日本のプロサッカー界におけるマネジメントの課題

研究員コラム
日本のプロサッカー界におけるマネジメントの課題
プロリーグ発足のルーツ

Jリーグが開幕したのが1993年であり、今シーズンで16シーズンを終えたこととなる。その間、平均の観客動員数、プロチーム数、プロ選手数、マーケット規模等、すべての面で順調に増加してきていると言える。また、ワールドカップを韓国と共に開催し、アジアで初のこの大会も大成功に終わった。わずか20年足らずの間にこれだけの発展を見せたプロリーグは、世界を観ても例がないのではないだろうか。
日本のJリーグがヨーロッパや南米の歴史と伝統のあるプロサッカーリーグと大きく違う点は、自然発生的に生じたものではなく、プロリーグという箱が創られてから、その中身を密にそして質の高いモノにしなければならないという点だ。たとえば、イングランドの場合、サッカーの試合が各々のエリアで行われるようになり、グランド周りの観客席を囲う柵や簡易の席を作るために来場者から料金を徴収するようになったが、そんなコストを遙かにしのぐ収入が得られるようになり、そのお金がより立派なスタジアムの建設や選手の報酬へ当てられるようになった。それがプロ化への始まりだそうだ。サッカーの質や人気がすでに高いレベルで存在し、その後ルールが制度化され、プロ化が進んでいったということだ。言い換えると、自然の歴史の流れにそったプロ化であり、必然であった。
一方の日本では、ワールドカップ開催・出場の為、国のサッカーのレベルを向上させ世界と戦えるようになるためのプロ化であり、ある意味、手段の一つとしてプロ化がなされた。Jリーグが出来、選手のメンタリティーや環境が大きく変わったことで代表チームも強くなったし、ワールドカップにも常連出場国となることができたことは誰も否定しない。しかし、それが為に抱える問題も少なくない。


プロサッカーリーグの3大収入源

プロサッカークラブの収入源は世界を見渡しても共通していて、 <入場料収入> <スポンサー収入> <テレビ放映権料> の3つが大きな柱となる。その他、グッズ売り上げ等も入ってくるが、経営を左右する要素はこの3つだと言える。ヨーロッパの場合、イングランドやイタリア・スペインリーグでは、テレビの放映権料が収入の4〜5割を占め、最も大きな要素となっているのが特徴と言える。しかし、経営をしっかりと安定させているのは、入場料収入が安定していることであり、このあたりはイングランドやドイツが群を抜いている。
一方の日本では、テレビの放映権料はJリーグが一括で管理し、各クラブへ分配する方法がとられているが、クラブの収入の10%にも満たない額であり、大きな柱は入場料収入とスポンサー収入であると言える。


日本プロサッカーが抱える問題

1998年に横浜フリューゲルスが横浜Fマリノスへ吸収合併されたことは、クラブがいかにスポンサー収入へ依存しているかを証明している。親会社の補填が無ければ1年も持たないことがわかる。もし、この時点で少しでも自立への足がかりを持っていれば、なんとか存続の道をさぐることが出来たかもしれないが、その可能性は皆無であった。現存する他のJリーグクラブも、スポンサー収入が半分以上を占めるクラブが数多くある。この状態が不健全であると言う理由は、スポンサーという以上、広告価値というモノを目当てに広告宣伝費としてスポンサー料を出費するわけであるが、一方で出費に見合った広告価値があるかというところで疑問がある。Jリーグの中継は2007シーズンから地上波での放映がなくなり、衛星放送であるスカイパーフェクTVが独占している。民放からは得られないテレビ放映権料がリーグとして得られた一方で、クラブのスポンサー収入に対する露出の機会と価値を失った。対等なスポンサーシップ<スポンサー料 = 露出価値>ではなく、クラブ側が頭を下げてスポンサーになってもらい、クラブを支えていただいているという言い方が当てはまる。景気の悪化や経営状況の悪化により、スポンサー料が払えなくなる企業がでてくるだけで、一気にクラブ経営も悪化し、傾いてしまうという構造なのだ。
入場料収入も、クラブが自立するには、まだまだ足りていない。ピッチ上で行われる試合がいくらお金を払ってでも観たい質をもっていれば、自然とお客さんもあつまり、入場料収入も上がっていくのだろうが、今のJリーグはまだまだそのレベルにはない。集客するためにチケットをばらまき、それでもスタジアムを埋めることに苦労している現状があり、チケットを額面通りに販売しているクラブといえば、浦和レッズぐらいではないだろうか。日本サッカーのレベルは急速に向上しているし、近い将来、よろこんでお金を払いたくなるレベルまで行くことは確信しているが、まだ時間はかかりそうだ。

試合の質が全て

今、Jリーグクラブがマネジメントをしていく上で抱えている問題と環境はこれらの部分にある。その中で、様々な策を考え実践し、少しでも入場料収入とスポンサー料を上げていく努力がなされている。
しかし、プロサッカーの本質を考えれば、試合(選手)の質を上げることが何よりもの収入源となることはヨーロッパのプロサッカーが証明してくれている。様々な奇策もあるかもしれないが、実はこのルートを採用することが、時間がかかるように見えるが最短の方法である。
この点を常に念頭に置きながら、クラブの経営はなされなければならない。ピッチ上の試合や選手達のクオリティーを下げるような、またはネガティブに働くような金策は、決してしてはならないと言うことだ。
日本サッカーが世界に肩を並べると言うには、まだまだ早く、やるべき事はたくさんある。
2008.12.02 02:11 AM | 投稿者:西野努