです。

そして中退率など、ご家庭にとって重要なデータは大学が高校に出したがりません。一応、各大学の教職員が高校訪問を行っているのですが、受験生を増やすためのPRが目的ですので、どうしても良い部分だけを伝えに行くことに。高校の先生からすると「どの大学も同じようなことしか言ってこない」という結果になります。

むしろ保護者の方が大学に対して「実際、中退者は何人くらいなのですか?」などと遠慮なく質問できます。先生は数十人、数百人の生徒をカバーしなければなりませんが、保護者は我が子のことだけを考えられますので、大学・学部選びのために集める情報のポイントも絞れます。リサーチのポイントは高校の先生に教えてもらい、詳細なデータは各家庭で集める方が良い結果に繋がります。

≫参考:2021年度 第7回 正規雇用率や留年率など、データでわかる大学の実力(リンク) 
(悩み3)ご家庭との連携が足りない
多くの先生が口にするのが「保護者の意向が強くて」です。
熱意があるという意味なら良いのですが、「将来安泰なので、娘はぜひ看護学部へ」など、学部・学科選びを保護者がリードし、しばしば考えを押しつけてしまっていることもあります。本当に本人がそのキャリアを理解し、望んでいるのか、先生が心配になることも。

「指定校推薦で進学したいので、学校が持つ推薦枠を教えて」と質問する保護者も多いようです。早く確実に進路を決めて安心したいという思いはわかりますが、この選び方も進学後のミスマッチに繋がりがち。
先生からすると「この生徒なら本当は冬までにもっと伸びるはずなのに」と思うケースも少なくないそうです

本人の幸せを望むのは保護者も先生も同じです。手段やプロセスについての見解がズレることはありますが、それは持っている情報が違うからかも知れません。いずれにしても最終的には、生徒本人が決めなければならないこと。「なるほど、こんな意見もあるね。最後は自分で考えて決めなさい」と任せる姿勢をぜひ。


以上、よく先生から伺うお悩みをご紹介しました。
このコロナ禍により、生徒をオープンキャンパスに送り出しづらくなるなど、学校での進路指導もかなりの影響を受けています。学校の悩みを知れば、家庭ですべきことも見えてくるはず。ぜひ協力し合ってみてください。

(ご参考)産業能率大学の入試イベント

倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/