プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第11回 <2019年度連載>

第11回 世界の基準で学びや仕事をイメージしよう

世界の基準で見た、企業の評価

2018年、週刊ダイヤモンドのある記事が話題になりました。平成元年当時、世界の企業の時価総額ランキング上位50社中、日本企業が32社を占めていた。それが平成30年にはトヨタ自動車1社を残して軒並み姿を消してしまった……という事実を紹介した記事です(※1)。
現在、オンライン版の記事が公開されており、こちらで具体的な企業名や時価総額を確認することができます。

■昭和という「レガシー」を引きずった平成30年間の経済停滞を振り返る(ダイヤモンド・オンライン)

リンク先に掲載された表からは、ほかにも注目すべき点が読み取れます。第一に、時価総額の数字のケタが違いますね。平成30年の表の数字は、元年のほぼ10倍になっています。第二に、業種の変化。かつてはインフラ系、金融業、製造業が目立っていましたが、最近の上位は情報産業です。富を集める競争のルールが30年で書き換わったのです。
保護者の皆さんは今でもお子さんに「平成元年のトップ20社」のような企業への就職を期待しがちではないでしょうか。でも大事なのは今後です。加えて言えば、お子さんが社会の中心になるのは今からさらに30年後。平成元年に今の事態が予想できなかったように、令和30年のトップ50社だって誰にも分かりません。保護者世代にとっての有名企業のイメージは、一度リセットしてしまうくらいでも良いと私は思います。

本連載で繰り返し述べておりますが、一生を保証してくれる組織など存在しません。成長著しい組織に飛び込んで、場を自ら活用し、もまれながらスキルや資質を磨き、柔軟に自分をバージョンアップさせて主体的にキャリアを重ねていく、そんな働き方が今後は求められてくるのだろうと思います。潰れなさそうな企業に就職することよりも、「勤め先が潰れても大丈夫な自分になる」ことが大切です。

なお「日本の企業が勢いを失ってしまったら、子どもの世代はどんな場所で働けば良いのか」などと悲観する必要もありません。トヨタ以外の「平成30年トップ50社」で活躍している日本人は大勢いるのですから。ただしそこでは英語を使いながら多国籍な環境で仕事をする能力や、データを業務で活かせる素養が問われます。高校の教科で言えば英語や数学ですね。理系だから英語は苦手で良い、文系だから数学は不要だなどと考えていると、選択肢は限られてしまいます。

世界の常識で学びをイメージしてみよう!

私の知人に、長年にわたって世界中の様々な国・地域をまわり、各国の若者に対して大学進学の説明をされてきたという方がいます。以前、その方からこんなお話しを伺いました。

「世界の子ども達が、どのように進学先を選んでいるかご存じですか。多くの国では、日本のように自宅から通える場所に大学はありません。特に開発途上国ではそうです。そうした国に生まれた若者は大学を選ぶにあたり、まず世界地図を広げるんです。そうして世界の地図を見ながら『自分は日本やアメリカで経営学を学び、できればMBA(経営学修士)を取得して、シンガポールや香港で金融などの仕事につきたい。そうしてキャリアを積み上げて、ゆくゆくは祖国に帰り、祖国の発展のために尽くしたい……』といったことを考えるんです。『自宅から1時間で通える大学』なんていう狭い枠組みで、大学を選んでいるのは日本くらいですよ。日本の常識は、世界の非常識なんです」

当時、私は東京のある予備校で働いていたのですが、このお話は強く印象に残っています。自分自身、国内の狭い常識にとらわれて進学やキャリアのことを考えていた、と気づかされました。

もちろん人によって様々な希望や事情もあるでしょうし、結果的に「自宅から1時間」の大学に進学しても良いと私は思います。ただ、世界地図の上でキャリアを考えている同世代が世界中に大勢いる、という事実は忘れずにいたいものです。こうした人達といずれ同僚になったり、ライバルになったりする可能性は、若い人ほど高いはずです。

周囲の空気でなんとなく地元の大学に進学し、遊びやアルバイトに精を出し、ほどほどに授業に出て、就職活動の時期にあわててキャリアを考える……なんていった大学生活を送っていると、世界の常識からはどんどん離れていってしまうかも知れない。そんなことを、いまの高校生や大学生にはぜひ知っていて欲しいと思います。

そして私自身も含め、彼らにアドバイスをする保護者世代の側もまた、「日本だけの常識」にとらわれた助言になってはいないかと、常に気をつけていたいものです。



※1:「昭和という『レガシー』を引きずった平成30年間の経済停滞を振り返る」週刊ダイヤモンド 2018年8月25日号

(ご参考)産業能率大学のキャリアサポート

産業能率大学は「就職に力を入れている大学 全国7位」(※)に選ばれるなど、キャリアサポートに定評があります。
1年次から「キャリアサポート授業」を必修とし、2年次の早い段階で授業科目「インターンシップ」を設けるなど、4年次まで段階的に学生が自らキャリアについて考える力を養います。
また、ゼミ教員とキャリアセンターの担当職員による手厚いダブルサポート体制で学生一人ひとりの「納得のいく進路選択」を支援しています。
※出典:大学通信調査「全国の高等学校の進路指導教諭が評価する大学/2019年度版」
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/