プロが教える「進路づくり」 第3回 <2020年度連載>

第3回 「やりたいこと」の見つけ方

「やりたいこと」は必要?

今回はこんなタイトルなのですが、そもそも「やりたいことなんて、高校生のうちに見つけるのは無理だ」「やりたいことを決める必要はない」といったご意見もおありでしょう。
実際、学生時代に抱いていた将来像と、実際に送ってきたキャリアは違う、という方は少なくないのでは。私も正直言って、将来の「職業」を高校生のうちに決められる方は少数派だと思います。

ただ、進学するなら少なくとも何らかの「学びたいこと」は持っておいた方が良いと考えます。
現在は大学進学が身近になったこともあり、進学した後にミスマッチを起こして中退する学生が増えているからです。大学が社会に出るまでの自由なモラトリアム期間とされていたのは昔の話で、今では学業にしっかり向き合わないと卒業できません。
これを学びたい!という主体的な姿勢が本人にないと辛いでしょう。「とりあえず進学さえすれば、やりたいことが自然に見つかるだろう」という受け身の姿勢では少々心配です。
自分なりに学びたいことを持って進学し、その後に様々な刺激を受けて将来の目標が変わっていくのは良いことだと思います。

でも、やりたいことは自然には見つかりません。「やってみたら案外面白かった」といった行動の中で気づくものです。そうした試行錯誤を始めるうえで、早すぎるということはないと私は思います。

「やりたいこと」の探し方は様々

やりたいことが思いつかないと悩む高校生は大勢います。そんなとき、考えるヒントとして私はよく「好きなこと」「得意なこと」「すべきこと」の3つを紹介します。

(1)好きなこと
好きなことがある方はたぶん、進路探しにはそれほど悩みませんよね。国語や歴史などの好きな「科目」でも良いですし、機械や動物、エンターテイメント作品などの好きな「モノ」、旅行やスポーツなどの好きな「コト」でも進路に繋がります。
好きなことがないと言う高校生は結構多いのですが、よくよく話を聞いてみるとある、なんてことは多いです。たとえば「音楽が好きなんだけど、ミュージシャンになるわけでもないから進路選択には関係ないですよね」なんて思い込んでいるパターン。実際にはビジネスとしての音楽、文化としての音楽、医療としての音楽など、様々な学問領域と関わりがあります。保護者の方は「そんなの進路に関係あるか! もっと真剣に考えなさい!」なんて頭ごなしに否定せず、うんうんと話を聞いてみてください。

(2)得意なこと
得意なことも、進路には繋げやすいですね。英語が得意、スポーツが得意、絵を描くのが得意といった長所を伸ばす進路選択は大いにアリです。
その際、「プロになれそうかどうか」は、そこまで深刻に考えなくても良いと私は思います。音楽やアートで食べていけるレベルの人だけが音大や美大に進学しているかと言えば、そんなこともありませんし、そこでの学びは企業で働く社会人としても糧にできるはずです。

(3)すべきなこと
好きなことも得意なことも思いつかない、と悩む高校生にお勧めなのが、「すべきこと=社会が必要としていること」からの進路リサーチです。
たとえば私は「あなたが思う、社会で一番困っている人って、どんな人ですか。なぜ困っているのでしょうか。身近な人でも、遠い場所の誰かでも良いので、想像してみてください」なんて質問を高校生によくします。

「近所のおばあさんが、一人暮らしで買い物にも行けず、困っている」と答えてくれた高校生がいました。では、何を学べばこのおばあさんの役に立てるでしょう?
<高齢者→福祉や医療>などと考えがちですが、役に立つ方法はそれだけではありません。高齢者でも安心して必要なモノをすぐに手に入れられる地元密着のショッピングサイトを立ち上げる、なんて方法もアリですよね。そうなると経営学やICTなどを学んでも良いわけです。政治や行政、法律などを学び、高齢者に優しい街づくりを目指すのもアリです。

高校生が思いつく社会課題は千差万別で、普段どのように社会を見ているかという個性がそれなりに見て取れます。その課題を解決するための方法には、その子の興味関心がそれなりに反映されています。そして「困っている人」が具体的にイメージできれば、それは将来の仕事探しに繋げていける可能性があります。高校で行われている探究学習を通じて進路のヒントを見つけた、なんて方はこのパターンが多いでしょうか。

お子さんが「やりたいことなんてない!」と思い悩んでいるようでしたら、上記がヒントになればと思います。
ただ繰り返しますが、本当にやりたいことは、実際にやってみないとわからないもの。一朝一夕では見つけられません。様々な場に飛び込み、新しいことにトライしてみる姿勢が何より大切です。その姿勢をぜひ、応援してあげてください。

(ご参考)産業能率大学の高校生のためのキャリア開発プログラム

産業能率大学では、高校生を対象に自分の将来について考える3日間の通学講座「高校生のためのキャリア開発プログラム」(通学・オンライン形式同日開催)を開講します。
プログラムでは、いくつかのテーマについて同年代の人と話し合い、自分の将来について考えます。将来に向けて自分の「夢」や「目標」について考えてみたい人は、ぜひご参加ください。

【日程】
3日間の連続プログラム(要予約)です。
●日程① 2020年7月23日(木祝)~7月25日(土) 各日13:00~16:10
●日程② 2020年7月29日(水)~7月31日(金) 各日13:00~16:10

【開催方法】
●通学方式(自由が丘キャンパス/湘南キャンパス)
●オンライン方式(日程共通)

【申込】
終了しました。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/