大学教育再生加速プログラムこれまでの取組み

産業能率大学の大学教育再生加速プログラム(AP)での取組みを紹介します

産業能率大学は、2014年に文部科学省の大学教育再生加速プログラム(AP)に採択されました。この大学教育再生加速プログラムは、①アクティブラーニング、②学修成果の可視化、③入試改革・高大接続、④長期学外学修プログラム、⑤卒業時における質保証の取組の強化の5つのテーマで先進的な取り組みをおこなう大学に対して補助金が交付されるもので、404の申請件数(4件の共同申請を含む)のうち77大学(1件の共同申請を含む)のみが採択されています。
本学は、上記5つのテーマのうち①と②の複合型で採択されています。そして後に、③入試改革・高大接続のテーマへの取り組みが全ての採択大学に要請されることとなったため、3つのテーマに取り組んできました。このような本学のAPへの取り組みは、2017年度におこなわれた中間報告において、文部科学省から最高レベルの「S」として評価されました。
このAPは文部科学省の補助金事業としては2019年度末で終了することになっており、本学の取り組みもほぼ完成形に至っていますので、ここにご紹介します。

アクティブラーニングの実質化と組織的推進

アクティブラーニングとは、「行動的な学び」ではなく「能動的な学び」を指します。近年では、文部科学省では「主体的・対話的な深い学び」という言葉が用いられていますが、同じ内容を指しています。
学生がただ座って先生の講義を聴くだけという受動的な授業ではなく、授業の中で学生が主体的に問題を考え、議論し、解を見つけ出すとともに、それを言語化してプレゼンテーションなどを通じて他者に発表するという授業のことです。
今では多くの大学でも導入されるようになってきましたが、産業能率大学は多くの大学に先駆けて、2013年から1年次必修の基礎ゼミの科目で、企業と連携しつつ課題を解決してくプロジェクト型のアクティブラーニング授業をおこなってきました。そして、こうした取り組みは、経済産業省や日本私立大学協会、日本高等教育開発協会などから高い評価を受けてきました。
このような歴史を持つ産業能率大学がAPで取り組むわけですから、単に、「もっと多くのアクティブラーニング授業をおこないます」というレベルではなく、その質をかつてないほどに高めるための取り組みを目指しました。
そして、その取り組みも一部の教員だけが参加するのではなく、「教育方法の改善」や「学習支援の強化」など補助金事業と自主事業に関連する8つのユニットを設け、多くの教員が取り組みに参加する仕組みを構築して、組織的推進を追求してきました。
まず、授業の質を高め、学修成果の可視化を実現するためには、現状を把握する必要があります。
そこで取り組んだのが、①学修成果の可視化、②学習行動の可視化、③教授行動の3つの可視化です。

学習行動の可視化

学習行動を可視化し、授業時間外の学習時間が大幅に増えました
学生は授業以外の時間にはどのように学習しているのか、それともしていないのか。このことを把握するために、学生がネット上で毎日記入する仕組みをつくるとともに、授業外学習時間を増やすために、すべての科目で成績評価の20%は授業外学習を含めることにしました。そのために、学生がその学習を意義あるものと感じられるように、レポートや小テストなどのツールを開発しました。そうした結果、図のように学生の授業外学習時間は週8.5時間程度だったものが16時間以上へと約2倍化し、現在も継続しています。つまり、授業以外の時間に学習するのが、産業能率大学の学生にとっては当たり前のことになっていることを示しています。

教授行動の可視化

先生の教授行動もスタッツデータで可視化し改善につなげる
他方で、先生の教え方については、どうでしょう。
授業改善を進めるためには、教授行動の可視化も不可欠化だと考えました。
例えば、ある先生は「自分はアクティブラーニング中心の授業をしている」と考えています。また別の先生は「自分はアクティブラーニングと講義を半々程度にした授業をおこなっている」と考えています。しかし、そのような主観的な認識は果たして正しいのでしょうか。現状を正しく認識したうえでこそ、授業改善が進むはずです。
そこで取り組んだのが、前例のない授業中のスタッツデータの取得と活用です。
スタッツデータ?
そう、サッカーやテニスのテレビ中継などで、選手やチームの活動を定量的に示す、あのスタッツデータです。室内でスタッフが授業を観測し、教室のどの位置で、教員が何を何分間おこなったのかを記録します。こうして記録したスタッツデータを、教員は自分の教授行動の振り返りに活用しています。
具体的には、半期に一度持たれる教員と学部長との面談で、教員はこのスタッツデータをもとに自分の教授行動を分析し、課題を見つけ出して、次の改善につなげていきます。教員自身による自己認識や自覚の深化が基本であり、学部長などが改善を押し付ける活動ではない点に、学生も教員も共に成長を目指すという、産業能率大学らしいユニークさがあります。

学修成果の可視化

学修成果を可視化しています
産業能率大学では客観的な学修成果の測定として、 GPA(学生が履修した全科目の成績の平均を数値で表したもの)に加えて、PROGテスト(対課題、対人、対自己の行動特性を祖測定するコンピテンシーテストと、情報収集力、課題発見力、構想力を測定するリテラシーテストで構成され、汎用的能力=ジェネリックスキルを測定するテストです)を毎年実施しています。経年でリテラシーとコンピテンシーの変化を測定して、GPA、リテラシー、コンピテンシーの三位一体で学習成果を可視化する取り組みです。
これに加えて卒業生に対する調査、卒業生の就職先に対する調査も実施しています。就職先の企業が卒業生をどのように評価しているかは、産業能率大学のおこなっている教育を検証する上でも重要です。このように、定量的で定点観測的なGPAとPROGテスト、定性的な卒業生および就職先調査を組み合わせることで、立体的な学修成果の可視化に取り組んでいます。

高大接続の取り組み

高校の学びを高度化するプログラムを高校に提供
次に入試改革・高大接続に関しての取り組みについてです。
産業能率大学はこれまでもAPとは別の独自の取り組みとして、単なる受験学力だけで入学者を選好するのではない、独自の入試をおこなってきました。「自己の将来像」「大学での学習意欲」「高校までの学習態度や活動」を評価するAO(アドミッションズ・オフィス入試)、「自己の将来構想」に基づく課題解決プランのプレゼンテーションと面接で選考するキャリア教育接続入試、マーケティングへの興味や関心をグループ討論や面接などさまざまな側面から評価し選考するアクティブラーニング入試(経営学部マーケティング学科のみで実施)などです。
また2006年から毎年、高校の先生方を対象に開催している「キャリア教育推進フォーラム」や「授業力改善フォーラム」は、現在ではアクティブラーニングに積極的に取り組み先生方のメッカのような存在として、広く支持を集めています。
このような蓄積を踏まえて、産業能率大学では高大接続に関するAPの取り組みとして、高校生に対して①「主体的学習者育成プログラム」と②「協働的学習者育成プログラム」を開発しました。そして両プログラムをすでに20校以上の高校に対して提供し、多くの成果を生み出しています。
これは、どのようなプログラムなのでしょうか。
現在進められている高校の教育改革の一環として、2022年度から「総合的な探究の時間」を高校のカリキュラムに設けることが決まっています。これは、生徒自身が自ら「問い」を立て、教科を越えたあらゆる知識を活用して「解」を見いだし発表する、という授業です。
そして①の前者は、この「自ら問いを立てる」力を養成するプログラムであり、②の後者では情報を共有し合意形成する力を養成します。
具体的には、①「主体的学習者育成プログラム」はこa「問題発見編」とb「問題解決編」に分かれており、a「問題発見編」では生徒たちは「生活科学研究所」の研究員になったつもりで、ある夫婦共働きで中2と小3の子供のいる4人家族の食事の写真を10枚ほど見て、その背景にどのような問題がありそうかを考察していきます。しかし、それだけではすぐに行き詰まり、次に専門知識が与えられることを通じて問題を探る視点が深くなることを生徒たちは経験します。その感覚を経験することを通じて、知的欲求や問題意識が生まれ、生徒たちの内発的動機付けとなり、探究においても質の高い「問い」を自分で立てることができるようになります。
b「問題解決編」では、仕事と育児との間で揺れるワーキングマザーが主人公のビデオを見て問題発見をするとともに、今回はその先の解決までを考えます。主人公が抱えるジレンマにまで踏み込み、多様な着眼点、複眼的な解釈で仮説の抽象度を高めていきます。
②「協働的学習者育成プログラム」では、住宅や不動産に関する住まいのアドバイザーとして、Y市への移住を検討している佐藤さん一家に対して、仲間と協働してY市の現状に関する情報収集をしてアドバイスするというもの。c「情報共有編」はこのプロセスのうちの、Y市の情報を収集・整理・共有するところまでであり、アドバイス内容の検討はd「合意形成編」で行われます。
これらの両プログラムを学んだ成果の一例を次のグラフとして示します。沖縄県立開邦高校の生徒たちの自己評価の伸びを示したグラフです。
このようなプログラムを経て、より質の高い「総合的な探究の時間」に取り組んだ高校生たちは、今まで以上によりスムーズに大学での能動的で主体的な学びに入っていけるようになるはずです。

以上のように、産業能率大学における大学教育再生加速プログラムの取り組みは、大きな成果を挙げつつ進んできましたし、補助金事業としての期間終了後も継続的に発展していくための礎を築いています。