PBLからの学び:櫻井恵里子ゼミでの「横浜ストロベリーパーク」における産学連携プロジェクトについて

1. 産学連携プロジェクトの経緯
 2020年2月、筆者と横浜ストロベリーパーク(旧:東京ストロベリーパーク)を経営する株式会社JERAのご担当者様とで意見交換を開始した。担当教員である筆者がテーマパーク業界出身ということもあり、当時は収益拡大に向けたパーク運営戦略などについて議論していた。それから約1年後、専門ゼミを立ち上げることとなり、株式会社JERAのご担当者様にテーマパークにおける産学連携プロジェクトを打診した。

<主な出来事>
・2021年3月に産学連携プロジェクトとしてNDA(秘密保持契約)を締結
・2022年上期(4月~8月)と下期(9月~3月)でプロジェクトテーマを分けて検討



上期テーマ横浜ストロベリーパークの収益向上策・認知向上策
下期テーマ「SDGs/共生社会の象徴的な施設として横浜ストロベリーパークがより発展するために、障がい者の方への新たなサービス提供のあり方、障がい者雇用・人材育成など人づくりのあり方」を提案
        
 今回は上期テーマについて報告する。
2. 産学連携プロジェクトの目的・意義
 本プロジェクトの目的・意義は、「横浜ストロベリーパーク」を共生社会の象徴的な施設として継続的に運営していくための改善を産学が一体となり実施していくことである(図1)。
出典:株式会社JERAの提供資料を筆者一部修正
図1:横浜ストロベリーパーク産学連携プロジェクト
3. プロジェクト内容について
● フェーズ1:横浜ストロベリーパークの課題・仮説の洗い出し
 株式会社JERAのご担当者様より、会社概要、横浜ストロベリーパークの施設内容、コンセプト、本プロジェクトのゴールイメージをオンライン講義にて説明して頂いた。その後、4グループに分かれ、当ゼミの教育テーマである「ホスピタリティマネジメントを理解した自律的な人財育成」をもとに、経営学的、マーケティング的な分析(ポジショニング分析・SWOT分析・クロスSWOT分析など)に加え、ホスピタリティマネジメントとしての視点で課題の洗い出しを実施した。これにより、テーマパークとしての強み・弱み、対象顧客に対するニーズや仮説を丁寧に抽出した。また、ユーザー視点を重視するため、テーマパーク業界の調査分析部門のリサーチャーを招聘し、ユーザー参加型調査の具体的な手法を学ぶ機会を作った。具体的な調査視点を学び、仮説を抽出した上で、横浜ストロベリーパークの視察を実施できるように準備をした。

● フェーズ2:施設観察を通じた課題・仮説の整合性検証
 講義のない休日を利用し、横浜ストロベリーパークの視察を実施した。事前に横浜ストロベリーパークのSNSフォロー者を確認し、どのような顧客に愛されている施設なのかなどを分析した上で視察に臨んだ。
 視察では、具体的な顧客のパーク内での動きなどを観察した(図2)。例えば、駐車場に駐車している車のナンバープレート、車種からどのようなエリアから来園しているか、生活水準などを推察しながら観察したり、学生によっては、来園ゲストとの対話を楽しみながら、施設の課題点などをインタビューしたりした。他にも、1年中いちご狩りができる施設(図3)としてプロモーションしているいちご狩りの施設を観察し、他のいちご狩り施設との違いや特徴などを考察した。事前に外部講師による、実践的な調査視点を学んだ上での視察であったこともあり、有意義な視点で調査をすることができた。
図2:来園ゲストを遠巻きに観察
図3:AIによりいちごの生育を徹底管理しているいちごハウス
● フェーズ3:横浜ストロベリーパークの収益向上策・認知向上策
 ここまでのフェーズでの実際の観察調査や分析を通じて、横浜ストロベリーパークの顧客ターゲットを明確にした。そして、他施設との比較などを通じて収益向上策・認知向上策を立案した。ゼミ内の各グループは顧客ターゲットをファミリー層とヤング層の2パターンに分けた提案をした。中間報告(6月中旬)では、株式会社JERAのご担当者様からフィードバックを頂戴し、提案内容を修正した。最終報告(8月下旬)では、株式会社JERA本社にて役員層の方に向けてプレゼンを実施した(図4)。その際、単に商品・サービス提案だけでなくプロモ—ション案を含めて提案した。特にZ世代に向けたSNSを通じたプロモーション案については、高評価を頂戴した(図5)。
※提案内容について、2022年11月現在、株式会社JERA本社内にて実施に向けて検討中
図4:最終プレゼンの様子
図5:提案資料(抜粋)
4. 産学連携プロジェクトを通じての学生の学び
 産学連携プロジェクトを通じての学生の学びについて報告する。
 2006年に経済産業省が「社会人基礎力」という考えを提唱して以来、大学においてジェネリックスキルの育成が重要視されてきた。それと同時にジェネリックスキルの測定手法としてPROG(Progress Report on Generic skills)が開発された。ジェネリックスキルは「リテラシー」と「コンピテンシー」の両面から測定するものである[1][2]。
 学生に対して、「産学連携プロジェクトを通じて、ジェネリックスキルの中でどの項目が1番伸長したと思いますか?もっとも当てはまるもの1つを選択してください」という質問を実施した。学生の回答結果の1位は「親和力」、2位は「情報収集力」、3位は「協働力」だった(図6)。
図6:学生の回答結果
 学生からは、親和力については「多様な意見を出し合いながら学内外で議論を進めるなかで、よりメンバー同士の信頼感が高まった」、情報収集力については「顧客の視点だけでなく、企業視点、多様な視点で情報を収集し整理する力を学ぶことができた」、また、協働力については「グループメンバーのみならず、プロジェクトを進めていく上で、関わる全ての人との関係性が大切だと学んだ。」とコメントを得ることができた。
図7:株式会社JERA本社にて
[1] リアセックキャリア総合研究所監修、PROG白書プロジェクト編著:『PROG白書2018 企業が採用した学生の基礎力とPROG研究論文集』、学事出版(2018)
[2] リアセックキャリア総合研究所監修、PROG白書プロジェクト編著:『PROG白書2021 大学教育とキャリアの繋がりを解明』、学事出版(2021)