探究学習ガイド&ワークシート

探究学習ガイド&ワークシート

平成30年3月30日の学校教育法施行規則の一部改正と高等学校学習指導要領の改訂の一環で、これまでの「総合的な学習の時間」に代えて「総合的な探究の時間」が新設されました。
産業能率大学は、高校での「総合的な探究の時間」の支援を目的に「探究学習ガイド&ワークシート」を開発しました。
開発にあたっては、本学がこれまで初年次教育などで取り組んできたPBL(Project Based Learning)で培った知見やノウハウ、高校の先生方からいただいたお声を反映しています。
教材は、探究学習の過程を「18のステップ」に分け、ガイドとワークシートに沿って学習や調査を進めることで円滑に、かつ深い学びを伴った探究活動を行うことができるよう構成されています。
今後も多くの高校の先生方と協働することで、本ガイドとワークシートの学習効果を高められるよう、ブラッシュアップに努めてまいります。
以下に、本学が開発したガイドとワークシートを活用した、埼玉県立松山高等学校の「総合的な探究の時間」の実践例をご紹介いたします。高等学校における探究学習の効果的な運営に寄与できれば幸いです。

埼玉県立松山高等学校(2020年度)

より効果的な「総合的な探究の時間」実現のために
(埼玉県立松山高等学校 校長 加藤浩先生)

疑問の出ない授業から、疑問の湧く授業へ
本校は、大正12年開校の伝統ある男子校です。平成24年度からの第1期に引き続き、平成29年度から新たに5年間文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、科学分野で活躍する人材育成のため、大学や研究機関との連携のもと、最先端の科学技術に触れ、探究活動や研究発表会を行っています。また、「未来を拓く『学び』プロジェクト研究開発校」の指定を県から受け、生徒の主体的な学びを推進する授業の工夫に取り組んできました。

このような経緯から、知識の定着を目的とした教育から、知識を活用できる能力の育成へという転換のために導入された「総合的な探究の時間」の趣旨に共感し、大いに期待しています。
これまで、良い授業とは「疑問の出ない授業」でした。しかし、これからは「疑問が湧くような授業」が良い授業なのです。生徒自らが疑問を持って問いを立てることができるようになることが求められています。

そして探究に限らずですが、物事を考えるには「自分ごと」にすることと、「全体を俯瞰する」ことが重要だと考えています。
私は日本史が専門ですが、歴史上の人物を取り上げて生徒たちに「なぜこの人は、この方法を選んだのだろうね」という問いを投げかけてきました。こうすることで、歴史は覚えるのではなく考える科目になります。そして、過去の知識をデータにして読み取り、未来を予測することにつながっていきます。

現在、大人も教員も「部分」にばかり目が行き、全体を見ようとする傾向が弱まっています。そうなると、自分にとって都合のよいところや、好きなところからばかりアプローチして物事の本質が見えなくなってしまいます。まず、全体を俯瞰し本質を把握する。そこから、部分を見ていくというアプローチに変えていく必要があると考えています。
「総合的な探究の時間」における東松山市、産業能率大学との連携
本校で「総合的な探究の時間」に取り組むにあたり、高校の教員が実社会における経験が乏しいということから、内容や展開などに不安を感じました。

そこで、課題設定のうえでは、身近な地域の課題が取り組みやすいと考え、東松山市役所に協力を依頼しました。一方、授業のプログラムの設計・運営については、アクティブラーニングに組織として実践的に取り組んでいる大学として注目していた産業能率大学にご相談しました。
前任校では、私自身、産業能率大学の教育改革の取り組みや、教員の7割以上が社会での実務経験を積んだ上で学生に教えているといった実践的な教育内容に感銘し、高校の校長でありながら産業能率大学の入学説明会に2回も参加しました。そんな校長は珍しいかもしれませんが。

産業能率大学にご相談したところ、杉田教授が協力して下さることになり、大変心強く感じるとともに、新たなプログラムを進めていくことに期待を感じました。突然のコロナ禍により、「探究学習ガイド&ワークシート」の提供という形で支援いただくことに変更を余儀なくされましたが、このガイドとワークシートを活用することで、生徒はもちろん、本校の教員もどのような視点で取り組めばよいのかが明確になりました。専門家の視点が加わることで、生徒に深く考えさせる探究活動が実現できたと考えています。

「総合的な探究の時間」に取り組めた意義
(埼玉県立松山高等学校教諭 加藤義文先生)

東松山市と連携し「総合的な探究の時間」のテーマを設定
本校では、2年生8クラス(特進1クラスを含む普通科7クラスと理数科1クラス)が1年を通して「総合的な探究の時間」に取り組みました。

実施前の2019年度から、実施する教員側も他校の事例を研究したり、有志の教職員と座談会を行ったり、準備をしてきました。そして、松高の生徒の伸ばしたい資質・能力を設定し、「総合的な探究の時間」では、身近な地域の解決すべき課題を見い出し、必要な情報を収集し、その情報を整理・分析し、考えや意見をまとめ・表現する力を身につけることを目標としました。

「総合的な探究の時間」を実施するにあたり、東松山市政策推進課に協力を仰ぎ、探究活動のテーマを「東松山市の課題を解決するには、どうしたら良いか?~SDGsの視点から地域の課題を発見し解決しよう~」に設定しました。

2020年2月に、当時の1年生のクラスに市役所の担当者を招き、東松山市の現状と課題について講演をしていただきました。そして、7つの探究テーマ、①人口減少社会への対応、②子育てしやすいまちづくりと教育の充実、③高齢者がいきいきと活躍できる環境の構築、④循環型社会の構築、⑤快適で災害に強い地域づくり、⑥産業の振興と雇用の創出、⑦地域資源の活用と連携による活性化を提示していただきました。
探究活動の拠り所となった「探究学習ガイド&ワークシート」
2020年4月から本格的に「総合的な探究の時間」に取り組もうと、産業能率大学の杉田教授と年間計画を立てていた矢先、コロナ禍の影響で4月から開始できなくなり、さらに体育館での集合授業やグループでの探究活動といった計画も見直さざるを得なくなりました。
そこで、再度、産業能率大学の杉田教授にご相談し、個人での探究活動および発表に変更し、探究活動を進める指針となる「探究学習ガイド」と「ワークシート」を提供していただくことで、スタートすることになりました。

授業の実施方法としては、生徒に「探究ガイド」と「ワークシート」を予め配布。そして、毎授業の初めに、「総合的な探究の時間」の主担当である私が「探究ガイド」をもとに作成したスライドを使って、今日やることのポイント、探究の4サイクル(①課題の設定、②情報の収集、③整理・分析、④まとめ・表現)のどの部分に当たるのかを解説し、テレビ会議システムZoomで全クラスに配信しました。
それを受けて、各クラスで生徒たちが「探究ワークシート」に取り組み、授業の最後にワークシートの写真をスマートフォン等で撮ってGoogle Classroomに提出するという形で進めました。
クラスには担任と副担任の教諭2人が入り、調査などの方法について生徒にアドバイスやヒントを与える形で関わりました。
「総合的な探究の時間」の授業の様子
コンペティション形式で行った発表会
9月下旬に行った中間報告は、コロナ対策として口頭での発表を避け、自分の発表をスマートフォンで動画撮影して5~6人のグループ内で見せ合うという方法をとりました。リハーサルを繰り返すなど、生徒たちは盛り上がっていました。

中間報告を経て、いよいよ探究活動の仕上げに入りました。各クラスで予選を行い、クラス代表を選出。Zoomを用いた学年発表会でさらにSSH生徒研究発表会での発表者を決めるというコンペティション形式で行いました。

1月上旬のクラス内予選では、1コマ目にグループに分かれて発表し合い、グループ代表を決定。2コマ目にグループ代表の発表をクラスの全生徒が10項目の評価シートを用いて評価し、クラス代表を選出しました。

1月下旬のクラス代表による発表会には、東松山市役所の担当者の方と産業能率大学の杉田教授にもお越しいただきました。クラス代表による発表をZoomで2年生の各クラスに配信しただけでなく、1年生の全クラスにも配信しました。それだけに、クラス代表による発表は力の入ったものとなりました。
クラス内予選の様子
悔しがる感想に表現された生徒たちの成長こそ最大の成果
この1年間の取り組みを通しての最大の成果は、何よりも生徒たちが主体的に探究に取り組んだことだと思います。他の生徒の発表を聞いて、自分にはなかった視点や調査、分析方法に気づきを得て、内省ワークシートに「自分もこういうふうにやればよかった」と悔しがる感想を書いた生徒が多かったことがその証左です。生徒自身が、悔しい思いや反省を筋道を立てて言葉にできたことが成長の証だと思います。

ただ、残念であったのは、コロナ禍でグループでの取り組みができなくなり、生徒同士で問題意識を話し合ったり、同じテーマに取り組む生徒と内容を深める議論ができなかったことです。その結果、探究内容の広がりや掘り下げが不十分な生徒も多く、このことは生徒自身の感想にも表れており、次年度以降に実施する際に改善すべき課題だと考えています。

このような成果と課題が明らかになったことこそ、コロナ禍においても「総合的な探究の時間」に精いっぱい取り組んだことの意義だと感じています。

※SSH生徒研究発表会で行った「総合的な探究の時間」で取り組んだ生徒の発表の様子や動画は、埼玉県立 松山高等学校のホームページ(外部リンク)からご覧いただけます。

※掲載内容(所属、役職名等)は2021年2月取材時のものです。
SSH生徒研究発表会での発表の様子

「探究学習ガイド&ワークシート」の開発にあたって
(産業能率大学 学長補佐 教育支援センター長 杉田一真教授)

コロナ禍で日々環境が変化し、ロードマップや年間計画が描けない中で探究学習を進めることは、先生方にとっても、生徒のみなさんにとっても、大変なことだったと思います。

松山高校からご相談いただいた際、まず考えたことが、先生方との打合せ時間も限られ、松山高校の生徒像も十分に把握しきれていない中でプログラムおよび教材を提供するあやうさです。そこで、松山高校の生徒さんの特性に応じて、適宜、先生方に加筆修正いただくことを前提に、できるだけ色のついていない「ベース」となるプログラム・教材を提供させていただこうと考えました。

また、高等学校での探究学習が実施困難な状況に陥っている現状に鑑み、本学がこれまで培ってきた探究学習およびアクティブラーニングに関する知見を結集して、探究学習の「密を避けた実施方法」についても検討しました。

コロナ禍においてプログラム・教材開発も、本学と松山高校の「遠隔での協働作業」となりましたが、1年間なんとか学びを止めることなく探究学習を進めることができました。最終発表にお邪魔し、松山高校の生徒さんが立派に成果を発表される姿を見たときは、感慨深いものがありました。

ただ、「探究学習ガイド&ワークシート」は急ピッチで開発を進めたため、高校生にとってやや難解な表現があったり、具体例の提示が不足していたりするなど、改善の余地があります。今後、松山高校はじめ、他の高校の先生方とも協働し、より使いやすい、より学修効果の高いプログラム・教材にしていきたいと考えています。

高大接続は「学習プログラムの接続」なくして成立しません。一緒にプログラム・教材開発を協働していただける高校の先生方がいらっしゃれば、ぜひお声かけください。
本ガイドにご興味・ご関心がありましたら、下記までお問い合わせ下さい。
(お問合せ)
入試企画部企画課(高大連携推進担当)
Tel:03-3704-0731(平日9:00~17:00)
メール:kikaku@hj.sanno.ac.jp