公共政策とEBPM

研究員コラム
地方創生は平成26年9月に、第2次安倍改造内閣発足時に総理記者会見で初めて発表された。東京圏への人口流入が増加する一方、地方の人口が加速度的に減少していく現象にどう歯止めをかけ、地域の経済の縮小を防ぎ、まちの機能低下、地域の活力低下による生活サービスの維持が難しくなることを防ぐことが目的である。そのため様々な政策が立案され、実施されている。地方創生のための政策は一例だが、国や自治体ではどのように政策を立案していくのか、現在注目されているワードが「証拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence Based Policy Making)」である。

内閣官房行政改革推進本部事務局の平成30年1月12日付発表の「EBPMの推進」によれば、「EBPMとは、(1)政策目的を明確化し、(2)その政策目的のため本当に効果が上がる行政手段は何かなど、「政策の基本的な枠組み」を証拠に基づいて明確にするための取組」となっている。つまりこれまで従来慣習的、経験的に立案していた政策を、今後は政策目的を明確にし、その政策に大きく関連する情報やデータに基づいて政策立案すべきであるというものだ。そしてEBPM推進では政策の成果を、数量的に見えるアウトカムと呼ばれる目標指標で設定するのがEBPMの主旨だ。理想的な考え方である。
EBPMを実施する上でのポイントは以下である。①ロジックモデルの策定、②アウトカムの選定、指標の設定、③エビデンスの構築とデータの収集、④モデル事業の設定である。

ロジックモデルの設定について、独立行政法人経済産業研究所の関沢洋一上席研究員のレポートが分かりやすい例を挙げている。「幼児教育の無償化は将来の所得を増やす」というロジックをノーベル経済学賞受賞者のヘックマンは主張する。しかし日本は米国とは異なり、5歳児の就園率は96%までに達し、経済的原因により幼児教育を受けられない残りの家庭への助成制度は充実している。このためヘックマンのロジックだと、4%という限定的な増え幅だと、所得増加効果としては小さいという結論である。つまりロジックモデルは各国の状況によって一律には策定できないのだ。また政策とアウトカムの因果関係についてである。政策の実施が直接アウトカムの上昇、改善に結びついているか、お互いの因果関係を明確に検証することは現実的に大変困難である。従ってあまりにも因果関係の有無にこだわりすぎると本質を見失う。さらに昨今はビッグデータ華やかなりし時代になっており、データの活用が国、自治体、企業等の将来を決めていこう。しかし各種データの活用や統計データの精確性を高め、利用しやすい環境を整備するといったデータ整備は重要だが、データそのものが決してEBPMというわけではない。

今後は様々な多様なデータを使いこなし、EBPMを進めていくことが出来る人材の育成も喫緊の課題である。
経営学部 教授 岩井 善弘(地域創生・産学連携研究所 所長)