移動者マーケティングで地域活性を探る
—途中下車を促進し、街に新たな顧客を呼び込むことは可能か—

はじめに
商店街や商業施設は、一般的に店舗を中心として同心円状に商圏を設定し、その内部に居住する生活者をターゲットとして来店促進を行う。ところが近年は、街の成熟に伴い商圏が飽和化。高齢化も相まって消費の減退傾向が進み、売上げの維持・拡大が難しくなっていると聞く。
さて、このような状況下では、新たなターゲットを発掘し呼び込むことが重要になる。そこで注目したのが、これまであまり語られることがなかった鉄道を利用する通勤・通学客の途中下車による来街促進である。自由が丘を例にその可能性を探ってみた。
自由が丘駅のポテンシャル
東京都目黒区に位置する自由が丘駅は、東急東横線、東急大井町線が交差するターミナル駅である。東急電鉄によれば1日の平均乗降客数は約15万人(両路線駅利用者の合計値)。東横線の1日の平均輸送人員は約134万人、大井町線は51万人を数える。東京都心と横浜エリアを行き来するビジネスマンや学生を中心に、様々な利用客に交通の利便性を提供している。
一方、自由が丘駅周辺はお洒落なスポットとして雑貨やファッション、スイーツ、飲食などの人気店が立ち並び、近年はタピオカ店の人気で若者層の来街が拡大する傾向にある。古くから軒を並べる個人経営の有名店も多く、沿線利用者においては少なくとも1度や2度は訪れたことのある注目のスポットとしての認識があるのではないだろうか。
このような状況を鑑みるに、“自由が丘駅で乗換える”、又は“自由が丘駅を通過する”大量の通勤・通学客を途中下車させることは十分に可能だと考えられよう。
途中下車行動の実態
次に、途中下車行動についての調査結果を考察する。この調査は㈱ジェイアール東日本企画 駅消費研究センターが行った調査(注1)の結果で、著者も企画段階から参画している。【グラフ1】【グラフ2】をご覧いただきたい。途中下車の実態だが、約6割が会社帰りに寄り道(注1)をしており、4割弱が途中下車(注1)を経験している。【グラフ3】を見ると、駅から徒歩5分圏内、つまり駅前の商店街等への来街も多いことがうかがえる。
一方、途中下車を経験していない通勤客にその理由を尋ねた結果が【グラフ4】である。『仕事が終わったら早く帰りたいので』『勤務先周辺や自宅周辺で用が済むので』が上位になっている。
また、本調査と並行して6名(途中下車する派3名、しない派3名)に簡易なインタビューも実施している【表1参照】。その中で途中下車をする派は、途中下車によるストレス発散やアフター5の有効利用などを意識しており、途中下車が生活充実に繋がっていると考えているようである。

対して、途中下車しない派は、途中で降車する事への抵抗感を持っており、途中下車を無駄な行動と捉えている。途中下車で暮らしのリズムを変えたくないという意見もあった。このように途中下車に対する態度は大きく二分しているようだが、しない派の中にも、沿線情報や友達の誘いなど、後押しがあれば途中下車しても良いという意見が存在していることも理解できた。
インタビューを通じて、途中下車をする派としない派には、仕事(ON)とプライベート(OFF)の境界に大きな違いがあると感じた。【図1】をご覧いただきたい。する派は、退社した瞬間からプライベートという認識だ。対して、しない派は通勤も仕事の一部と捉えており、帰宅した時点でプライベートが始まるという考え方だ。両者には大きな認識の違いがあり、しない派に途中下車を求めるのは中々難しいとも感じた次第である。
途中下車による顧客拡大の可能性
調査結果から推察するに、自由が丘駅においても途中下車を楽しむ層は既に多数存在しているだろう。また、自由が丘はターミナル駅であり、多くの乗り換え客が存在する。この層は電車から降りることなく通り過ぎていく通勤・通学客に比べれば途中下車の可能性は高いであろう。さらに、しない派でも一部に潜在層が存在しており、積極的な情報提供やプロモーションが効果を発揮する可能性は十分にあると思われる。
以上より、自由が丘駅においては・・・
①すでに途中下車をしている通勤・通学客の途中下車頻度を拡大する。
②していない(主に)乗換え客に対し、情報提供やプロモーションによる途中下車促進を行う。これら2つの方向で、顧客の呼び込みの可能性が高まるのではないだろうか。
最後に
本レポートでは、既存の調査等をもとに自由が丘を例として途中下車による顧客獲得の可能性を考察した。ゼミ活動の中でも、ターゲットを規定し、提供する情報内容、プロモーション方法、使用メディアの検討など、途中下車促進のアイデアを考案したが、まだまだ道半ばの状態である。習慣化した通勤・通学客の行動を変容するのはそれほど容易くは無いであろう。しかしながら、現在の厳しいビジネス環境下においてはこれまでの常識にとらわれない新しい思考やアプローチが重要である。今後ともこの途中下車による新たな顧客の呼び込みにつき考察を深めていきたい
注1)
【調査概要】
調査方法:インターネット調査、調査実施日:2018年9月14日~9月19日、調査対象:1都3県居住の20~59歳の有職者、通勤で鉄道を利用し鉄道の通勤定期を保有している人、サンプル数:1000サンプル(1都3県における有職・定期券保有者の性年代構成比で割付)。

【本調査における定義】
寄り道:仕事後、自宅に変えるまでにどこかに立ち寄ること(子どものお迎え、スーパー等での食材購入など、日々しなければならないことのための立ち寄りは含まない。人との約束や習い事など事前に決まっていた立ち寄りは含む)。
途中下車:自宅最寄り駅で下車するまでに、定期券内の駅で、乗り換え以外の目的で電車を降りること。

■参考文献
・東急電鉄ホームページ 2018年度乗降人員
https://www.tokyu.co.jp/railway/data/passengers/ 2020年3月9日閲覧
・㈱ジェイアール東日本企画 駅消費研究センター
EKISUMER VOL.39(2019年1月)
「仕事帰りの途中下車を考える」 P3-P12
経営学部 教授 加藤 肇(地域創生・産学連携研究所 研究員)