大学の地域連携活動における課題

研究員コラム
文部科学省による大学と地域との協働関係を発展させる取り組みに対する支援や「地域と協働する大学づくり」に向けた意識の共有やその醸成が図られている。

この大学と地域との活動を行う地域連携の活動タイプとしては、①交流型、②価値発見型、③課題解決型、④知識共有型の4つに分けられ、それらが大学と地域における専門性と課題の関係性(シーズとニーズ)、距離やコストと言った地勢的な関係性を考慮して、限定的、選択的に行われるべきであるとされ(内平・中塚2014)、この4つの型に当てはまる活動を多くの大学が行っている。

本学においては、アクティブラーニングやPBL(Project Based Learning)を授業に取り入れた特徴のある授業を行っている、大学と地域との連携活動においてもこれらを取り入れている。また、それぞれの地域のニーズとその地域での活動内容にもよるが、先ほどの4つの型にある交流型と課題解決型、その両者が混在した地域活動が多く行われている。
本学の地域連携活動は、経営学部という専門性を活かした活動が多く、特に、本学の自由が丘キャンパスの所在地である世田谷区の地域や行政と連携した活動でその専門性が多く活かされている。本学の地域連携活動は、CSRを研究しているゼミや社会貢献を研究しているゼミによるゼミ活動や都市型授業「世田谷タウンプロジェクト」における授業としての地域連携活動などある。また、学生が大学や地域と連携して自ら活動を行う同好会活動などもある。本学では、ゼミ活動、選択授業、同好会と地域連携活動を学生が自分のニーズに合わせて選択できるように多くの機会が用意されている。また、地域においても連携内容に合わせて大学と連携することができるという地域と学生の双方のニーズを満たすことができている。この世田谷区での地域連携活動は、行政、地域の商店街、地域の小・中学校などと連携した活動など幅広い内容の活動が行われている。このような世田谷区での10年以上に及ぶ地域連携活動の成果から、2016年5月に本学は世田谷区と連携・協力に関する包括協定を締結した。

このような地域連携活動を大学の授業で行う際は、教育の充実が課題となってくる。大学での地域連携活動は、概して学生が地域の活動に参加するだけという交流のみになるものが多い。そこで、本学では、教育プログラムの設定として、学生が地域でのPBL活動を通して何を学びとして得ることができるかに重点をおき、地域連携活動を始めた当初からサービスラーニングを取り入れている。活動による成果を学生の学びや人間教育に活かすために、世田谷区での地域連携活動から得られるものを学生に内省化させ、それらを大学での学びにどうつなげるか、この活動によって醸成されたものを学生の人格形成にいかに活かすかという授業手法を長年の地域連携活動を通して構築してきている。また、地域連携活動が卒業後の学生のシチズンシップ形成にどのような影響を与えるかという調査研究も行っている(中村・藤原2011)。

最後に、大学が地域連携活動を実施する際の課題として、教員、職員のコーディネーション機能の整備と活動拠点の確保をあげたい。本学では、現在、教職員で構成されている地域創生・産学連携研究所が中心となり、地域との活動を行う教員や授業、同好会などの活動が円滑に行われるようサポート体制が整えられている。地域連携活動における教職員に求められる役割分担が明確化されているだけでなく、これまでの地域連携活動の経験から得た柔軟性も備えているため、多くの活動が円滑に実施されている。地域連携活動の運用面において発生する多くの新たな課題は、この経験値による対応の柔軟性と教員・職員の円滑な連携によって今後も十分に対応することができると考える。しかし、充実した地域連携活動を行うためには、このような対応ができる教員や職員の育成を同時に進めていくことが何も重要となり、本学においても課題となっている。大学で地域連携活動を実施する場合、活動内容や活動場所の確保、その活動から得られる学習効果などに注目されることが多い。しかし、その活動を学生の教育に活かし、地域に貢献できる活動を行うためには、地域のニーズと学生の気質や学生の変化に柔軟に対応することができる大学の組織作りが肝要と考える。


※参考文献
内平隆之・ 中塚雅也(2014)「移動コストによる地域連携活動の限定性と支援課題」『農林業問題研究』50(2),119–124.
中村知子・藤原由美(2011)「卒業生調査によるサービスラーニングの効果測定研究」『2010年度産能短期大学研究助成研究報告書』
経営学部 教授 中村 知子(地域創生・産学連携研究所 研究員)