プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第10回 <2019年度連載>

第10回 ただ「やる」だけではもったいない!振り返りの勧め

「地図よりコンパス」の時代だからこそ、考えておきたいこと

2013年に、MITメディアラボ所長(当時)の伊藤穰一氏は、インターネットの登場前と登場後で求められるものが大きく変わったと語っています。「After Internet」の時代に求められる基本原則のひとつとして伊藤氏が挙げているのが「Compasses over Maps (地図よりもコンパス)」。
ここで言うコンパスとは、自分自身の価値基準や行動指針と言い換えられます。何を大事にしたいのか、どのように生きていきたいのかといった価値基準は人それぞれ異なるものであり、それが変化の激しい時代には大きな意味を持つというのです。彼は会場にいた多くの大人達にこの原則を紹介したのですが、高校生の進路選択を考える上でも示唆に富む言葉だと思います。

まず将来就きたい職業や入りたい企業をイメージさせ、そこにたどり着くために必要な学部・学科やコースを調べて進学目標とさせる、そんな進路指導がこれまでは広く行われてきました。まさに地図の上のゴールから逆算し、そこまでの最適ルートを考えさせるような指導です。
しかし、今の若者達は、既にある職業や企業をゴールにしていても、そのゴール自体が消滅してしまうかも知れない時代を生きていくのです。変わり続ける地図だけを進路指導の基準にするわけにはいきません。コンパスの方も少しずつ意識していく必要があるのでしょう。
社会人になって様々なキャリアを積んでいくと、自分にとって最も大事な価値観や、譲れない欲求のようなものが少しずつわかってきます。こうしたキャリアの軸を「キャリア・アンカー」(※1)と呼びます。一般的には30歳前後でキャリア・アンカーを意識し始める方が多いそうですから、まだ経験の少ない高校生や大学生の段階で、自分のキャリア・アンカーを意識するのはちょっと早すぎるかもしれません。大人と高校生では、置かれている状況に違いもあります。

それでも、高校生の段階でお勧めできることがあります。それは、やってきたことの「振り返り」。たとえば、この1年間で、あなたのテンションが最も上がった瞬間はいつでしょうか。どういうときに、なぜ、そう感じたのでしょうか。あるいは、この1年間を振り返ったとき、あなたが「大きく成長できた」と感じたのは、どんなときでしょうか。

高校生までの段階でも、人は様々なことを体験しているはずです。たとえば学校生活なら授業のほか、生徒会・委員会などの課外活動もありますし、部活動にかなりの時間を充てている方も多いことでしょう。「それまで未経験だったけど、高校生になって初めて挑戦してみた」なんて取り組みもあると思います。学校外にもスポーツ、ボランティア活動、ほか地域の取り組みなど、高校生を受け入れてくれる場は数多く存在します。趣味が高じて、何かの作品を創って発表したり、人前でパフォーマンスしたりといった方もいるでしょう。

こうした挑戦自体に大きな価値がありますが、やりっぱなしではもったいない。振り返って客観視してみることで、自分のコンパスの一端が見えてきます。

※1:アメリカ合衆国の組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された概念。

意識して振り返らないと気づかないことも多い!

同じ部活動に取り組んでいたとしても、人によってやりがいを感じているポイントは違うはずです。ある生徒は、コツコツ練習して実力が付いていくことに喜びを覚えていたとします。でも別の生徒は、たとえ下手でも皆で同じ目標に向かい、心を一つにしていることに幸せを感じているかも知れません。どちらが良いということではなく、これらは人それぞれの個性だと言えます。でも普段は、こうした自分の個性に意外と気づいていないものです。

「自分はそんなキャラじゃないと思っていたけど、先生に指名されて委員長をやってみたらやりがいを感じたし、やり遂げた自分に今はちょっと自信が持ててる」
「授業の中でディベートをしたときは、自分でも思っていなかったほど活躍できた。楽しかった!」

取り組んでいる最中は必死だったり、多忙だったり、夢中だったりして客観的に省察する機会がありません。意識して高校生活を振り返り、書き出してみたり、他の人に語るために整理してみたりすると、様々な気づきが得られます。昨今ではポートフォリオと言って、高校生活の様々な記録を書き出すツールもあります。ポートフォリオは大学入試改革の中で話題を集めていますが、本来は入試のために書くものではなく、自分の気づきを深めるために使うもの。上手く活用すれば、自分のコンパスについて考える機会になります。

振り返りの習慣は、高校卒業後の進路を考える際はもちろん、その後もキャリアや生き方に迷いそうなとき、大いに役立つはず。保護者の皆さんからも、「何をやっているときが一番テンション上がった?」なんて、たまに投げかけてみてください。そこから見えてくるものもあると思います。

(ご参考)高校生のためのキャリア開発プログラム[主催:産業能率大学]

自分の将来について考える3日間の通学講座です。プログラムでは、いくつかのテーマについて同年代の人と話し合い、自分の将来について考えます。 本プログラムでは、情報活用能力(情報活用能力、考える力、学ぶ力、取捨選択する力)や将来設計能力(夢を抱き、実現するためのプロセス設計能力)、その他、意思決定能力、問題解決能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を伸ばします。 詳しくは入試イベントをご確認ください
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/