ビーチバレーの普及に向けた
「調査」と「現場」との連携

調査レポート
ビーチバレーの普及に向けた「調査」と「現場」との連携
我が国におけるビーチバレー選手の先駆者の一人である川合と、データマイニングを専門にする小野田の2 名が、ビーチバレーのさらなる発展を目的として取り組む共同研究の2009 年度成果について報告する。執筆者は、『アンケート調査の分析結果』が小野田、『現場の活動につながる示唆』が川合である。
アンケート調査の分析結果
【分析1】わが子にビーチバレーをさせたい親のスポーツキャリア
ビーチバレーは新興スポーツのため、既存の経験者はそう多くはいない。つまり、子供たちの世代が今後どれだけ愛好してくれるかに、ビーチバレーの将来がかかっているといっても過言ではないのである。しかし、幼い子供たちが自らの判断でビーチバレーを始めるだろうか。おそらく親の意向が強く影響するに違いない。そこで、どのような親であれば、より好意的にわが子にビーチバレーをさせたいと考えるかについて、1万人に対する調査を実施した*1)。その結果からまずわかったことは、子供の性別による決定的な違いであった。男の子にビーチバレーをやってほしいと考える親は、父親想定層で0.1%、母親想定層で0.4%と、ほぼ例外的である。しかし対女の子で見ると、父親想定層の2.3%、母親想定層の1.4%もがビーチバレーをさせたいと考えていたからである。
ゆえに、一定の回答のあった「女の子にビーチバレーをさせたい」と考える父親・母親想定層のスポーツ経験との関連を<相関ルール>という分析技法を用いて明らかにした*2)。その結果としての主なパスが【表1】である。親子一緒にビーチバレーをしたいというのは自明な結果であるが、それ以外で父親・母親両想定層に共通して見られる特徴は、小学生時代のバレーボール経験であり、母親想定層に関しては中学時代のバレーボール部所属や、現在もバレーボールを行っていることが強い影響を及ぼしていた。この解析において得られた意外な結果は、両想定層に共通して現れた《サーフィン》の存在である。現在サーフィンを行っている父親想定層、将来サーフィンをやりたいと考えている母親想定層から、それぞれ有意なパスを確認することができたからである。
【分析2】バレーボールとビーチバレーとのイメージギャップ
現在プロで活躍するビーチバレー選手のほとんどが、インドアの元バレーボール選手であることはよく知られている。加えて分析1の結果からは、一般的な人々においても、ビーチバレーがバレーボールという競技とは切っても切れない関係にあることが裏付けられた。よって二つめの調査は、バレーボールに対して高関与度の500 サンプルに限定して実施した*3)。25 対の対立概念から成る< SD 法>によって、「かなり」を± 2 点、「やや」を± 1 点として平均値を算出し、絶対値の大きい側を「該当イメージ」として、両競技それぞれに該当する主要なイメージ上位10 件を表示したのが【表2】である*4)。概して、《バレーボール》は「なじみのある健全な集団競技であり、スピード感があって興奮するし楽しい競技」として、《ビーチバレー》は「暑い(夏に)太陽の下で行う開放的で自由な競技であり、健全さと大胆さを兼ね備えているが、(砂で)汚れる競技」として捉えられていることがわかる。なお、両者の差異を明示化すべく、同一概念での差分を取り、その絶対値の大きい順に10 件を表示したのが【表3】である。そしてこの結果を基に、対照的に指摘できる肯定的・中立的・否定的イメージをまとめたものが【表4】になる。
【分析3】ビーチバレーに対するポジティブ/ ネガティブ意見
分析2と同じ500 サンプルに対して「ご自身はビーチバレーをやってみたいですか?」および「お子さんにビーチバレーをやってほしいですか?」と尋ね、YES / NO それぞれの場合において、その理由を自由記述してもらった質問の解析結果をもとに、ビーチバレーの魅力と、ビーチバレー普及の阻害要因について調べた。<形態素解析>によって、それぞれ出現頻度の高い自立語(名詞・動詞・形容詞)の上位25 件を抽出したものが【表5】である*5)。

YES と回答した際の理由、すなわちビーチバレーに対する《ポジティブ記述》からわかることは、分析2においても抽出された「開放的で楽しそう」というイメージが、ここでも代表的な魅力として認知されている点であり、加えて、「健康に良さそう」「子供と一緒にできそう」「人数が少なくてもできそう」などが新たなポイントとして指摘できる。他方、NO と回答した際の理由、すなわちビーチバレーに対する《ネガティブ記述》からわかることは、分析2とも共通する「陽にあたるため日焼けが気になる」「砂だらけになって汚れる」という要素であり、新たな知見としては「若い人の競技で年齢的に無理」や「ユニフォームが水着で恥ずかしい」などが挙げられる。その他、「ビーチバレーができる場所が近くにない」という意見も多い。そしてこれらの背景から「どちらか行うのであれば室内のバレーボールの方を」と考える向きも小さくないことが窺えた。
現場の活動につながる示唆
ベルマーレ主催の親子スポーツ教室などを通じて、これまでも子供たちにビーチバレーを体験してもらう場を提供してきた。その中で、子供たちを教室に連れて来る親御さんにはバレーボール経験者が多いということを肌で感じていたが、このようにデータとして示されたことで、その感覚は確信へと変わった。また、意外でありながら納得できたのは「サーフィン」との関連である。実際に本学の部員に聞いたところ、父親の趣味がサーフィンという学生が2 人もいて興味深かった。このような分析1の結果を踏まえれば、重点的な普及拠点を、ママさんバレーの会場や、サーフィンとビーチバレーが一緒に楽しめる砂浜へと絞り込むことができ、より効率的な普及活動が展開できるように思う。続く分析2では、ビーチバレーへの否定的なイメージとして「馴染みが薄くマイナーな競技」というものが挙がっていた。これはかねてより課題に挙げ、その克服を目指してきたものだが、まだまだ達成には努力が必要であることを再認識した。そしてその目標達成のためには、肯定的に抱かれている「自由で開放的な競技」としての良い側面を、より一層アピールしていかなければならないとも感じた。分析3の結果については、ネガティブな要素をポジティブな要素に変える工夫をしていきたい。度を越えるのは問題だが、欧米人のバカンスが典型のように、適度に陽に当たることはむしろ健康に良いと捉えられているはずである。また、強い日差しをイメージされる競技だからこそ、日焼け止め商品を展開する化粧品メーカーなどにとっては絶好のPR の場となるはずである。現在も大会に協賛いただいている企業があるが、さらなるスポンサー拡充へと繋げていきたい。砂や泥で汚れるのは屋外競技の宿命であり、致し方のない部分である。だが、そのまま海に入って砂を流したり、ウエアを着たままシャワーを浴びられる分、ビーチバレーの洗濯は比較的容易であることを訴えたい。そして、プロツアー以外では水着も強制ではなく、インドアに近い4 人制では年配者も十分に競技を楽しめることを伝え、幅広い人々の健康維持目的にも向いているという理解を、一般的に浸透させていきたいと考えている。
*1)調査サンプルは、16 歳から40 歳までの男女10,000 人を世代・性別の均等割付によって抽出した。質問内容は大きく二つに分けられ、「自身のスポーツ経験」(学生時代の部活動、現在行っているスポーツ、および将来行いたいスポーツ)と「子供にやってほしいスポーツ」から成る。後者については、自分に子供がいると仮定して、男の子・女の子それぞれの場合について、やってほしいスポーツを5 種目まで挙げてもらった。調査実施期間は2009 年8 月21 日から31 日までの11 日間である。
*2)相関ルールは、データマイニングの代表的技法の一つであり、購買履歴データを基にしたリコメンデーションなどに利用されている。データマイニングは不確かなデータから有益な知見を導く目的に用いられるため、子供にやってほしいと考える親の人数がまだ不安定なビーチバレーを分析対象とするのにも適合的だと考えられた。なお【表1】において、Support は前提条件が全体に占める比率、Confidence は前提条件と結果との重複率、Lift はその値が1.00 より大きいほど有意であることを示す。
*3)調査サンプルは、男性および女性をそれぞれ”競技型””観戦型”に分けた4 層から125 名ずつ抽出した計500 サンプルである。競技型はバレーボール経験者、観戦型はテレビ中継でのバレーボール愛好者である。主な調査内容は、バレーボールとビーチバレーそれぞれに対するイメージ調査、およびビーチバレーに対するポジティブ意見とネガティブ意見についてであった。調査実施期間は2010 年1 月27 日から29 日までの3 日間である。
*4)SD 法(Semantic Differential Method:形容詞対尺度構成法)は心理学分野の代表的測定法の一つであり、想起概念の規定や、複数の対象間のイメージ比較などに用いられる。
*5)形態素とは単語の最小単位である。形態素解析はテキストマイニングの基本であり、たとえば「私は学校へ行く」を、形態素「私」「は」「学校」「へ」「行く」に分ける工程をさす。