プロが教える「進路づくり」 第6回 <2020年度連載>

第6回 地元を離れて大学へ進学するという選択

慣れた環境を離れることで得られる気づきは多い

私は普段、北海道から沖縄の離島まで、全国各地の高校へ進路講演に伺っています。地方では「地元に残るか、外に出ていくか」の選択で悩む高校生が少なくありません。悩むタイミングは主に、大学や専門学校に進学するときと、就職するとき。将来の夢や、保護者など周囲の大人の期待、経済的な事情など、様々なものと嫌でも向き合うことになります。通える範囲に希望の進学先がない場合、「親元を離れて進学するか、地元で就職するか」の二択を迫られることもあるでしょう。

学生時代の海外留学経験を高く評価する企業は年々増えています。語学力の高さに加え、慣れ親しんだ環境を飛び出した経験そのものが、企業には魅力に映ります。自分のことを誰も知らない場所で、価値観も常識も、育ってきた文化もまるで違う人と協働しながら、一つの狭い価値観にとらわれない視野や思考を磨いてきた人。そんな人が組織にもたらす影響に期待しているわけです。

それで言えば、高校生にとっては地方から都心、都心から地方の進学だって十分、アウェーへの挑戦です。むしろ言語が同じだからこそ「当たり前だと思っていたことが、実は同じじゃない」という差異に気づけることもあるでしょう。
かく言う私自身は、千葉県の実家から都内の大学に通っており、当時はその選択に一切の迷いも疑問もありませんでしたが、地方の若者の方が自分の生き方・キャリアを考える上で健全な迷いや気づきの機会を得られているのかもしれない、と今は思います。

ある地方の中核都市で、県庁の新卒採用を担当されている方とお話ししたことがあります。地域には難関国立大学を始め多くの大学があり、県庁への入職を希望する学生も多いそうです。そういう学生は皆、優秀ではあるけれど、だからといって採用枠を地元の学生達で埋めることはない。違う地域の出身者や、一度地元を出てから違うエリアで学び、Uターンしてきた学生も必ず採用する、とその方は仰っていました。「地元しか知らない人では気づかない観点や、出せない意見があるから」だそうです。
保護者の皆様には「将来的に地元で暮らすのなら、地元の大学に進学した方が有利なのでは」と考える方もいらっしゃると思いますが、一度、地元を出た人の方が冷静に街の魅力や課題を見つけられる、なんて見方もあるのです。
SANNOでは地域創生に取り組むプロジェクト授業やゼミ活動に学生が取り組んでいます
SANNOではアクティブラーニングを導入し、様々な価値観、意見に触れる機会が設けられています

地元を離れて進学する場合の注意点

かつての私がそうであったように、自宅から通える範囲だけに進学先を限定する高校生は今も少なくありません。一人暮らしには多額の生活費がかかりますので「できれば実家から」は保護者のホンネでもあるでしょう。でも住み慣れた地元を離れること自体が、他では得がたい貴重な成長のチャンスであることも事実です。保護者の方には、長い目で見て得られるメリットも含めて、本人の意見を聞いていただければと思います。

地元を離れての大学進学を本人が希望された場合、気をつけておきたい点があります。

第一に、本コラムで再三申し上げていることなのですが、「遊べそうな場所」で進学先を選ばぬようお気を付けください。以前、九州のある高校で「福岡、大阪、東京のどこに住めば楽しく遊べるか」から進学先を考えようとしている生徒がいました。気持ちはわからなくもありませんが、進学後のミスマッチが起きそうなパターンです。「服飾デザインを学ぶから流行の発信地に行きたい」「マーケティングを学ぶから企業との連携がしやすい地域が良い」……など、何を学びたいか、学ぶにはどのような環境が良いか、学びに関わる理由で進学先を選んでほしいと思います。

第二に、アルバイトを決めるのは大学に進学し、履修登録が終わってからをお勧めします。一人暮らしには費用もかかるので、早くからアルバイトを探す方は多いと思うのですが、無茶なシフトで生活リズムが崩れたり、学習時間を圧迫して授業についていけなくなったりという方が少なくありません。これでは本末転倒です。

そして第三に、今はコロナ禍の影響も十分に考慮してください。この春は飲食店の営業自粛でアルバイトができず、収入難に追い込まれる学生の増加がしばしば報道されました。アルバイトの状況に依存しすぎる生活プランはちょっと心配です。オンライン教育に備え、ネット環境はしっかり整えた方が良いでしょう。

以上のような注意点はありますが、個人的には地元を離れて進学する人を応援しています。特に「将来は地元で働きたい」と考えている地方の高校生にとって、地元を離れて学ぶ大学四年間は貴重な機会。大変なことも多いと思いますが、得られるものは多いはずです。

(ご参考)産業能率大学の地域別進学状況

産業能率大学には、全国の様々な地域から学生が進学しています。約1/4の学生(※)が、キャンパスがある東京・神奈川以外の都道府県の出身です。
※2019年度学生生活アンケ—トより
≫志願者・合格者・在学生出身高校一覧 

(ご参考)SANNOに決めた理由、4年間の抱負~入学者の声~

石垣 凜茄
沖縄県立八重山高等学校出身

大学の4年間の抱負、目標
将来の夢である地元「石垣市」の地域創生に関わる為には、外の世界をもっと知らないといけないと感じていました。そのため大学4年間では視野を広げるために、授業はもちろん学外の活動にも積極的に挑戦し、多くの人と協働していきたいです。様々な地域から来ている学生や留学生・社会人の方々との関りを通じて多様な考え方に触れることで「私の視点」を見つけたいと思います。
髙橋 諄
青森県立弘前高等学校出身

SANNOに入学を決めた理由
もともと国公立大学を志望していたのですが、併願校として私立大学を検討したなかで、数々の大学ランキングで上位にランキングされているSANNOに興味を持ちました。進学先を決める際、国公立大学併願入試の特待生制度があったこと、そして何よりも、他の大学では経験できない中身の濃い4年間を過ごせると考えSANNOに決めました。
春山 桃咲
高崎市立高崎経済大学附属高等学校出身

SANNOに入学を決めた理由
大学選びで重視したのは、自分の力を試すことができる大学か、視野を広げることができる大学かということです。SANNOは、グループワークや企業とコラボレーションしたPBLなど、実践的な授業で自分の力を試すことができます。その中で、自分の意見をぶつけ、多くの考え方を知り、切磋琢磨することで成長したいと考えています。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/