私の視点 2024
学生が企業の一員として
課題解決に挑む。
北海道十勝帯広との
協働プロジェクトとは。
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私の視点 2024 Vol.4
学生が企業の一員として課題解決に挑む。北海道十勝帯広との協働プロジェクトとは。
産業能率大学には幅広いテーマのゼミがあります。ゼミ活動では、学生同士によるディスカッションや企画検討のほか、地方自治体や企業とともに取り組む実践的なものまであります。今回は、経営学部 倉田ゼミが取り組む北海道十勝帯広との協働プロジェクトについてご紹介。学生がどのように地域に根ざした地元企業の課題解決に取り組むのか、ゼミ活動を通して得た学びとは。萩原建設工業株式会社の川口裕太さんと、経営学部4年生の黒田未夢さんにお話を聞きました。
企業の最良のパートナーとして学ぶ、濃密な5泊6日のインターンシッププログラム
『十勝帯広プロジェクト』とは?
2017年より倉田ゼミで取り組んできた十勝帯広地域との協働プログラム。スタート当初は農業をメインに地元で採れた農産物を自由が丘の街のイベントで販売するなどの取り組みから始まりました。コロナ禍を経て、帯広地域にある地元の企業にゼミ生がインターンシップとして参加し、経営課題の解決プランの提案を行っています。実際の企業経営の現場やビジネスの最前線にリアルに触れることができる。また経営理論など大学での学びを活かし、成果を上げて成長を実感できるなど、さまざまな学習効果が期待できます。
» 十勝帯広地域との交流
― どういった経緯でプロジェクトは始まったのでしょうか。
川口

もとは、帯広市による移住を希望する人や企業を支援する取り組みUIJターン事業の一環として始まりました。地元企業と学生のマッチングを行い、企業の抱える課題を一緒に解決するという取り組みがとてもおもしろいと感じたので、弊社も手を挙げさせてもらいました。SANNOの学生さんには、2021年から夏のインターンプログラムで来てもらっていますね。

黒田

はい、私たちの代で3代目です。倉田ゼミでは帯広市にあるいくつかの企業様へ学生がそれぞれグループになって訪問させてもらうのですが、私は建設業に興味があったので萩原建設工業様を選びました。グループではリーダーを務めさせてもらいました。

川口

初年度は手探り状態でしたけれど、やっと3年目にして方向性が定まってきたように思います。

黒田

このプロジェクトではSANNOらしいPBL※1という学びの形式を取り入れているので、実際に足を運んでどんなことができるんだろうとワクワクしていました。私たちの代のテーマは「広報の力で建設業界を盛り上げるにはどうしたらいいか?」でした。
※1 PBL…SANNOが取り組む、Project Based Learning(課題解決型学習)

― インターンプログラムでは、どんなことを行うのでしょうか。
黒田

夏休み期間に5泊6日で帯広市を訪問しました。初日のキックオフに始まり、萩原建設工業様の社内見学、現場見学や社員の方々30名とのディスカッション、そしてグループワークを行い、最後は経営陣へプレゼンをします。

川口

短期滞在なので内容は結構凝縮されていますよね。事前のオンラインでの顔合わせやミーティングはしていましたけど、実際に顔を合わせるのはインターンプログラムの時が初めてでしたね。

黒田

そうなんです。正直、建設業について事前に勉強してはいたものの、現場を見るまでは「建設=力仕事?」とイメージが偏っていました。

川口

実際に見てどうでした?

黒田

怒号が飛び交うような現場を想像していたんですけど、全くそんなことはなく(笑)。DX化※2も進んでいるし、何よりも働いている方がキラキラと輝いていたのが印象的でした。そういった社員の方の姿勢や働きがいをもっと広報で伝えるべきだなと、感じました。
※2…DX(デジタルトランスフォーメーション)は、AIやIoTなどのデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくこと

建設現場でのドローン活用を見学する黒田さんたち
川口

おっしゃる通りですね。広報活動はこれまで従業員個々人の裁量で行なっていたところが多く、うまく会社をアピールできていなかったというのはあります。改めて、発信する内容や広報の意義を見直さなければなと。

― そのほかには、どんなところに課題を感じていましたか。
川口

私たちのような建設業は日本全国にたくさんあります。その中で差別化を図るため、自社ならではの取り組みや強みをアピールするのは必須。そのための体制も整っていませんでした。また社内広報という視点でも、弊社は180名ほどの従業員規模ですが、部門間の交流がほとんどなく、それぞれどんな仕事をしているのか知らなかったんです。社員のエンゲージメントを高めるという意味でも、改善は必要だなと感じていました。
※エンゲージメント…「企業と従業員」「企業と顧客」の結びつきの強さ

企業の期待値を超える圧倒的な熱量のプレゼンテーション!
― 実際にはどんな提案を行ったのでしょうか。
黒田

社外広報と社内広報の2つのアプローチを提案させてもらいました。
まず、社外広報についてはもともと萩原建設工業様で営業ツールとして活用していた「HAGIWARA TIMES」という冊子がありました。発信内容には専門用語などが多く、採用視点で考えるとターゲットがとても狭いというのが課題としてあげられます。そこでもっとターゲットを広げて、発信内容の見直しをする提案をしました。

経営陣にプレゼンをする黒田さんたち
川口

たしかに、これまで工業高校や専門大学など業界と結びつきが強いところへのアプローチが主でしたので、大学全般や高校生に向けては意識してこなかったですね。

黒田

例えば、「施工管理」を「プロジェクトマネジメント」と言い換えて、それに従事する人のことを「プロジェクトマネージャー」と呼んだりすることで、私たちのような経営学部の学生にも魅力的に伝わります。

川口

まさに目から鱗でしたね。業界に長くいると「工事」を「プロジェクト」と呼ぶなんて考えてもみませんでしたし、新鮮な提案でした。

黒田

専門性の高い分野だとハードルが高くなってしまうんですが、「プロジェクト」「PM」という言葉があると、これまでリーチできなかった学部の学生にも興味を持ってもらえるのかなという狙いです。

川口

いい視点ですね。

黒田

社内広報については、現場でお話を聞いた社員の方々のキラキラした部分にもっと焦点を当てて効果的な施策をする提案をしました。具体的には、社内連絡ツールや「HAGIWARA TIMES」には楽しく能動的に仕事をする社員、つまり“キラキラした社員”を意図的に取り上げることで、そこから刺激を受ける人が広がり、企業内で活躍する人が増えるきっかけにするという仕組みです。

川口

これまで社内報で出てくる人は、当たり障りのない人ばかりだったりと、そこまで意図を深く考えずに広報活動をしていました。その意識を変えるというのは、ハッとさせられましたね。

黒田

「建設業界を盛り上げる」というところが大テーマだったので、業界全体が魅力的に見えて働き手が増えることが活性化につながると考えました。そのためには、そこで働く人の輝いている姿ややりがいがうまく発信できたら効果的だと思ったんです。

― 短期間にも関わらずプレゼンの完成度がとても高いように感じるのですが、プロジェクトで苦労した点はあったんですか。
黒田

実は最終日のプレゼンでは社内・社外広報の本質的な価値という構造がうまく伝えきれず…悔しい思いをしました。

川口

そこについては、私たち受け手側の理解も追いついていなかったというのはありますね。キラキラした社員にフォーカスすることがなぜ業界全体の魅力発信につながるのか、構造として理解しきれないまま最終プレゼンの場だったので、受け止めきれなかったんです。

黒田

川口さんたちには本当に申し訳なかったんですが、悔しさのあまりメンバーみんなプレゼンが終わった後に泣いてしまって。

川口

そうだったね。プレゼン終了後に北海道のおいしい海鮮丼を食べに行こう!なんて話していたんですけど、終わった後はただならぬ空気で…(笑)。

黒田

すみません…(笑)。

川口

「これはまずい!」と思って、大急ぎで海鮮丼をテイクアウトして持っていきましたね。あれもいい思い出です。その後の懇親会で黒田さんたちと議論する中で提案の意図をしっかり理解することができて、腹落ちしました。

黒田

熱量の高いメンバーばかりだったので、みんなつい力が入ってしまうんです。議論し出すともう止まらなくなってしまって。懇親会の席でも川口さんたちとお話しして、そのあとホテルに戻ってからはメンバー内で議論して、結局帰りの飛行機で羽田空港に着くまでずっと議論しっぱなしでした。

川口

それだけ情熱的に取り組んでいてくれたと思うと、本当にありがたいです。

萩原建設工業の会社前での集合写真
ゼミを「企業」と見立て、対等に考え、提案する
― 川口さんはSANNOの学生とプロジェクトをともにしてみて、いかがでしたか?
川口

学生のみなさんには、本当にたくさんの刺激をいただきました。特に印象的だったのは、みなさんの学びの意欲ですね。プロジェクトを進める中で、私たちが思いつかないような視点や発想を次々と出してくれたので、驚かされました。あとは自分たちで考え抜く力が日頃の授業などでも養われているのだなと感じます。提案してくれる内容はもう大学生のレベルではないなと、感心しましたね。

黒田

これは倉田ゼミの特徴でもあるのですが、ゼミを疑似企業に見立てて組織運営をしています。本物の会社のように役職や部署があってそれぞれ役割を担っているので、日頃から組織課題に対する視点は養われているのかもしれないです。

川口

黒田さんたち学生がそういった真剣な姿勢で向き合ってくれるので、私たち受け入れる側も甘えは一切見せず、学生さんの学びになることを提供したいと思っています。

黒田

それは現場で私も感じた部分です。短期間ではあったのですが、社員のみなさん本当に熱心に業務内容や建設業界のこと、仕事のやりがいなどを語っていただいて。学生としてではなく、ちゃんと対等に見てくださっているんだなと気合も入りました。

川口

そもそもこの取り組みでは「インターンシッププログラム」という名前はついていますが、SANNOの学生さんは“インターン生ではない”という前提なんです。企業の課題解決に取り組む、まさにコンサルと同等レベルのことをしてもらうので、私たちも自社の理解を深めていただくために、すべてオープンにして会社のことを見てもらう、質問にはなんでも答えようというのは初年度から心がけています。

― 提案を受けて、萩原建設工業様の中で変化はありましたか。
川口

広報活動の強化は引き続き行なっています。具体的には、「HAGIWARA TIMES」での成功事例や現場で働く社員の姿を発信するなど、これまで以上に人選や企画の狙いをしっかり定めて取り組むようになりました。その他にSNS(Instagram、Facebook)の活性化や求人サイトの活用、最近では新たな試みとしてラジオ番組を設けたり、いずれも以前に比べて「人」にフォーカスを当てた情報発信を基点に取り組んでいます。

黒田

社員の方達が誇りを持って仕事に向き合っている姿を、私たち学生も「すごい」と思ったので、それを広く伝えられる提案ができて嬉しいです。

川口

広報に力を入れるようになって、社員の意識も変わってきているように思います。他部署への理解やエンゲージメントが向上することで、会社全体が一体感を持てるようになったかなと思っています。SANNOのみなさんと一緒に取り組んでいなければ、おそらくここまでの変化は起きなかっただろうなと感じています。

黒田

その言葉を聞いて、本当にやってよかったと思います。

プロジェクトに真剣に向き合うことで、進路が見えてくる
― プロジェクトを通して黒田さんが学んだことはなんでしょうか。
黒田

自己分析が深まりましたね。チームとして動く中で、自分の強みや弱みが見えてきて、チーム内でどういう役割で動くのが最適なのか考えるようになりました。私はどちらかというと発言する側になることが多くて、時には話しすぎてしまいます。でもそういう時に、チーム内に意見をまとめたり要約してくれる人がいることで、バランスが取れて一体感が生まれるんだなと。

川口

黒田さんたちのチームは9名中女性が8名という、これまで以上にパワフルなチームでしたよね。リーダーとしてまとめ上げるのが大変だったのかなと思うけど。

黒田

個性が強いチームだったので大変な部分もあったのですが(笑)、あの時間を通じてチームの中での自分のポジションや適切な関わり方を考える良い機会になりました。あとは、きちんと成果を出すことが重要だということを実感できたのも大きな学びでした。

川口

それはさっきの悔しかった思いというところだよね。

黒田

はい。どちらかというとこれまで大学の課題も「提出すること」をゴールにするような思考だったんですが、今回のプロジェクトではただ課題をこなすのではなく、チームとして成果を出す、それが重要なのだと気づけました。

川口

学びの場を提供できたと思うと、私たちも嬉しいです。

黒田

実は今回のインターンは、卒業後の進路にも大きく影響しているんです!

川口

え、そうなの?

黒田

萩原建設工業様の現場見学で聞いたDXの話にとても興味が湧いて、新しい技術やデジタルの力でもっと新しい価値を提供していけるんじゃないかと考えるようになったんです。建設DXイベントにも足を運んだりして、そこで出会った企業に就職が決まりました。

川口

おめでとう!業界に少しでも興味を持ってくれる人が増えたということは励みになりますね、嬉しいな。

― 最後にお二人からメッセージをお願いします。
黒田

SANNOには幅広いゼミ、そしてプロジェクトがたくさんあります。進路に迷っている方はぜひ、自分の興味や好きをヒントにどんなことが学べるのかを調べてみてほしいです。「学び」だけでなく、「人として成長できる要素」みたいなものも大事にして、いい大学選び、進路選択もしてください。

川口

私たち企業も、学生から新しい発想や気づきを得られることを楽しみにしています。これからもSANNOさんとの関わりを大切にしていきたいと思っています。ありがとうございました。

黒田

ありがとうございました。

プロフィール
川口 裕太 YUTA KAWAGUCHI
萩原建設工業株式会社
業務改革推進グループ
北海道小樽市出身。小売・販売業を経て、2020年11月に帯広に住みたいという理由から、北海道十勝の総合建設会社である萩原建設工業に入社。
業務改革推進グループの係長として、DXなどの業務改革、社内コミュニケーション促進などの活動に取り組む。サッカー好き、子供好きの二児の父。
黒田 未夢 MIYU KURODA
経営学部経営学科4年生
父親が会社経営をはじめたことをきっかけに経営に興味を持ち、倉田ゼミを選択する。ゼミ活動ではゼミの理念である「自由と主体性」のもと、積極的にプロジェクトに取り組む。中でも十勝帯広プロジェクトでは推進本部長を務め、プロジェクトの活動に大きく貢献した。また、ゼミで例年取り組んでいる日経ストックリーグへの挑戦するなど精力的に活動している。
協働プロジェクトの仕掛け人
帯広市
商業労働課 
小野 敬真 様
帯広市は、北海道の十勝地方の中央に位置する、食・農業を主要産業とする中核都市です。
本市では、UIJターン促進事業の一環として、「企業の課題解決」をテーマとした、学生と企業の双方が熱意をもって取り組めるプロジェクトを実施しています。
今回の対談から、帯広を訪れたことが「キャリア形成」や「学ぶこと」について深く考える機会となっていたこと、チャレンジ精神に溢れる十勝・帯広の企業の魅力が伝わっていることが言葉の端々から感じられ、大変嬉しく思います。
本プロジェクトは、これまで大学で学んできた「理論」を企業の課題解決に向けて活用することや、帯広の「リアルな企業活動」を知ることを通じて、「働く」ということに、学生のうちから深く向き合える機会となっています。
地域産業の活性化は地域全体の活性化に大きく繋がっています。
SANNOの意欲ある学生が帯広を訪れ、ともに地域を盛り上げていってくれることを期待しています。
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