プロが教える「進路づくり」 第1回 <2022年度連載>

第1回 入試合格も就職もゴールじゃない!15年後を見据えて今やっておくべきこと

【どのような私になりたいのだろうか? を考える】

全国の高校で進路講演の講師を務めています。これまで生徒・保護者向けの講演に伺った高校は、北海道北見緑陵高校から沖縄県立久米島高校まで全国165校。何度も伺っている高校もあるので、講演回数としてはこの数倍になると思います。ご縁の広がりにいつも感謝しております。

 その講演のほぼすべてで、「15年後の社会を生きるための」という言葉を演題に入れています。高校生には大学入試での合格や、その後に待ち受けている就職活動での内定ではなく、「15年後、自分が社会の中で独り立ちをして、自分らしく努力しながら生きていけている」ということを目指して進路やキャリアを考えて欲しい……という想いからです。保護者や先生方の願いも、同じではないでしょうか。

 いまの高校生がこれから生きていく社会の姿は、保護者が見てきた社会とは異なります。データを見る限り、男性のおよそ3人に1人、女性の4人に1人は生涯、結婚しない見通しです(※1)。それが良い悪いということではなく、単に家族やパートナーのあり方や人生のあり方が多様化してきたということです。結婚したとしても専業主婦になる女性は減り、夫婦ともに働きながら家事や育児でも支え合う、そんな形がさらに広がっていきそうです。新卒で入社した会社が定年を迎えるまで存続している可能性は下がります。社会の変化に合わせて常に学び、自分自身を変えていける人こそ、リスクに強い社会人の姿と言えそうです。保護者が生きてきた時代の常識ではなく、今後の社会を基準にして学び方や働き方を考えることが大事ですね。

 グローバル化もさらに進みます、「英語が得意だから国際系の学部に行きたい」と考える高校生は少なくありませんが、今後は理系も含め、あらゆる分野で英語力を求められる場面が増えてきます。「留学を経験し、世界中で生活できる人」も良いですが、「専門知識を活かしたマーケティングの仕事を英語で遂行できる人」もまたグローバル人材です。

 キャリアの築き方に絶対の正解はありません。どのように生きれば幸せか、なんて答えは保護者も教員も持っていません。人それぞれ、良しとする生き方は異なるからです。進学先選びでも、あるいはその先に待つ仕事選びでも、「私は、どのような私になりたいのだろうか?」と考えることが大切な時代になってきたのです。

【大人の助言がリスクに繋がることも。いまの高校生に必要な準備を考えよう】

しかし高校生の進路選択では、周囲の大人が正解(?)を用意しがちです。「看護師になれば就職も手堅いし、将来も安心だから」「地元の国立大学に進学しておけば悪いようにはならないぞ」「歴史のある総合大学の方が卒業生も多いから就職に有利だ」、等々。高校生にはまだ社会のことなどわからないから、損をしない進路を大人が教えてあげるべきだ、なんて意見もしばしば耳にします。しかし本当にそうでしょうか?

 大学進学後、授業に関心を持てず、望まぬ留年や中退に追い込まれてしまう学生は少なくありません。大学や学部によっては4割近くが中退しているという例もあります。前向きな進路変更なら良いのですが、後悔している学生もやはり多いです。

「親が勧めるから、という理由で学部を選んでしまった。本当にやりたいことではなかった」
「成績の都合と『聞いたことがある大学名』という理由だけで進学先を選んでしまった。知名度の高い大学ならどこでも良いと思っていた」
「大学では実践的な授業が受けられると期待していたが、自分の進学先は一方的な講義ばかりで、周囲の学生も不真面目だった」
「親と話し合い、指定校枠の中から確実に受かりそうな進学先を、中味もよく調べずに決めた。受かった後は遊んでしまった」

……等、後悔の原因は様々。中には「できることなら高校1年生での文理選択まで遡りたい」なんていう学生もいます。大人が良かれと思って与えた進路選択の助言が、逆に本人のリスクを高めていることもあるのです。

 そして大学は、せっかくなら入学後に後悔しない人に来て欲しいと考えています。2020年度以降、大学入学者選抜のあり方も変わりました。入試において、「この大学・学部の教育に合うかどうか」が従来以上に重視されるようになっています。進学先選びと入試への準備は、密接に繋がっています。本人も保護者も、これまでとは異なる意識で受験の準備を進める必要があるでしょう。
※1:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(平成20年3月推計)
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/