プロが教える「進路づくり」 —AI時代のキャリアに必要な視点と学力—
第2回 <2019年度連載>

第2回 AIやロボットに負けない人材って?

AIやロボットによって代替されそうな業務はどんなもの?

2015年に「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能になる(※1)」という予測が発表され、話題になりました。最近ではビジネス誌などでも、人工知能(AI)に奪われやすい仕事、奪われにくい仕事といった特集がしばしば組まれています。

ある大手通販サービスの物流拠点では既に、人間のスタッフの代わりに無数のロボット達が巨大な倉庫の中を行き交っていますし、監視カメラと画像解析技術を組み合わせたレジのないスーパーマーケットもアメリカで開業しています。アプリで個人の資産状況を管理したり、資産運用をAIに任せたりといった「フィンテック」と呼ばれる金融サービスが発展を続ける一方、大手メガバンクは大規模な社員のリストラを進めています。

画像や映像もデジタルデータに変換すれば、AI技術を応用した処理が可能です。膨大なレントゲン写真やMRI画像から病気の予兆を発見したり、監視カメラの映像を分析して顔や服装から特定の人物を瞬時に探し出したり。車の自動運転技術は発展著しい分野ですが、これも周囲の状況をリアルタイムで解析しながら適切な選択を行う、AI技術と制御技術のたまものです。
様々な専門家の話を総合すると、人工知能とはいうものの、人間と同じ次元で主体的に考えを巡らすような「知性」を実現する見通しはまだ立っていないようです。でも現在のAIは、統計や確率といった数学的な処理によって膨大なデータを分析し、もっとも適切そうな選択を実用レベルで行える水準には到達しています。ロボットも同様で、柔軟性には欠けるものの、定型業務においては不眠不休で正確に働き続ける優秀さを発揮しています。

こうした実例を踏まえても、単純な定型作業や、ルールに従って様々なモノや情報を管理・整理・仲介する作業、画像などのデータに基づいた監視・診断作業など、AIやロボットが人間の代わりに担当できる作業は増えていきそうです。

現在のホワイトカラーの業務にはAIによって代替されうるものが少なくありません。人手不足に悩む企業も多い中、業務効率化のためにAIを導入する流れが加速していけば、役割を失って失業したり、低い給与で働かざるを得なくなったりする人が増える可能性は大いにあるでしょう。

AIやロボットを活用しつつ「人間ならではの強み」で勝負できるプロになろう

一方で、AIにはできないことも山ほどあります。AIは物事の効率化を劇的に進める技術ですが、AIで何をどう効率化すべきか、効率化によってどんな価値を創るかといった判断を自ら下すことはできません。レジが要らないスーパーが実現したとして、面倒なレジ業務が不要になった分、高齢者など助けが必要なお客様への補助要員を厚くするのか、それとも従業員を極限まで減らしてコストを削減するのか。これを決められるのは経営者だけです。単純に「売上の数字を最大化せよ」などと限定すればAIも何らかの案を出せるでしょうが、顧客や従業員の幸せ、社会に対して生み出す価値などはデータとして扱えません。
AIによる画像診断で重病を見つけられても、そのことを患者にどう伝え、どうフォローするか考えるのは人間の医療チームの仕事。本人の望みに応じた治療プランを考え、病気を取り除けるのも人間だけです。

こうした現状を踏まえると、今後の「学び」のあり方を考える上で、少なくとも2つのことが言えそうです。

第1に、「人間ならでは」の能力は積極的に磨いておいた方が良いということです。たとえば総合的な判断、高度な他者理解やコミュニケーション、状況に合わせた柔軟な課題解決など、定型化できない仕事はAIやロボットが不得手とするものです。
実際、こうしたスキルに着目した学びを用意する大学も増えています。簡単には対応できない複雑な状況に向き合って、チームで課題を設定し、解決法を考えたり。実際に自分で責任者として事業の全プロセスを実践してみたり。こうした学びを通じて得られる力は、これまで以上に大きな意味を持つのではないでしょうか。
第2に、目的達成のためにAIやロボットを活用する姿勢が、どのような業種、職種においても重要になってきそうだということです。「AIによってなくなる職業」なんて見出しが雑誌等ではよく使われますが、実際にはAIで効率化が進んだ結果、人間の役目ではなくなる「作業」があるだけです。
経営者がAIを活用してより良いマネジメントを行う、名医がAIによる画像診断や手術用ロボットの力を借りてさらに高度な医療を実現する、など。人間にしかできない仕事で高い価値を生み出しつつ、業務効率化のためにAIやロボットなどの技術を上手く活用できるプロフェッショナルが求められているのだと思います。

文系や理系といった受験時の括りにとらわれず、時代に必要なスキルを学び続けていく。そんな姿勢が大事なのでしょう。
※1:「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に~ 601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~」(株式会社野村総合研究所、2015.12)
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)http://kurabeshiki.com/