ビーチバレーの普及に向けた
「調査」と「現場」との連携2

調査レポート
ビーチバレーの普及に向けた「調査」と「現場」との連携2
本研究所では、「現場」においてビーチバレーの普及活動を先導してきた川合庶と、インターネットを利用した「調査」を専門にする小野田とが異色のコラボレーションを行っている。前号では一般男女1万人に対してインターネット調査を実施し、バレーボールとビーチバレーとのイメージ比較や、親子間のスポーツキャリアパス解析などを行った。
本号では、前回調査の1年後に実施した同様の調査結果を前回調査と比較するとともに、2010年度より新たにスタートさせた研究についても報告する。本文の執筆は、データ周りを小野田が、結果の解釈を川合が主に担当した。
前回調査との比較
表1は、前号と同様の25対の対立概念を提示し、バレーボールとビーチバレーそれぞれについてイメージを尋ねた調査結果の比較である。それぞれの年度において「+2:かなりプラス側」「+1:ややプラス側」「-1:ややマイナス側」「-2:かなりマイナス側」として平均を算出し、その値を年度間で比較するt検定を行った。平均値は絶対値0.250ごとに階層区分を行い、プラス側ほど暖色系、マイナス側ほど寒色系で網掛けをしている。なお有意性の列は、両側確率で「1%有意」の場合に「**」、「5%有意」の場合に「*」と記した。

世界バレーの影響が大きかったバレーボール
2010年度のバレーボールを語る上で欠くことができないのは、世界バレー(バレーボール世界選手権:FIVB Volleyball World Championship)における、全日本女子(女子日本代表)の32年ぶりとなる銅メダル獲得(2010年11月14日)である。2010年度の調査は2011年に入ってから実施したため、この快挙の影響が如実に現れる結果となった。各種目に対するイメージは、男子種目・女子種目に分けて尋ねたものではないが、1%有意で最も大きな変化が見られたイメージが「華やかな」であり、「なじみのある」「美しい」「楽しい」「集団的な」「興奮する」などの各イメージも5%有意で強化された点を踏まえれば、その変化は、世界バレーにおいて全日本女子が一致団結して強豪国を打ち破り、試合のテレビ中継も連日高視聴率を記録したことに基づくと説明してよいであろう。歴史が長いためイメージが安定している感のあるバレーボールであっても、このような大きな変化が起こりうる。この事実は、活躍し結果を残すことがスポーツにとっていかに重要であるかを改めて教えてくれる。
競技認知がより浸透したビーチバレー
インドアのバレーボールは世界的に華々しい成績を残したが、国内において競技としてのイメージ変化がより大きかったのはビーチバレーの方かもしれない。表1の25対の対立概念のうち、有意性に印のある概念がバレーボールでは8件であるのに対し、ビーチバレーでは11件にも及び、1%有意で大きくイメージ変容が起こった概念に関しては、前者1件に対して後者は5件にも上るからである。確かに、歴史の浅いビーチバレーのイメージは定着しておらず、未だ不安定だともいえよう。だが表1からは、一貫した変化の傾向を読み取ることができる。それは、「メジャーな」「なじみのある」「理性的な」の強化である。年々ビーチバレーがメディアに取り上げられる回数が増え、マイナー競技という印象はもはや払拭しつつある。その結果、ルールや競技特性も以前より理解が進み、頭脳的なテクニックが重要な競技であるとの認識が徐々に浸透してきていると解釈できるからである。この変化については筆者も肌で感じている。以前であればスター選手目当てで来場し、競技に関してはまったく無知な観客も珍しくなかった。しかし最近ではスタンドに耳を傾けると、ランキングやプレー内容について熱く語り合うファンの会話が聞こえてくるようになったからである。ビーチバレーは目新しい段階を越え、スポーツ文化の一つとしてまさに根づきつつあるのだろう。その流れが一過性で終わらないためにも、バレーボールの活躍に負けないほどに、ビーチバレーも世界で結果を残すことが、いま強く求められている。

ゲートウェイ・マイニングの始動
2010年度に新たに着手した研究として「ゲートウェイ・マイニング」が挙げられる。ゲートウェイ(gateway)とは”入口”を意味し、前号で報告した親子間のスポーツキャリアパスも、子供がビーチバレーを行うそのきっかけ(入口)となる親のスポーツキャリアを調べた点でゲートウェイ研究に通じる。他方、マイニング(mining)とは”発掘”、とりわけデータ分析の世界では”塵の山から宝を発掘する”意として捉えられる。すなわち、より膨大な数の入口候補を用意して調査と解析を行った点が、昨年度との決定的な違いである。
意外な発見を意図した調査設計
2009年度は「わが子にビーチバレーをさせたい親のスポーツキャリア」について調査した。しかし、親のスポーツ経験が子供のスポーツ経験に影響を及ぼすことは自明であるため、定量的な把握に一定の意義はあるとしても、その結果が実務的に大きな示唆をもたらすことは期待できなかった。そこで2010年度は、直接的な因果関係を事前に想定できないような、意外性のある項目群を多数用意し、表2の概要で調査を実施した。★の付いている項目が新設項目である。
高い具象性がもたらすペルソナ想起
データ解析手法は、前回同様の相関ルール(Association-Rules)を用いた。紙幅が限られるため、女性サンプル(母親想定層)において「ビーチバレーニュースに関心がある」(Support=0.9%)をOUTPUT変数とした場合に、関連の高いINPUT変数群の抜粋のみを表3に示す。この結果は具象性が高すぎ、一般的には理解不能である。しかし長年ビーチバレーに携わってきた専門家が眺めれば次のように解釈できる。自身がバレーボール経験者であり、アウトドアやマリンスポーツに関心が高い(したがって好きなブランドにもサーフブランドが含まれる)点は既出の知見だが、興味深い発見が2点指摘できる。一つは”流行りものに敏感”な点であり、その傾向を説明するのが、現在行っている「DVD/テレビゲーム利用のエクササイズ」や、関心のあるスポーツとしての「海外サッカー」「MLB」である。すなわち、ビーチバレーもこれらの”流行りのスポーツ”の一つとして、彼女たちの関心事になっている可能性がある。そしてもう一つは、”娘を有名にしたい”という価値観ではなかろうか。子育て観の「夢見因子」とは具体的には「将来子供には有名人になってほしい」という質問にYesと回答した場合が該当する。自身が「バレエ」「合唱」「演劇」の経験者であり、女の子にさせたい習い事に「合唱/コーラス」「演劇/ミュージカル」などが挙がっている点もその証左といえよう。現在ビーチバレー界にはアイドルが存在する。その選手をモデルケースに、いわゆる”ステージママ”たちの関心もビーチバレーは集めていると解釈できる。このようにゲートウェイ・マイニングは、その出力結果が詳細すぎるために結果それ自体に学術的価値を主張することは難しい。だが実務家が普及活動を行う際に必要とされる新規顧客の鮮明なプロフィール描写(ペルソナ想起)を助けるならば、そこには方法論としての価値が認められるに違いない。本研究はまだ始動したばかりである。「調査」と「現場」との連携をより緊密にしながら、当該研究を発展させていきたい。
主要参考文献
●Agrawal, R., T. Imielinski, and A. N. Swami (1993); “Mining Association Rules between Sets of Items in Large Databases”, Proc. of the ACM SIGMOD Conference on Management of Data, pp.207-216.
●Berry, Michael J. A. and Gordon S. Linoff (1997); Data Mining Techniques: For Marketing, Sales, and Customer Support, John Wiley & Sons. Cooper, Alan (1999); The Inmates Are Running the Asylum, SAMS.
●原田和弘・中村好男(2009);「身体活動・運動への興味を高める方略としての趣味・余暇活動ゲートウェイの可能性」, 『スポーツ産業学研究』, Vol.19, No.2, pp.129-143.
●大澤幸生(2002); 「チャンス発見におけるデータマイニング」, 『計測と制御』, Vol.41, No.5, pp.325-330.