bjリーグにおける観客調査
-コアブースター育成に関する研究-

調査レポート
bjリーグにおける観客調査-コアブースター育成に関する研究-
1. 転換期を迎えたプロスポーツビジネス
2009 年のシーズンは、プロスポーツビジネスにとって受難の年となった。リーマンショック以降、多くのプロスポーツのジャンルで撤退、廃部が相次いだ。予算を縮小しているところも少なくない。
日本におけるプロスポーツの大きな特徴は、メインスポンサーが大きな影響力を持っているということである。プロ野球をはじめ、サッカー、バレーボールなど多くのプロスポーツはスポンサーの安定的なサポートがあって成立しているところが多い。それ故にひとたびスポンサーの経営が悪化すると、廃部、撤退が多くなる。海外でもほぼ同様の傾向が見られるが、スポーツ振興という視点からみると、今後対策が必要となろう。チームを引き受ける新たなスポンサーが出てくれば良いが、今日のように全体的に景気が悪化している場合それも困難である。結果として、縮小に歯止めがかからない。特に、マイナースポーツを支えてきた企業にこうした傾向が強くみられるため、結果として、そのスポーツ自体が衰退してしまう。他方、消費者がレジャーにかける費用も明らかに減少してきている。当然、スポーツ観戦に行く回数も減少しており、入場料収入を経営の柱とするプロスポーツには大きな痛手となった。さらにプロスポーツ観戦をエンターテインメントとしてとらえると、その競争環境は厳しくなってきている。主な環境変化の要因としては次の2点が挙げられる。1つはスポーツジャンルの多様化である。昔と比べると、多種多様なスポーツが紹介、輸入され、それに伴いファンも分散している。例えばアメリカでは、Xgames( X ゲームズ)と呼ばれる新たなジャンルのスポーツが大きなイベントとなり定着している。もう1点はエンターテインメントの多様化である。映画、ゲーム、インターネット配信サービスの高度化など、我々に提供されている娯楽の種類はますます増えている。常に娯楽に触れる環境があるため、わざわざ会場にスポーツ観戦に来る人は、そのスポーツに対する思い入れが強い人が多い。こうした市場セグメントの小型化と競争激化という逆風の中で、新興リーグであるbj リーグがいかなる戦略をとっていくべきなのか、その方向性について考察するのが本研究の目的である。

2.bjリーグの現状と課題
bj リーグをビジネスの視点から捉えると、他のプロスポーツと大きく異なる部分としては以下の諸点が考えられる。第1点は、興行(ゲーム)数が少ないことである。選手の消耗が激しいこともあるが、平均で週に2試合しかできないのは大きい。J リーグも同様に週に2試合だが、スタジアムに入る観客数が異なる。この試合会場の大きさが第2点である。野球やサッカーでは約5万人収容可能なスタジアムがあり、1試合での収入が大きく異なる。第3点は、世界と勝負する姿が消費者に見えにくいことである。サッカーにはワールドカップ、野球にはWBC がある。同じ室内球技でもバレーボールはワールドカップがあり、さらにこれらのスポーツは共通してオリンピックで世界と戦っている姿を観客に見せている。最後に第4点として、エンターテインメントとしての育成が遅れているという点が挙げられる。これはバスケット界の組織的な問題に起因しているといってよい。JBL とbj という2つのリーグに分裂している状況は好ましいものではない。中学、高校、大学に至る部活動においてバスケットボールはトップクラスの人気を持つスポーツであり、そのポテンシャルは高い。最近統合への話し合いが進んでいるようであるが、早急に組織体制を整備し、世界で戦える強化戦略を策定、実施することが望まれる。

3. 基軸となる顧客満足の最大化とリレーションシップの構築
こうした環境認識を踏まえ、本研究では、産業能率大学はbj リーグ東京アパッチとの協働により観客調査を実施した。観客調査は07-08 シーズン、08-09 シーズンの2シーズンにわたって行われ、延べ2000 人の来場者アンケートが収集された。このアンケート調査の当初の目的は、まだ黎明期にあるbj リーグの試合を見に来てくれる観客がどのような経緯で試合観戦に訪れたのか、どこから来たのか、そして試合を見に来てどう感じたのかといった基礎的なデータを収集することにあった。調査を始めるにあたって、本学と東京アパッチとの話し合いの中で最優先の課題としたのはコアブースターの育成であった。アリーナビジネスでは、逆説的に言えば野球やサッカーのように何万人も動員する必要は無い。おおよそ3000 人を継続的、安定的に集め続けるしくみをつくることがアリーナビジネスを軌道に乗せる根幹となる。換言すれば、一定のコアブースターを育成し、3 年後をめどに安定した観客動員に結びつける事が、今回の調査の最終目標であった。では3年後にコアブースターを育成するためには何が必要であろうか。コアブースターの育成とは、単にマニアを増やすことを意味するのではない。自らも楽しみつつ、他のバスケットに関心のない顧客層を巻き込んでくれるようなファン層の育成を意味する。イメージとしては、宝塚ファンや阪神ファン、J リーグの浦和ファンがこれに近い。こうした顧客との長期的な信頼関係の構築を中心に組み立てられているマーケティング手法にリレーションシップ・マーケティングがある。リレーションシップ・マーケティングにおける研究のエッセンスは、顧客に徹底的に尽くすことによって顧客を維持することが自社の長期的な利益に繋がるという点である。刻々と変化する顧客満足を的確に把握し、顧客満足度を最大限にまで高め、その満足水準を常に維持する。bj リーグにおいても、その最高度の満足を創出することがコアブースターの育成に繋がる。まず3年間で、コアブースターをまず1000 人育成するために顧客満足度を徹底的に高める戦略的示唆を得ることが今回の目標となった。
4. 調査結果からの示唆
今回の調査は、bj リーグでは、初めて行われた継続的な観客調査であった。今回の調査で大きな発見は、3年目ではあるもののプロのバスケットボールの試合を初めて見た人が圧倒的に多かった(63%)という点であり、かつそれらの層が概ね高い満足度にあったという点である。試合後の感想をみるとスピード感、戦略性などについて面白いという意見が数多く寄せられた。エンターテインメント性があり、リピートが期待できることが実証されたことは大きな発見となった。第2の示唆は、顧客ターゲットとして若年層、特に小・中学生層の取り込みが期待できるという点である。日曜日の試合は13 時から行われていたこともあり、家族連れの姿も目立った。実際に08-09 シーズンではこうした若年層も意識したグッズの開発やフードの開発を進めたところ、有意な成果が認められたとの報告があった。これらの点をさらに深化させることが出来れば、3000人を常に集めるビジネスモデル、それに繋がる1000人のコアブースターの育成は決して夢ではない。bj リーグの今後の展望を考えるとJBL の統合など、まだ不透明なところはある。しかしリーグの形態がどうなろうと、チームを支えてくれるブースターとの関係性が今後も重要なテーマであることに変わりはない。bj リーグは、今期は京都が新規参入、10 -11 シーズンからは秋田、島根、宮崎の参入が決定するなど、拡大傾向にある。来期以降の加入を検討している地域、団体も少なくない。その意味では、一気に全国的な認知を得て、気軽に楽しむことができるプロスポーツとして定着できる大きな可能性を秘めている。何よりも、バスケットボールの経験人口、スポーツとしての認知度は日本でトップクラスにあり、競技の裾野は決して狭くない。スポーツマネジメント研究にあたって、大きな変動期にあり飛躍が期待されるプロバスケットボールの研究を今後も継続して行っていきたいと考えている。