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第7回 <2019年度連載>

第7回 「通年採用」時代の就職活動と大学生活の過ごし方

長く続いた日本の雇用慣習が、いよいよ激変するかもしれない

日本の大学生の就職活動がいま、大きな転換点を迎えています。キーワードは「通年採用」。人事部に所属されている保護者の方ならきっと既にご存じでしょう。いま高校生の方がいらっしゃるご家庭であれば、ぜひ押さえておきたい動きです。
これまで日本の多くの企業は「新卒一斉採用」と呼ばれる仕組みに則って新入社員を採用してきました。大学3年生の3月以降に企業側が採用広報を始め、4年生6月から選考がスタート。そして大学卒業までに内定を出し、卒業後の4月に入社する……といった一連のプロセスに沿う、日本独特の採用システムです。企業側の動きは、日本経済団体連合(経団連)が定めた就活ルールによって制限されており、基本的にはどの企業もそのルールに従っておりました。大学生の側もこの流れを前提にして就職活動を進めていたわけです。

これに対して通年採用とは、企業が年間を通して、新卒や中途採用といった種別を問わず、そのときの必要性に応じて自由に採用活動を行うことです。新卒一斉採用の慣習がない海外の企業、外資系の企業では従来から一般的な手法でしたが、2019年4月に経団連と大学側が、日本の企業でも今後、通年採用を拡大していく方針で合意しました。現状維持を求める声もあり、政府も従来通りの採用活動を求める姿勢ではありますが、2022年春に入社する現在の大学2年生以降、既存の就活ルールにとらわれない採用活動が徐々に広がっていくものと思われます。

背景にはグローバル化や雇用慣習・働き方の変化があります。新卒一斉採用には雇用の安定化をはじめ、様々なメリットがありますが、一方で留学経験者や海外大学の卒業生が不利になるなどの課題も抱えていました。外資系企業などはそもそも就職協定の影響を受けず、独自に採用を行っています。大学での学びも企業活動もグローバル化する中で、日本固有のルールに無理が生じているわけです。
そして、決定的なのが、メンバーシップ型雇用制度からジョブ型雇用制度へのシフトです。

同じ年齢層の新入社員が一斉に入社し、研修などを通じて関係性を深め、組織の構成員として会社のカラーに染まっていく……そんな新卒一斉採用の仕組みは年功序列や終身雇用、「同期」といった概念など、メンバーシップ型の雇用制度と密接に結びついたものです。仕事の経験に乏しい大学生にとっては、いま持っているビジネススキルだけではなく、将来的に企業が人材育成を行う際の「ポテンシャル」重視で評価してもらえることも非常に大きなメリットでした。

しかし、現在、企業を取り巻く状況が変化し、メンバーシップ型雇用を維持するための余裕も、またそれを維持するメリットも企業は失いつつあります。働く側としても、労働時間や担当業務、勤務地などを会社に委ねて定年まで滅私奉公するのではなく、自分の専門スキルを磨きながら主体的にキャリアを築いていきたいという方が増えています。フレックス制や在宅ワーク、裁量労働制や副業など新しいスタイルの働き方に魅力を感じる声も広がっています。こうした中で、業務内容や給与などを契約で明確に定めて働くジョブ型雇用が、少しずつ企業の側に拡がり始めているのです。都度条件を決め、それにマッチする人材を採用する通年採用の仕組みの方が、こうしたジョブ型雇用には適しているのですね。

「自分で考え、自分で選ぶ」経験は、将来にわたって活かされる

学生から見た通年採用のメリットとしては、(就活ルールにとらわれず)出会いのチャンスが多様に広がること、留学などの挑戦を行いやすくなること、最初の就職先でミスマッチを起こしても再チャレンジの機会が増加することなどが挙げられます。
一方、ポテンシャル以上に「実力」が評価されるため、そこに自信がない学生にとっては厳しくなる側面があります。かつてのように数十人、数百人単位での新卒採用枠を用意する企業が減ったり、「内定を得たけれど、より条件の良い企業に出合えるかも」と学生側が考えたりすることで、就職活動が長期化する恐れもあります。
産業能率大学の2年次インターンシップの様子
大学生活の過ごし方も変わっていきそうです。通年採用が浸透すると、早い段階から様々な企業でインターンシップに挑戦しながら、自分に合う企業や職種、働き方などを模索していく学生が増えていくことでしょう。インターンシップを通じて「どんな専門性で勝負していくか」と考えた結果を、大学での科目履修やコース選択に反映させるようなケースも今後は多くなるはず。中には、インターンシップを通じて早々と卒業後の入社先を確保してしまう学生も出てくるものと思われます。

のんびり大学で学び、遊び、3年生くらいになってからキャリアを考え始める……といった過ごし方では出遅れてしまうかも知れません。インターンシップや留学など様々な挑戦を積み上げ、密度の高い大学生活を送った学生が、様々なチャンスを掴める。そんな就活イメージが広がっていくと思います。

厳しい環境の中で自分を大きく成長させるために大学へ進学する。そうした挑戦がしやすい大学を選ぶ。そんな若者にとっては、チャンスが増えることになるのではないでしょうか。

(ご参考)産業能率大学のキャリアサポート

(ご参考)産業能率大学の学生のインターンシップ参加事例

倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/