進路コラム「探究学習をやっていたら国公立大学に受からない、という誤解」

2024.06.26
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進路コラム「探究学習をやっていたら国公立大学に受からない、という誤解」

第3回 <2024年度連載>

【国立、公立でも探究での学びを活かせるチャンスは広がっている!】

 前回は探究学習の成果を活かせる入試についてご紹介しました。
■こんなに増えた「探究型入試」

 ただ、探究学習の意義はわかるけれど、探究学習に力を入れても国公立大学に向けた受験にはあまりプラスにならないのではないか……という声も、特に地方の進学校などでしばしば耳にします。多くの国公立大学は一般選抜に入学定員の多くを割り当てているのだから、国公立大学を志望する生徒にはそこに向けた学習をさせた方が良いのでは、ということですね。「高校としては国公立大学への合格実績を無視できないので、探究とのバランスをどうするか、教員の間でも議論が尽きません」なんてご意見も。先生方も悩むところでしょう。

 そこで今回は、国公立大学の入試で探究学習の成果を活かす方法について考えたいと思います。

 その前に……「多くの国公立大学は一般選抜に入学定員の多くを割り当てている」という点には、ちょっと補足が必要ですね。文部科学省によると現在、確かに国立大学入学者の81%は、一般選抜による進学者です。学校推薦型は12%、総合型は6%に過ぎません(※)。

 ですがこれ、大学によって実情はまちまち。たとえば島根大学は、総合型での入学者が30%。東北大学工学部も多くの学科で総合型の入学者が3割程度を占めています。学校推薦型での入学者が2割近くに達する国立大学もチラホラ。一方、公立大学では学校推薦型での入学者が目立ちます。都留文科大学では学校推薦型が42%、総合型が8%程度。一般選抜での入学者が半分程度、という公立大学も、実は少なくありません。

 いずれも一般選抜での入学者が最多ではあるのですが、総合型や学校推薦型も無視できないレベルです。そこへの入学を熱望する生徒であれば、使えるチャンスはフル活用した方が良いでしょう。そうした入試において、提出書類や面接の場面などで探究学習の成果をPRする機会が増えていることを考えると、探究学習に本気で取り組んでおくことは、やはり大いに意味がありそうですよ。これは多くの国公立大学に共通して言えることかと思います。

 そして、入試において明確に「探究」という言葉を打ち出している国公立大学も増えています。前回の記事で使用した区分①、②、④に合わせてご紹介しましょう。
①高校での探究学習の実績や成果、プロセスを評価する入試

茨城大学理学部の総合型選抜では、「志願分野に対する深い関心を持ち、主体性を持って科学活動に取り組み、自然科学の分野において探究活動経験を有する者」であることが出願要件の一つになっています。面接では「活動報告書」についての質疑応答などもあるとのこと。このように「探究学習に取り組んできたこと」を出願要件にする大学は少なくありません。

 東京大学が推薦入試を始めたことがかつて話題になりましたが、東京大学教育学部の学校推薦型選抜では、「探究学習の卓越した実績・能力を、論文、作品、発表等を通じて示すことができること」が推薦要件に含まれています。また、それを証明するために(1)在学中に作成した論文、作品、発表の内容を示す資料等で志願者の卓越した探究能力を示すもの、(2)上記に関して、国際的若しくは全国的なコンクールやコンテストでの受賞歴、あるいは学会の高校生セッション等での発表経験などがある場合、それを証明する資料、の提出も必要。提出物についての発表も行われます。

(他の例)
・筑波大学「学校推薦型選抜」
・東京外国語大学 国際社会学部、国際日本学部「学校推薦型選抜」
・大分大学 経済学部「総合型選抜(課題探究)」
②大学が出題する事前課題に取り組ませる入試

 奈良女子大学が行う「探究力入試Q」はこちらの例。学部・学科によって入試の方法には差がありますが、多くの学科で指定図書を読んでのレポートや小論文といった事前課題の提出を求めています(学科によっては自然科学に関する「研究レポート」を求めるところも。この場合は上述した①に近いでしょうか)。
④大学による独自試験で評価する入試

  高校生向けに充実した高大接続プログラムを用意し、受講者の中から希望する方がこれらの入試に出願できるという取り組み。金沢大学の「KUGS特別入試」や東京都立大学(一部の学部)が行うゼミナール入試、東京農工大学農学部が行う「ゼミナール入試」など、国公立大学ではこの④に該当する取り組みが盛んです。東京都立大学のゼミナール入試などは、私の記憶が間違っていなければ、20年近く前には既に実施されていたように思います。「探究」という言葉が教育業界に広がるより、ずっと前ですね。

 各学問分野に強く関心を持つ高校生に入学してもらうことで、周囲の学生に刺激を与えてほしい、といった狙いも大学側にはあります。学生の多様性確保ですね。ただ、良い受験生を獲得しようというだけではなく、学術研究への接点を多くの高校生達に提供することで、結果的に研究の楽しさを知る若者を増やしていこう、という「育成」の側面も重視しているのが、こうした高大接続型入試の特徴です。国立、公立の大学に期待される、地域貢献という一面もあるでしょう。

 学習指導要領にも加わり、いまや探究学習は全国共通の教育方針として、文部科学省が推進する取り組みになったと言えます。特に国立大学は、(今回の探究に限らず)そうした国の方針に実直に対応する傾向にあります。「探究では国立に受からない」は、過去の話になっていくかも知れませんよ。

(※)文部科学省「令和5年度国公私立大学入学者選抜実施状況」より
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/