プロが教える「進路づくり」 第5回 <2020年度連載>

第5回 「キャンパス」が持つ価値

授業がオンラインで可能なら、キャンパスは何のためにあるの?

この4月から、新型コロナウイルスへの対応として多くの大学が対面授業を中止し、オンラインで授業を提供しています。講義はもちろん各種のグループワークやゼミでの議論なども様々なツールを駆使して展開されている様子が、大学教員の様々な発信から伝わってきます。「学びを止めるな!」「むしろ工夫のチャンス!」という、多くの大学関係者の姿勢や努力を私は支持します。

一方で、SNSなどでは大学生からの不安の声も聞かれます。この春に入学した新入生には、友達の顔もネット上でしか知らない、なんて方もいるでしょう。
キャンパスライフを通じての新たな出会いを楽しみにされていた方にとっては、自宅で受ける授業がいくら面白くても、やっぱり少し寂しいのではと思います。安全第一ですから仕方がないとは言え、ちょっと気の毒です。早くキャンパスが正常化することを願ってやみません。
産業能率大学では前学期の1年次ゼミにて、1回に限りオンラインと教室での授業を同時に実施しました※教室での授業参加は任意。
ところで、授業自体はオンラインで実施できるのだとしたら、キャンパスは何のためにあるのでしょうか。今だからこそ、改めて考えてみましょう。

学生が感じるキャンパスの意義は様々だと思います。友達とのキャンパスライフ、というのは誰もが楽しみにする点の一つでしょう。日々一緒に過ごし、他愛もないことを語り合ったり、ときには真面目な人生相談をしあったり。あるいは協力して授業の課題に取り組んだり、真剣に議論したり。新しい友達とそんな毎日を過ごせたら、それだけで一生の思い出となる4年間になりそうですね。実際、大学で学んだ経験を持つ保護者の皆様には、この点を真っ先に思い出す方も多いのではないでしょうか。

予期せぬ出会いというのも、リアルなキャンパス空間が持つ魅力のひとつだと思います。たまたま隣に座った学生、サークル勧誘での話が面白かった先輩、迷っているところに声をかけてくれた教職員、なんとなく立ち寄ってみたイベント、ふと目に留まったポスター、なんだか気になってしまった図書館の書棚の専門書……などなど。検索ではたどり着けないコトや人って、ありますよね。

歩いているだけでも他の学生達の活動は目に入るもの。キャンパスは一日のかなりの時間を過ごす生活の拠点でもあります。活気や刺激に満ちた場所に身を置いているだけでも、得られる気づきはあると思います。

上記をひっくるめて、キャンパスは学生にとって、所属するコミュニティそのもの。大事な「居場所」です。

キャンパスは大事な「居場所」であり、「学びのステージ」

学びの観点でも、キャンパスは様々な意義を持っています。パソコンやスマホ上の活動だけで創造性が生まれるなら、たとえばプログラマーやSEにオフィスは要りません。しかし実際には、GoogleやAppleのようなICT企業ほどオフィスにお金をかけ、緻密な工夫を盛り込んでいます。

世界の一流大学などを訪問すると、教室や研究所をはじめキャンパス内の様々な場所に創意工夫を盛り込んでいることがわかります。日本でも多くの学生が自由にグループワーク等に取り組める「ラーニングコモンズ」というスペースを整備する大学が増えていますが、そうした学習環境が学生の創造性を刺激することを目的<としているのです。

そもそも学生は普段、黒板や教員の顔だけを見て学んでいるわけではありませんよね。教室内にいる同級生をはじめ、場に配置された様々なものから影響を受けています。私達はリアルな肉体を持つ生き物ですので、他のグループから聞こえるざわつきや、たまたま置かれていた付箋紙などからアイディアを思いつくこともあります。オンライン教育ではなかなか得にくい価値の一つです。
産業能率大学ではラーニングコモンズを設置し、学生の主体的学習環境を整備しています
またキャンパスや、キャンパスが位置する街自体が学びの舞台になることもあります。多くの学生が日々を過ごすキャンパスや街は、学生が何かをリサーチしたり、何かのアクションを試みたりできる大事なフィールドでもあります。

たとえば産業能率大学では、キャンパスがある自由が丘の街とコラボレーションした授業やプロジェクトが数多く実施されています。産業能率大学の学生団体「セザンジュ」は、自由が丘という街の魅力を伝える活動で以前から知られていますが、このコロナ禍で多くの飲食店が苦労されている状況を受けて現在、テイクアウトができるお店の情報を発信する活動に取り組んでいます。消費者として街を楽しむだけではなく、普段から経営やマーケティングの観点で街を観察し、課題発見・解決を意識しているからこそ生まれる行動でしょう。
特別強化クラブ「セザンジュ」が自由が丘のテイクアウト特集を発信
産業能率大学では、街をフィールドに学び、活動する授業やクラブがあります
これから進学先を検討される高校生や保護者には、様々な観点で大学を選んで欲しいと思います。高校生は「キャンパスライフ」の楽しさを重視しがちですが、インプットとアウトプット、それぞれにおいて重要な「学びのステージ」としてのキャンパス空間の側面にもぜひ注目してみてください。

最後に。新型コロナウイルスの影響がどこまで続くかはまだまだ不透明ですが、一刻も早く事態が収束することを願う次第です。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/