セザンジュ10周年の軌跡ー地域連携における学生教育ー

研究員コラム
産業能率大学の地域創生・産学連携及びアクティブ・ラーニングを代表する活動の1つ、自由が丘の街の案内人「セザンジュ」は、2019年、10周年を迎えた。活動開始の背景には、2009年7月、自由が丘が東京都の体感治安改善事業モデル地区に選ばれたことが挙げられる。自由が丘商店街振興組合からの依頼により学生募集を行い、2009年12月、9名の学生が活動を開始した。「セザンジュ」という名前は2010年2月、公募により決定した。「彼女の天使達」を意味するこのネーミングは、自由が丘の女神が遣わした天使達が街の安全を守るという意味合いが込められており、セザンジュの活動の根本である街の防犯・体感治安向上を体現していると言えよう。

手探りで始まった活動ではあったが、自由が丘商店街振興組合の方々の多大なるご理解とご協力の下、活動内容も次第に拡大していった。具体的には、街の案内や巡回のみではなく、イベント支援、防災訓練参加といった地域貢献、街の情報を常にリニューアルするための勉強会開催、来街者に対するホスピタリティ強化のための研修参加である。 
2012年、本学経営学部において「ホスピタリティコース」が誕生したことにより、セザンジュの活動はサークル・クラブ活動から授業へ移行する転機を迎えた。この活動を通じて、来街者に対する気遣いや思いやり、おもてなしの精神といった実践的なホスピタリティ力が身に付くことから、ホスピタリティコースの選択必修科目として、2年生の通年授業科目となった。サークル活動としてのセザンジュと区別するため、「自由が丘コンシェルジュ」という科目名となった。
授業科目になったことにより、セザンジュの活動に対する学生の学習・活動意欲は高まり、「情報共有の強化」、「ホスピタリティ力の強化」といった課題が提起されるようになった。課題解決に向けて定期的に情報を更新するための枠組みを構築し、様々なテーマの研修会に参加した。また、卒業していく先輩セザンジュから後輩への知識の伝授も勉強会を通して行われるようになり、組織力も強化されていった。
セザンジュに「授業・活動により身に付いた力」を尋ねると、「ホスピタリティ力」、「グループメンバーと協調・協同する力」、「コミュニケーション能力」、「多様な価値観に対応する力」等の力が挙げられた。この結果からも、地域に根ざした活動を通して、学生達は様々な能動的な学びをしており、自らの成長を実感していると言えよう。

活動実績が認められ、メディアの取材も多く、様々な賞を受賞し、セザンジュの活動が評価された、恵まれた10年間であったと改めて感じている。この取り組みが成功したのは、学生達の真摯な姿勢と旺盛な学習意欲はもちろんのこと、やはり連携先である自由が丘商店街振興組合と大学が密なコミュニケーションを取り、それぞれの考えのすり合わせを随時行い、「継続する」ことを目標としてきたからだと考えられる。

75名を超えるメンバーを抱え、組織としてマネジメントする難しさや、学生間の意識のギャップなど、解決すべき今後の課題は多々あるが、実際に活動する学生達の要望に耳を傾けつつ、時代のニーズにフレキシブルに対応出来るフレームを更新していくことがSDGsにのっとったセザンジュの目標となろう。
経営学部 教授 武内 千草(地域創生・産学連携研究所 研究員)