プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第8回 <2019年度連載>

第8回 これからの「公務員」に求められる力

保護者が子どもに望む「公務員」。しかし今後は……?

株式会社クラレは毎春、小学1年生になる子どもとその保護者へアンケートを実施し「将来就きたい職業」と「就かせたい職業」を調査しています。
保護者が子どもに「就かせたい」職業を見ると、男の子部門の1位は公務員。1992年からこれまで通算28回の調査が行われ、公務員はうち27回でトップと圧倒的な支持を集めています。女の子部門では1位の看護師を筆頭に医療・教育系の専門職も目立ちますが、公務員も2位と高順位です(※1)。

一口に公務員と言っても、実際には地方公務員もあれば国家公務員もあり、また地方公務員にも行政職や技術職などの様々な区分があります。警察官、消防官なども地方公務員ですね。
一般的には仕事選びなどの場面で「公務員」と言う場合、市役所や県庁などで働くような地方公務員・行政職を指すことが多いでしょうか。

公務員人気の背景には、雇用や給与の保障があってリスクが低そうだから安心、といった保護者の期待やイメージがあるのでしょう。しかし、地方自治体が今後向き合う社会状況を見ると、少し違った側面も見えてきます。
日本創生会議が2014年に打ち出した「消滅可能性都市」という言葉があります。少子化や人口移動などにより、20~39歳の女性が2010〜2040年の間に5割以下へ減少する自治体のことを指します。子どもを産める世代が減れば必然的に人口は減少していきますので、教育や医療を含む各種の行政・民間サービスのほか、電気や上下水道、道路などのインフラも維持が難しくなります。税収が減る一方で高齢化は進みますから、医療や福祉のコスト増は避けられません。「○○年後は財政破綻するかも……」と危機感を抱く自治体は、実は少なくないのです。日本創生会議がまとめた提言では896の自治体が消滅可能性都市に選ばれています。

「公務員なら生涯安泰」「民間に比べて仕事もハードではなさそう」などというイメージは、少なくとも今の高校生・大学生世代には当てはまらないと思った方が良いでしょう。上述したような厳しい社会状況に向き合いながら、ギリギリのリソースの中で工夫を重ね、様々な方と関わりながら社会の課題を解決していく。むしろ民間企業以上に創意工夫が求められる現場になるはずです。

これからの公務員に求められる力や素養とは

これから公務員を目指す方が磨いておくべき素養として、いくつかの要素が考えられます。

第1に、問題発見・解決能力です。公務員の仕事として「ルールに則り粛々と手続きを行う」というイメージをお持ちの方もいると思いますが、実際にはそうした公務員もいれば、規則に当てはまらない問題を解決したり、法律上の規定を越えた様々な価値を生んでいる公務員もたくさんいます。前者のような作業はいずれ人工知能(AI)などに代替されていく可能性もあるでしょうが、後者のような方はより一層求められます。日本は今後、過去に経験したことのない局面に入りますので、前例を調べても解決策は見つかりません。試行錯誤を繰り返しながら、その都市に合った最適解をつくっていく力が必要です。

第2に、数量データを扱い、施策に活かしていく能力です。「EBPM(Evidence-Based Policy Making)」といって、限られたリソースを有効活用し、政策効果を高めるために、データや根拠に基づく政策を企画・実行していくという考え方が地方行政でも求められつつあります。統計データから問題の原因を探り出したり、AI技術を活用したりといった工夫が大事になるはずです。
第3に、深いコミュニケーション力です。たとえばコンパクトシティといって、各種インフラや学校、病院、商業誌施設などの都市機能を一部のエリアに集中させ、効率化を進めて将来的にも持続可能な都市にする……という構想が地方自治体の間で議論されています。
しかし、そのためには既に暮らしている住民に移住を依頼する、あるいは「今後はこのエリアに住まないでください」といった施策を地域住民に説明するといった、ハードな現場に立つ必要もあるでしょう。タフな対応や、辛い決断をしなければならない場面もあるはずです。他者の視点に立ち、困っている方に寄り添う資質は不可欠です。

そして第4に、英語を始めとする語学スキルやグローバル経験です。今後は大都市に限らず、あらゆる自治体で外国人の方が増えていくはずです。
消滅可能性都市のような自治体こそ、実はそうしなければ維持できません。既に役場で長く働いている方が英語を習得することには限界もあるため、これから採用される若い方々に、各窓口でのグローバル対応を期待する自治体関係者は少なくありません。
公務員は、日本が直面する様々な社会課題に向き合う仕事です。楽どころか、むしろ、かなり高い能力とタフさが求められる大変な仕事ですが、だからこそ得られる成果や学びも少なくないでしょう。
興味のある方は学生時代から、地方自治体と連携した授業や都市の問題を解決するプロジェクトに参加してみたり、様々な課題を抱える都市を実際に訪問してみたりすることをお勧めします。地域社会の未来は、次世代の公務員の活躍にかかっています。

※「2019年版 新小学1年生の『将来就きたい職業』、親の『就かせたい職業』」(株式会社クラレ)に関するホームページはこちら

(ご参考)産業能率大学の地域創生に関する取り組み事例

1年次ゼミでの地方への移住促進をテーマにした施策提案
地域・企業と連携した農業ビジネスの可能性に関する研究
国際会議での“SDGs”に基づく施策・アイデアの提言
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/